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  山姥切国広

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では主、行ってくる。




修行に出る奴らを、初期刀として何度も見送った。
一体彼らは、どんな思いを抱え修行に出て、戻ってきたのだろう?怖くはないのか?自分の過去と向き合うこと・・・。
美和はそんな彼らを、静かに見送り静かに迎え入れた。
陸奥守、蜂須賀、加州、歌仙・・・。
馴染みの打刀たちが旅に出て、全員が戻ってきた瞬間、彼らの顔つきは違っていた。
過去を受け入れ、未来と今の主である美和を見つめていた目だった。
みんな、俺よりも一歩前に進んでいた。
初期刀だった俺よりも、一歩前に・・・。

強くなりたいと思った。

これまで写しだと卑屈で生きてきた。
山姥切の写しとして生まれてきたことに対して、罪悪感があった。
それをかき消すように、自分は国広の第1の傑作であると、言い聞かせてきた。まじないのように・・・。

これで、いいのか?

心の中に宿るもう一人の自分が、問いかける。
他の奴らは前に進む。強くなるために。美和を信じて。
兄弟である堀川国広だって。きっといずれは、山伏国広だって・・・。

自室の真ん中であぐらをかいて目を閉じていた俺は、静かに目を開けた。
誰にも劣らないくらい、神経が研ぎ澄まされている。今なら・・・。
夕闇が迫る時間帯、俺は美和の部屋へ向かった。

美和。あんたの初期刀として、一つ頼みたいことがある。」

俺を見つめた彼女のその目は、もうすでに俺の願いを見透かしているような目だった。



では主、行ってくる。



そう短く告げて、俺はこの本丸をあとにした。
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匂い立つ、好きな香り





「うわぁーん。ぐしょぬれだよ〜・・・」

カラカラカラと本丸の玄関が開き、審神者の美和が入ってくる。万屋に用事があるからということで出かけた彼女だが、帰り際、突然の雨に見舞われたらしい。
美和の帰りを待っていた近侍の国広は、脱衣所からバスタオルを持って来て美和に渡してやる。少々恨み言も付け加えて・・・。

「だから折りたたみ傘でもいいから持って行けと言ったんだ。今の天気は変わりやすい。」
「だって、ちょっとそこまでの距離だし、そんなに時間もかからない用事だったんだもん!」

国広からバスタオルを受け取った美和は、濡れた体を拭いていく。ぽたぽたと髪の毛から雫がこぼれ落ちるのを見て、国広はため息をついてタオルを奪い取った。

「まずは頭からふいていけばいい。そうすれば、余計な雫が落ちなくてすむだろう?」

少しがさつに、国広らしくガシガシと頭をふかれる美和。少し痛いくらいであったが国広の優しさも感じ取り、少しだけクスっと小さく笑った。その瞬間、ぴたっと国広の手が止まる。もしかして今の笑いを聞かれてしまい、へそを曲げてしまったのでは?・・・と美和は心配する。
おそるおそる視線を上げると、国広の顔は怒っていなかった。

「国広、どうしたの?」
「あ、いや・・・」

少しだけどもり、彼はそっぽを向いて早口で言った。なんとなく、顔も赤い。

「あんたの髪から甘い香りが漂ってきて・・・。匂い立つ・・・とは、こういうことを言うんだろうか・・・と。いや、今のは忘れてくれ。俺はもう行く。三日月宗近に呼ばれていたのを思い出した。」

ばさっとバスタオルを頭からかけられて、美和の視界は真っ白な世界に包まれた。

「けど、嫌いな香りではないな。むしろ好きな香りかもしれない。」

そういう小さいつぶやきも聞こえたような気がして、美和は慌てて頭にかけられたバスタオルを取ったが、国広の姿はすでになく、その場にはザーっと雨が屋根をたたく音だけが響いているのだった。



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その目、気に入らないな



初期刀である俺と、主である美和が結ばれなかったのは、きっと俺のせいだとずっと前から確信していた。
いつも「写しだから」という俺に、美和は笑って「そんなことないよ」と言ってくれていた。俺はその言葉を無視しつづけた。そのたびに美和は悲しそうな顔をした。俺に対して無条件に開かれた無償の愛を、俺はばっさり切り捨ててしまったのだ。
それに気づいたのは、レア太刀の三日月宗近が来てからだった。

うちの本丸は、そこまで刀剣の数は多くない。太刀だって三日月宗近と一期一振くらいで、あとは打刀が俺と加州、大和守安定、短刀が何振かぐらいしかいない。
そんな中で美和へ急速に接近していったのが、三日月宗近だった。彼はおそらく、人間で言うところの「恋心」とやらを美和に抱いたのだろう。なんだかんだと理由をつけては美和にくっつき、話をし、一緒に散歩へと誘った。
美和もそんな宗近を信用してか、何かと相談するようになっていった。俺への相談が全くなくなったわけじゃない。宗近への相談事のほうがはるかに多い。今度の作戦から、プライベートなことまで。
美和の俺への態度が変わったわけではないけれど、いつもどおり俺へも優しくしてくれるけれど、それは宗近とは全く違うもので・・・。
宗近のそばで笑う彼女の笑顔を見るたびに、どうして俺はあの時、美和のくれた無償の愛を素直に受け取らなかったのかと後悔した。たぶん、三日月宗近はそんな俺の後悔に気づいている。彼の目が語っている。「主はお前には渡さない」と。

ある夜、俺は三日月宗近と話を終えた美和を自室へ誘った。話があるから来て欲しい・・・と。彼女は何の疑いもなく、小さくうなずいて笑った。その顔が、ちくりと俺の胸に突き刺さる。
部屋の明かりをろうそくだけにして、2人とも向かい合って座る。今日は天気も悪く、月のない夜だった。炎に浮かぶ美和の顔が、ぼんやりと魅惑的に俺の目にうつる。

美和、尋ねたいことがある・・・・・。その・・・・三日月宗近のことは好きなのか?」

一瞬美和はとまどった表情を見せ、ゆらゆらと視線を動かす。「あの、その」と意味のない言葉を繰り返した。ため息をつき、「正直に答えてほしい」と言葉を付け足すと、美和はじっと俺の顔を見た。そのままふわりと優しいまなざしをする。

「宗近のことは・・・好きだよ。」

まるで壊れ物を扱うかのような声でその名前を口にする。やわらかな目は、俺でなく宗近を見ている。美和の中に、俺の居場所は、もう存在していなかった。それが、彼女の愛を無視してしまった俺への代償だということぐらい、すぐに分かる。それでもやはり・・・・俺は彼女が急に欲しくなった。
美和を畳に組み敷いて、彼女の腕をそこに縫いとめる。静かに彼女を見つめると、状況を理解した美和は目を細めて小さく声を震わせ、聞きたくもない名前を呼んだ。

「宗近・・・・たすけてっ」

その、怯えたような目つきが気に入らなくて、俺は美和に言い放った。





その目、気に入らないな





美和と俺が結ばれないことぐらい分かっている。そうしたのは俺のせいだ。でも・・・今からその運命を、捻じ曲げてやる。
三日月宗近とは違った優しいキスを、俺は美和に送るのだった。


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すがるのなら俺にしろ



美和の初期刀・加州清光が折れたという知らせは、遠征から帰ってすぐに聞かされた。
加州清光は、この本丸の中で一番強かった。そして、美和の心の支えにもなっていた。きっとたぶん、人間の言葉で恋仲と呼ばれる関係だったんだと思う。本丸の中では皆、それを微笑ましく思っていた。俺をのぞいて・・・。

「・・・で、あの人は?」
「部屋にこもったきり。全く出てこない。部屋の前にご飯を置いてても、手がつけられてなかった。少しは食べてくれないと、彼女・・・病気になっちゃわないか心配で・・・」

光忠の言葉に、小さくため息をつく。
美和が部屋に閉じこもってから、まる2日が経過していた。食事もとっていない。部屋の外から話しかけると返事はするし生きてはいるようだと、光忠は言っている。
あの人が顔を見せないだけで、この本丸の活気は失われた。大切な主が姿を見せず、大事な仲間を失ったこの本丸はどうなっていくのだろうか。このまま彼女が姿を見せなかったら・・・。

「見てくる。」
「あ!ちょっ・・・国広君!今の彼女は加州君を失ったんだし、そっとしといたほうが・・・」
「しかしあの人は審神者だ。いつまでも落ち込んでられたら、こっちが困る。」
「それは・・・・」

言葉を返せなくなった光忠を背に、俺は美和の部屋へと歩き出す。
美和の部屋は静まり返っていた。呼吸さえも聞こえないくらいに・・・。名前を呼ぶが、返事はなかった。少しだけ、焦りが生まれた。もしも彼女が・・・死んでしまっていたら?
震える手で障子を開けると、美和は部屋の隅で丸くなっていた。静かに呼吸はしてるようで、俺は安堵する。

美和。いつまでそうしてる気だ。」

そばに座るが、彼女は丸くなったまま折れた加州清光を抱きしめていた。言葉は返ってこない。

「加州清光はもういない。それにもともとあいつは、刀剣の付喪神。美和とは違う存在なんだ。それはお前も分かっているだろう?それを承知で、お前は加州と恋仲になった。折れればいなくなると知っていただろう・・・?」

彼女が小さく頷くのが分かった。
俺は不器用だ。だから美和の気持ちにはうまく寄り添えない。俺の性格上、厳しい言葉しか彼女には投げかけられなかった。
美和がか細い声で「かしゅう・・・」と言葉を紡いだ。俺は彼女が抱きしめていた加州清光を取り上げて脇に置く。パッと彼女が身を起こして俺を見た。やつれた表情で、涙のあとを残す彼女は痛々しかった。小さく唇が呟く。「加州を返して」と。それはできない。加州清光はもう、折れてしまったのだから。折れた刀は・・・使えない。
白くて細い腕が、俺の脇に置かれた加州へ伸ばされる。俺はその腕をひっぱり、彼女を俺の腕の中へおさめた。そのままできるだけ強く抱きしめる。

美和、すがるなら加州じゃなく俺にしろ。加州はもう、いないんだ。折れた刀はしゃべれないし、美和を慰めることもできない。だけど俺なら・・・お前を慰めることぐらいはできる・・・」

ゆっくりそう言葉をかけると、美和は小さく泣き出した。声を押し殺して・・・。
そんな彼女の背中を優しくなでてやる。この悲しみを超えられたらきっと、彼女はいつものように笑ってくれるだろう。
美和が笑ってくれるのなら、俺の腕の中でたくさん泣くといい。その分俺がお前を慰めてやるから・・・。そう思ってしまう俺は、かなり卑怯なヤツだなと自分で小さく笑うのだった。





すがるなら俺にしろ




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★更新履歴★

18.08.17
刀剣乱舞 短編1つUP!(山姥切国広)
 




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