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2016.09.22  #47 ラストバトル <<11:43




美和を送り届けてから、黒塗りのリムジンは来た道を戻って行く。静かな車内であったが、アイギスがぽつりと呟いた一言に、美鶴も真田も顔を上げた。

美和さん、嬉しそうでしたね。もう、ここが彼女の居場所なのかもしれません。」

寂しそうにするアイギスに、美鶴は小さく笑ってみせる。

「違うさアイギス。本来、ここが美和の居場所なのさ。彼女はホームに戻ってきただけだ。12年の時を経て・・・な。」

美鶴が窓の外を見る。ちょうど、ガソリンスタンドの前を通るところだった。客も誰もいないガソリンスタンドで、一人の長身の青年がこちらを見ている。深々とかぶった帽子から見える瞳が、こちらに向けられている。
次の瞬間、彼が笑った。いや、彼というべきなのだろうか?抽象的すぎる顔立ちで、美鶴は少し戸惑う。そして、なぜ自分に微笑みかけたのかも分からない。首を傾げている美鶴の後ろの席で、急に真田が窓を開けた。焦った表情で窓から頭を出し、キョロキョロと辺りを見回している。

「どうしたんだ?明彦・・・。」
「い、いや。何でもない。ただ外を眺めていただけだ。」

ガソリンスタンドはもう、遥か遠くへ去っていた。真田は窓を閉め、座席に座り直す。
確かに感じた・・・。伊波座の気配を。一瞬だけだったが・・・。彼の中に住まうカエサルが、そう言った。



* * *


捜査隊メンバーの全員がそろった翌日、彼らは早速昨日の場所へと向かっていた。目の前に広がるのは、久保美津雄自身が生み出した世界・・・。どこかのRPGを思わせるようなゲーム画面。名前を『ボイドクエスト』。

「うっわ、何これ・・・」
「捕まえてごらんって言うくらいだから、ゲーム感覚なんだろうな・・・」

どん引きしている千枝の横で、陽介が小さく呟いた。
この世界はテレビの中に入った人間のイメージで形が成り立つ。久保は遊びのつもりでこの世界に人間を入れていたんだろうか?そんな疑問が美和の中で広がった。でも・・・あの生気のない、うつろな目は何なんだろうか?生きることに絶望し、死を望むような目。無気力症候群みたいな・・・。

「とにかく・・・行こう!これを解決すれば、事件は終結する!みんな、頼んだぞ!」
「任してくださいよ!先輩っ!」

燕の言葉に、完二の力強い声が上がる。他のメンバーも真剣な表情で頷いていた。
ゲーム、スタート!物語の真相を知るために。エンディングを迎えるために。
でも本当に、これで事件が全て終わるのだろうか?シャドウが絡む世界なのに、こんなにもあっさりと?
美和は何かしらのひっかかりを覚えながら、彼らの背中を追うのだった。


* * *


警察署内は刑事たちの怒鳴り声などで騒々しかった。久保美津雄。彼の行方が消えてから、もう数日立っている。これだけ久保に関する証言がそろっているはずなのに、未だに手がかり一つ掴めていない。まるで神隠しにあったみたいだ。

「神隠し・・・か。足立の言っていたことは、あながち間違いでもなかったかもしれんな。信じられんが。」

裏で誰か、糸を引いているやつがいるのか?そんなわけないだろ。これだけ大掛かりな殺人を、何の証拠も残らずなせるはずがない。雑踏の中で堂島は目を閉じた。
ふいに、この前省吾と電話で話していたことを思い出す。

(ペルソナ・・・か。)

人は常に役割を持っている。堂島には刑事として、そして父親としての役割。その仮面が剥がれれば、本質は何だろうか?
仮面の下には、何が広がっている?それは多分、自分の欲望だろう。その欲望に仮面という枷をつけて、人間は偽りの生活をしている。もう一人の自分・・・。

「マヨナカテレビ・・・・」

今稲羽市で噂になっている番組。雨の日の午前0時、消えてるテレビを見ると運命の相手が映るという噂の・・・。聞いたところ、そのマヨナカテレビと呼ばれるものにこれまでの失踪した被害者・・・天城雪子、巽完二、久慈川りせは映った。それも、本人たちとは全く違う人格の姿で・・・。もしかしたら、その姿が彼らの本質なのかもしれない。仮面を失った彼らの・・・。そしてその3人は帰って来たとたん、なぜだか燕や美和と親しくなっていた。
刑事の勘が何かを告げている。美和のもらったペルソナ(役割)。仮面。仮面の下の自分自身。マヨナカテレビ・・・。
彼の中で何かがつながりそうだった。

(もう少し・・・。もう少しで何かが・・・・!)

「堂島さんっ!」

不意に自分のことを呼ぶ声に、堂島はハッとした。目の前におろおろした足立が立っていた。彼に聞こえないよう、小さく舌打ちする。もう少しで何かがつながりそうになっていたのに。

「何だよ、足立。」
「久保美津雄の捜索、僕たちも手伝っていいそうです。署内に待機してる刑事はすぐに久保美津雄の捜査にあたれって、上からの命令で・・・」
「チッ・・・。今更かよ!行くぞ足立!」

机の引き出しから車の鍵を乱暴に取り、堂島は立ち上がった。相変わらず足立は、おろおろしながら堂島のあとをついていく。しかしそれは、足立の完璧な演技だったことに彼は気づかなかった・・・。



* * *


警察が彼を探している最中、テレビの中の世界では、ボイドクエストに挑戦していた捜査隊のメンバーたちが城の奥へと到着していた。美和不在の間に、彼らは密かに自分たちのレベルを上げていたおかげで、なんなくこのダンジョンを突破する。
一番大きな茶色の扉を開けた瞬間、オレンジ色の服が目に飛び込んでくる。いつも通りの光景。久保美津雄が二人いる。どちらかが本物で、どちらかがシャドウ・・・。一人の久保が、もう一人の久保に語っていた。全部、自分がやったんだ・・・と。もう一人の久保は、それを黙って聞いていた。そのまま告げる。「僕は、無だ」と。

「え。どっちがシャドウで、どっちが本物の久保なの?」

判別がつかなくて、千枝が戸惑う。一人の久保は、「無」と言う言葉を繰り返す。すごく静かであった。この静かさに美和は恐怖を覚える。
無・・・。何も感じず、何も考えず、ただそのまま死を待つだけの存在・・・。死すらへの恐怖もない・・・。むしろ死を待ちわびてるのかもしれない。無の先にあるものは・・・無だ。無の先には、転生すらない。

(ただ、死を待ちわびるだけの存在なんて・・・。)

人間は、無ではいけないのだ。魂は流転する。それは美和がたどり着いた命の答え。久保のシャドウは、その考えに相反するもの。だから・・・怖かったのだ。

「無では・・・いけない。無になってしまえばそれは、ただただ死を待ちわびてるだけの存在になりうる。無の先に待つものは無よ。ワイルドの称号を得た私は、それを許さない。魂は常に流転する。終わりを迎えた魂は、再び何らかの意思を持ち、そしてまた生まれ変わる。」
「悪いな久保のシャドウ。俺たちはそいつを現実世界へ連れ帰って、罰を受けてもらわなきゃなんねぇーんだわ。」

陽介が小さく笑った。小西先輩を殺した犯人。なぜ殺したのかも聞かなければならない。だから今は・・・!
彼らに気づいた久保が振り返る。そのまま大きく目を開いた。

「お前ら・・・!なんでこんなところに・・・!」
「あんたが犯人なんでしょ!この事件の!」
「はははは・・・。そうだよ。全部俺がやってやったんだ!」

そのまま久保が、シャドウを振り返る。

「偽物が何言おうが関係ない!お前なんか知らない!消えろ。俺の前から消えろーーーー!」

その瞬間、久保のシャドウが小さく笑ったのを美和は見逃さない。ブルッと寒気がした。どこまでも冷たいその感覚は、シャドウ久保から放たれている。
これまでのシャドウたちとはまた違った感覚で、美和の中で眠るオルフェウスとタナトスが小さく震えた。

美和・・・・こいつは・・・危険だ・・・。』
『彼の裏には何か、大きな存在が・・・』

不意にそう、あの人と望月綾時の声が聞こえて彼女はハッとする。

(聞こえるはずがないのに・・・今、あの人たちの声が・・・。なぜ?)

もしかしたら彼らは、美和に警鐘しに来たのかもしれない。シャドウの世界は、あの宇宙の片隅とどこかで必ずつながっている。それともただ単に、美和自身が思い込んでいるだけなのかもしれない。彼らはいつでも一緒にいてくれて、見てくれている。危険があれば知らせてくれる、そんな存在なのだと。
久保のシャドウは本物の久保を退け、ムクムクと大きくなっていく。
そのシャドウが形作った時、燕とみんなの声が上がった。これが・・・・ラストバトル。
みんな、そう願っていた・・・・。





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2016.09.22  #12 わたしとわたし <<01:04




旅館を継ぎたくない。
自由に生きたい。ここから出たい。助けて・・・助けてよ。
誰か私をここから連れ出してほしい。
それは私の心の底からの願い。私はずっと、もう一人の私を押さえつけていた。
それはいい子でいなきゃいけなかったから。頭がよくて、聞き訳がよくて、そして誰にでも好かれること。
いつしかもう一人の私は、悲鳴を上げた。




真っ赤な炎が上がる中、少年たちは武器を構えてその炎を見るだけ。炎が牙を向いたとき、コロマルは千枝をかばい、美和は陽介をかばった。燕はギリギリで攻撃をかわす。シャドウ雪子はにやりと笑った。まだ一つもダメージを与えていない。どうしても隙がつけないのだ。敵の動きが見極められない。ぎりりと燕は唇をかんだ。

「ちっくしょぉー・・・こっちはやらっれっぱなしかよ!」

陽介が怒りの声を上げる。確かにこのままではやられっぱなしで、攻撃も加えられない。それにこちらにはペルソナを使う制限がある。ペルソナは精神力と体力を激しく消耗する。このままペルソナを使い続ければ、いつしか体力と精神力を使い果たし、気を失ってしまうだろう。
美和は少し考えてから、武器を投げ捨てた。

美和!?」
「お、おい……美和?」
「え・・・美和ちゃん?」

燕と陽介、千枝の三人は彼女の行動に目を疑った。美和はふわりと笑ったあと、彼らに言う。

「私があの子の弱点を突く。あの子の弱点は氷結系の攻撃よ。私は氷結系のペルソナに変えてあの子の弱点をつくから、みんなはその間に攻撃を加えて。でも気をつけて欲しいことがあるの・・・。」

そこまで言って、美和は目をそらす。彼女が目をそらした意味を燕は理解して、小さい声で呟いた。その言葉に、陽介も千枝も振り返って燕を見る。

「氷結系のペルソナに変えると、火炎系の攻撃に弱くなる。」
「・・・ええ。そういうことね。」

美和は視線を元に戻した。まっすぐみんなを見て、燕の言葉に頷く。その作戦は危険性が高い作戦。ひとつ間違えば、美和が大ダメージを受けてしまう。陽介と千枝は反対したが、美和は譲らなかった。
ずいと彼女は前に出るとペルソナを変える。青い光が彼女を包み込んだ。氷結系のペルソナ、キングフロストがうっすらの彼女の影に浮かびあがる。こぐりと三人はつばを飲んだ。

美和やるのか?本当に・・・」

心配して燕が声をかけると、美和は笑って答えた。

「ええ。大丈夫よ、だって私、信じてるもの。みんなのこと。そして自分のことも。」
「えっ・・・信じてる?」

言葉を反芻すると、こくりと美和は笑ったまま頷く。そのままキリっと鋭い目をしてシャドウ雪子を捕らえる。今倒すべき相手は、シャドウ雪子だけ。

「分かった。みんな、行くぞっ―――――――!」

大きく燕が叫ぶのを合図に、燃え盛る炎をかわしながらみんなは走った。美和が片手を上げて、ペルソナを発動する。

「ペルソナっ・・・!来て!キングフロスト!ブフーラっ!」

美和の背後に浮かび上がったキングフロストは、彼女の言葉に合わせてブフーラを放つ。
氷と雪の塊がシャドウ雪子に向かい、一瞬だけど彼女の動きが止まった。それを見ていた燕、陽介、千枝、コロマルの四人はすぐさま攻撃を加えた。

『どうしてっ・・・どうして私が消されるの!?私はただ、自由になりたいだけなの!どこか遠くへ行ってしまいたい。ただ、そう願うだけ!雪子の中に入ったままじゃ、どこにも遠くへいけないの!』

悲痛な叫びがあたりに響きわたった。その声に、みんなは顔をゆがめる。ここにいるみんなは、ずっとシャドウの叫びを聞いてきた。シャドウが悪いわけじゃない。もう一人の自分の気持ちに気付けなかった自分自身が悪いのだ。もしくは気付いていて、無視し続けたこと・・・それも悪い。

「ごめ・・・ん、ね。」

ふいにか細い声がする。声のした方向を見れば、和服姿の雪子がふらつきながらも立ち上がろうとしているところだった。千枝が彼女の名前を呼んでから、すぐに雪子を支える。

「雪子・・・・」
「千枝・・・ごめんね。シャドウの私も、本当にごめんね。」

涙を浮かべながら雪子は謝った。彼女はシャドウ雪子の元へふらつきながらも歩いていく。ぴくりとシャドウ雪子は身を引いたが、雪子は小さく笑顔を浮かべながらシャドウ雪子へと踏み出していく。そうして二人の距離は縮まった。いつしかシャドウ雪子の頬には、雪子の温かい手が添えられていた。

『今更何なのよ・・・。なんで謝るのよ。どうして私を嫌いにならないの?私はあなたを苦しめたじゃない。あなたの大切な友達に攻撃したじゃない。なのになんで・・・なんで謝るの!?』
「私だって・・・私だってあなたを苦しめた。気付いてたのに気付かないふりをしてた。旅館をつぎたくない。ええ、そうね。それは私のホントの気持ち。私はいつもどこかに行っちゃいたいって考えてた。でも世間体とか、自分に対する評価とか、そんなのばっかり気にしてて、いつもいい子でいなきゃいけないって、そんなことばっかり考えてて、いつしか本音を言いたい自分を押し込めてた。傷ついた自分を癒せるのは、やっぱり自分だって気付いたの。ごめんね・・・雪子。」

雪子はもう片方の手もシャドウ雪子の頬へと添える。シャドウ雪子は最初は怒りの表情を浮かべていたが、だんだんはにかんだ顔をして一言だけ雪子につげた。

『雪子の―――――馬鹿。』

それを聞き、雪子は微笑む。彼女の前にいたシャドウ雪子はまばゆい光に包まれ、そして姿を変える。
もう一人の自分と分かり合えた時、裏の自分は表の自分を支える力となる。表の自分と裏の自分。それはいつも表裏一体で、その二つを含めて全部が自分。雪子はちゃんと、それに気付けた。

コノハナサクヤ。

それが彼女の新しい力。ペルソナという・・・。
ガクンと膝を折って雪子が崩れ落ちる。驚いた千枝がすぐさま彼女の元へと走った。雪子のそばにきて、心配そうに声をかければ、疲れた顔をしながらも雪子は笑った。

「ごめんね千枝。私、とっても汚い人間だよね・・・。」

それを聞いて千枝が首を振る。燕も陽介も、美和も一緒に首を振った。汚い部分がない人間なんて、どこにもいない。燕だって陽介だって、千枝だって、そして美和だって、みんな雪子みたいな一面を持っているのだ。

「雪子、私だって酷い人間なんだよ。だから・・・私もごめんね。」
「千枝・・・。」

二人は分かり合ったようにお互いを抱きしめる。安心したように陽介は表情をゆるめ、燕は静かに笑って美和を見た。彼女もにっこりと笑う。コロマルが一件落着だというふうに、「ワオーン!」と高く吼えた。それを聞いたとたん彼女は安心し、ゆるゆると気を失って千枝にもたれかかる。

「雪子っ!」

千枝は慌てるが、彼女にもたれかかって目をつぶる少女は、とても幸せそうな顔をしていた。


* * *


「それじゃ、俺、里中と一緒に天城を家に送っていくわ。」
「大空君、御陵さん、今日は雪子のことでありがとう。また明日、学校でね。」

雪子をおぶった陽介が、燕と美和に背を向けて歩いていく。千枝もそれに続いた。燕は片手を上げて「ああ。また明日」と言い、美和も小さく手を振った。
三人はだんだん、大きな夕日の中へと消えていく。その姿を、二人はずっと見ていた。「ウウウ・・・」とコロマルが声を上げだしたので、美和は燕を促す。

「燕、私たちも帰ろう?帰ってご飯の支度しなきゃ。ナナちゃんも待ってると思うし。」
「ああ、そうだな。」

そう言って、二人は歩き出す。商店街の道は誰もいなくて、シャッターを閉める音が響くだけ。カツカツというコロマルの爪音だけが聞こえる。二人の間に会話はなかった。美和美和で考え事をしていて、燕は燕で物思いにふけている。
彼女はこの前届いた真田からのメールのことを考えていた。力になるからと言ってくれた真田に、どう返事を出せばいいか分からず、結局美和はメールを返していない。

2年前、シャドウのことではだいぶ苦しんだ。でも、真田はその前から苦しんでいた。天田乾の母親を、ペルソナの戦いで誤って殺してしまったこと。その直接の原因であった荒垣を、2年前の戦いで失ってしまったこと。けど、それを乗り越えて真田は強くなった。強くなって、再び美和に力を貸そうとしてくれている。だけど・・・真田の力を借りるのは、きっと間違っている。
再びペルソナ使いとして選ばれたのは美和自身。戦いの舞台として新しく選ばれたのは八十稲羽。今回新しく選ばれたペルソナ使いたちだっている。美和はちらりと横を見た。横にはしっかり前を見つめる燕がいる。きっとこれは、私たちの戦い。だから・・・美和は自分の中で結論を出す。
その横で、燕も考えていた。
今まで陽介、千枝、雪子のシャドウを見てきた。彼らはもう一人の自分をペルソナへと変えてその能力を得た。では自分は・・・?どうして自分はそんなことがなかったのだろう。なぜいきなりペルソナに目覚めたのだろう?
陽介は言った。燕にはきっと、押さえ込んでいる自分がいないのだと。心が綺麗なのだと。それは違う。自分にだって、隠したいことぐらいある。言えない本音だってある。ペルソナを次々と付け替えることのできるこの能力。特殊な力。みんなとの違いは何だ?その答えを知るための手がかりは、美和なのだろうか?彼は口を開いた。

美和。聞きたいことがある。どうして俺の能力は、陽介たちとは少し違うんだ?どうして美和は、俺と同じ能力を持っているんだ?」

不意にそう聞かれて、美和は立ち止まった。燕も立ち止まり、じっと凪を見る。コロマルが小さく唸ったが、燕は何も気にしない。コロマルがそのまま美和に擦り寄った。彼女はフッと笑ってしゃがみこむ。コロマルの頭をなでながら、美和は燕の疑問に答えた。

「それはきっと、燕が特別な存在だから。あなたなら、答えにたどり着けると私は信じてる。私が燕と同じ能力を持っているのは・・・私だけがたどり着く、答えが存在していたから。その答えは―――――――とっても綺麗だったよ。」

美和は再び立ち上がって、柔らかな微笑みを浮かべながら燕に言う。その光景が彼の中に焼きついて、家に帰っても忘れることができなかった・・・。


* * *


From 美和
Sub お心づかい、ありがとうございます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
真田先輩、お元気ですか?私もコロマルも元気で過ごしています。
今回の稲羽市の事件、先輩の睨んだとおり、ペルソナとシャドウに関係しています。でも・・・大丈夫です。あの人が私に力を残してくれました。それに、私一人じゃありません。素敵な仲間ができました。
今回選ばれたのは私たちです。だから・・・これは私たちの戦いなんです。ごめんなさい。今はこんなことしか言えない。だけど、真田先輩の力が必要になったら私、ちゃんと先輩に言いますから。


パタンと真田は携帯を閉めた。静かに笑って、小さく呟く。

「変わったな、御陵美和。お前は前よりも強くなったよ。俺以上にな。」






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2016.09.22  #11 心の内から叫ぶもの <<00:50




雪子救出隊は今日もジュネスの家電売り場から異世界へと進入する。
本当は干渉してはいけない世界だった。けれども、誰かがこの世界に干渉している。それを止めなければと、美和は思う。このままこちらの世界が膨れ上がってしまったら・・・。あの恐怖と悲しい出来事を繰り返してしまうかもしれない。
ズサリとシャドウを切り落とす。敵は煙となって消え去った。

「もう!どこまで行けば雪子のところへたどり着けるのよ!」

すらりと綺麗な足がシャドウにヒットする。千枝はイラつく心をシャドウにぶつけるように蹴った。最後に燕がジオで敵を一掃すると、戦闘は終わる。みんな肩で息をしていた。

「あとどのくらいいけばいいんだよ。」

陽介が呟くと、クマのサポートが入る。

「みんな、頑張るクマよ!!雪ちゃんの反応が近いクマっ!」
「反応が近い・・・?ということは、この上か・・・。」

そう言う彼は、目の前にある階段を見上げた。この場所に来るまで、すでに4日かかっている。
まだペルソナをうまく扱えない千枝や陽介にペースを合わせていたので時間がかかってしまったのだ。でもそれは仕方のないことだと美和は思う。
ペルソナは今まで使ってこなかった力であり、それよりもペルソナに目覚めること自体が異常なのだ。使いこなすには時間がいる。でも・・・。美和は階段を登るチームのリーダーに目を向けた。そう、彼は特別だった。まるで、目覚めることが当たり前だったかのようにペルソナを使いこなす。昔のリーダー・・・あの人と何もかもがそっくりで、美和は戸惑いを覚えるばかり。

(でも彼はあの人じゃない。燕は燕。なのに私・・・。)

振り返る彼の顔が昔のリーダーと重なってしまう。

美和・・・?」

燕に腕を掴まれて、彼女はハッと我に返った。

「大丈夫か?ぼっとしてたぞ。美和にもだいぶ負担かけてるし、疲れたなら・・・」
「大丈夫よ。それより早く、雪子ちゃんを助けましょう。何があるか分からないし、今だったらまだ、千枝ちゃんも陽介も大丈夫みたいだから・・・。」

ちらりと二人に目を向けると、「雪子!」と叫びながら千枝が階段を駆け上がっていった。

「ったく!あれだけ一人で行くなっつったのに!」

舌打ちしながら陽介も千枝のあとを追う。コロマルもそれに続いた。

「どうやらあの三人、帰る気はないみたいね。」

彼らのうしろ姿を見送ってから、美和はいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「そうみたいだな。仕方ない。行こう、美和。」

つられて燕も笑うと、彼女の手をぐいと引っ張り、三人のあとを追って走った。
階段を登りきると大きな扉があり、その扉はすでに開かれていた。扉の向こうには大広間があり、燕と凪はそこで千枝たちと合流する。視線を前に向ければ、青くまがまがしい光を放つ雪子がいた。

「雪子・・・・。」

「あら?あらあらあら?まぁ、王子様が4人も!待ってたのよ、私の王子様・・・。」

その瞬間、千枝が苦虫を潰したような顔をして唸る。

「え?ええええええええ!?私も王子様なのっ!?」
「・・・・私もね。」

彼女の訴えに合わせて、美和も一緒に苦笑した。すると、ずいとクマとコロマルが1歩出て、「3人目と4人目はクマとコロマルでしょ!」と怒鳴る。陽介が絶対違うと呟いた。目の前の雪子はすっと目を細めると千枝を見る。

「うふふ、待ってたのよ千枝。千枝は私の王子様。私のことを守ってくれるナイト・・・。でもね、結局千枝じゃダメなのよっ!旅館の娘だから若おかみ・・・?そこに生まれたから私の生き方は決まってる?そんなの私いやよ!誰か私をここから連れ出して欲しい。連れ出してくれる人を待ってた。それは・・・あなたなのかしら?」

千枝から視線がはずれ、雪子は燕を見た。ぞっとするほど冷たい瞳、黒いオーラ。これは雪子ではない。ギリリと燕が唇を噛むと、「待って!」というか弱い声が上がった。頭を抑え、ふらふらと歩いてくるのは本物の雪子だった。

「雪子っ!」
「千枝・・・みんな・・・」

彼女は苦しそうな表情でみんなを見た。フンともう一人の雪子は鼻を鳴らす。

「何よ。今更あんたが出てきたって、私は止められない。私はもういやなのっ!あんたに縛り付けられるのは。心の奥底では、旅館のおかみなんていやだと思ってるくせに。もっと自由に生きたいって思ってるくせに、いつもあんたは思うだけ。旅館のおかみなんて・・・クソくらえだわっ!」

もう一人の雪子――――――シャドウ雪子は吐き捨てるように言う。雪子は絶句した。息をのみ、「なんてことを!」と唇を震わせて叫ぶ。それでもシャドウ雪子は高らかに笑って大きく言った。

「私は・・・自由になるのよ!旅館なんて継がない!私は私の意志で生きるの!」

それはきっと、雪子がずっと叫びたかった言葉であり、口にできなかったこと。雪子は目を大きく開いて言葉を小さく紡ぐ。「違う」と3文字。美和はこの言葉にこめられた意味を悟った。

そんなふうに思ってない自分。そして、そんなふうに言う自分。違う。それは否定の言葉。

「ちがう・・・わたしは・・・そんなこと・・・・思ってない。私はちゃんと旅館をつごうって思ってる。そんなふうに言うあなたは・・・あなたはっ―――――――」

泣き出しそうな表情を浮かべて、彼女はまっすぐシャドウ雪子を見た。「あっ」と燕たちが声を上げる。まもなく、雪子はもう一人の自分に向かって、否定の言葉をぶつけた。

「私なんかじゃないっ!」

その瞬間、空気が凍りつく。下を向いていたシャドウ雪子は小さく笑い、目を光らせながら顔を上げた。

「っ!来るわ、みんな・・・」

びりびりと伝わってくるシャドウの雰囲気を感じ取り、美和はペルソナに不慣れな千枝と陽介に言った。
シャドウの力が大きくなるにつれ、本物の雪子の意識はだんだんと薄れていく。彼女が完全に意識を失った時、シャドウ雪子は本来の姿へとなった。

「ゆき・・・こ・・・・・。」

千枝が声を震わせて彼女の名前を呼ぶ。シャドウはギロリと千枝をとらえると、高く笑って嬉しそうに言った。

「千枝、こんな私だけど、千枝はずっと友達でいてくれるよねっ!友達なら・・・死んでよ千枝!」
「あぶないっ!!」

すんでのところで美和が千枝を突き飛ばし、代わりに攻撃を受けた。陽介と燕が鋭く叫ぶが、美和は平気な顔をして体勢を立て直した。
彼女のペルソナはかつてのリーダーから受け継いだペルソナ。どんな炎にも負けない、強い光と炎をまとったペルソナ、オルフェウス。

「大丈夫。私のペルソナは火炎属性よ。火炎の攻撃なら、その効果を打ち消す。」

ホッと燕と陽介の二人は胸をなでおろした。
シャドウ雪子は不敵な笑顔を浮かべたまま千枝を見ていた。その視線に美和は気付く。ひゅっと唇を鳴らすと、耳をぴんと立てたコロマルが千枝の前に立った。

「え・・・?」

彼女はコロマルのうしろ姿を見たまま首をかしげる。千枝を守るように立つコロマルは、彼女の顔を見たあと高く吼える。その声と重なるように美和が背を向けたまま言った。

「千枝ちゃん、火炎系は弱点でしょ?雪子ちゃんは千枝ちゃんを狙ってる。彼女は火炎系なのよ。本当はこの戦闘にあなたは参加しないほうがいい。だけど、雪子ちゃんの一番の友達は千枝ちゃん・・・。今はあなたの声が必要な時だわ。コロマルに火炎系の攻撃はきかない。だから彼は、あなたの盾となる。」
「ワフっ・・・!」

任せろというふうにコロマルは鳴いた。陽介は息をのんでから美和に尋ねた。

美和・・・こんな短い間にそんなに分かったことがあるのか?」
「ええ・・・。ペルソナを使ったのも、シャドウと戦ったのも初めてじゃないから。」

彼女は武器を構えなおして言う。クマが「あっ」と声を上げ、全員に向かって叫んだ。

「こ・・・攻撃が来るクマっ!」
「全員、防御体勢!」

クマの声に合わせて燕が大きく言う。シャドウ雪子は炎を手の中に集めていた。そのすぐそばで倒れる本物の雪子の姿が千枝の視界に入ってくる。

(雪子・・・雪子は私が―――――――助けるっ!)

シャドウ雪子から、赤々と燃え盛る炎が放たれた。




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2016.09.22  #10 不安と焦り <<00:40



幾千の星と深い闇の中で、輝く光がある。彼が奇跡を起こした場所に美和はいた。
あの時見た、奇跡の瞬間。彼が指を上げた時、彼女は叫ぶ。

「せんぱいっ!」

彼がこっちを見て言った。

「イ  ザ  ナ  ミ  。」



ピピピピピ・・・・・・

美和は掛け布団を蹴飛ばして跳ね起きた。目覚まし時計が5時をさし、いつもの聞きなれた音を発している。彼女はベッドの下に落ちた掛け布団を引っ張り上げ、ため息をついた。
最近この夢をよく見る。心を落ち着かせようと目を閉じ、ゆっくり息を吐き出す。
時として、夢とペルソナはつながっていることがある。彼が言った「イザナミ」という言葉。何かつながりがあるのだろうか・・・?
ごそごそと美和は布団から這い出して伸びをした。


* * *


「ふぁ~ぁ~・・・。」

2年の教室で、陽介は大きいあくびをする。昨日はたっぷり寝たはずだった。それなのに、体のだるさはいまだに抜けない。ペルソナを使うということがどんなに大変なことなのか実感した。

「おはよう花村。」
「大きなあくびねぇ、花村君。」

ガタガタと音を立て、燕と美和の二人が荷物を置いてそれぞれの席に座った。
陽介は机に突っ伏したまま、じっと横に座る美和の整った横顔を見る。
まつげが長い。唇も赤く、そこからもれる吐息が甘く感じる。よく見れば日本美人というものだと陽介は思った。派手じゃないけど純粋な色を思わせる少女。都会にいた時、月光館学園の女子はレベルが高いと聞いたことを思い出した。

(ヤマトナデシコって感じだな、御陵って。陰のファンがいそうだよなぁ~。)

そう思いつつ、今度は前の席に座る燕を見る。こちらもなかなかの美男子だ。このルックスにクールな性格だから、燕もモテるだろうなぁと陽介はぼんやり考えた。
美和と燕。
二人がくっつけば、美男美女カップルのできあがりだ。

「ん?どうした、花村。」

彼の視線に気付き、燕の手が止まる。

「あ、いや。別に・・・・。」

陽介はふっと視線をそらした。そらしてみて、なぜ自分が視線をそらさねばならなかったのか考えた。そらす必要なんかない。ただ、二人がくっつけばお似合いだと考えながら見ていただけだ。そのまま笑って、燕に言えばよかった。「大空と御陵ってお似合いだよな。」と。だけど、それができない。
認めたくない。燕と美和の関係を。もっと美和のそばにいたい・・・。
彼はその時ハッとした。この前感じたイライラ感。あれは燕に美和をとられてしまいそうだったからなんじゃないかと。

(はは・・・まさかな。そんなわけない。だって俺と御陵は出会ったばっかだぞ?)

自分の中にほのかに灯った光は、恋という名の光なんじゃないのか?認めてしまうのがなぜだか怖かった・・・。

「あの、おはよう。」

しばらくして、陽介のそばに影が落ちた。おずおずとあいさつした人物を、燕、陽介、美和の3人が見る。
里中千枝。昨日ペルソナを得た仲間の1人。昨日と変わって顔色はよく、唇にも千枝らしい血色が戻っていた。

「おはよう千枝ちゃん。昨日はぐっすり眠れたでしょう?」

笑って美和が言う。少しいたずらっぽい口調に、千枝もはにかんだ。

「うん、すっごい疲れたから、かなり寝ちゃった。おかげで今日の数学の宿題終わってないんだぁー!マジやばい。」
「よかったら見せようか?」
「ホントっ!?ありがとぉー大空君!!」

ワイワイと騒ぐ3人。
ここで水を差すのもなと陽介は思い、雪子のことやペルソナの話をすることを控えた。すると突然、さっきまで騒いでた千枝がぴたりとおとなしくなる。3人は目をぱちくりさせ、「どうした?」と声をかけた。

「ううん、あたし嬉しいの。だって昨日のもう1人のあたし、見たでしょう?あれは全部あたしの本音。本音で生きてるあたし。でもそんなあたしを見ても、みんないつもどおり接してくれる。それがね、嬉しいの・・・。」

千枝はこっそり涙をふいた。そんな千枝の手を包み込んで、美和は言った。

「当たり前よ!本音を知ったからって、千枝ちゃんががらっと変わるわけじゃない。本音なんて誰だって持ってるの。私だって・・・。でも、思うことや考えることは自由だから。」

にぎられた手から、美和の温かい熱が伝わってくる。やわらかくて、心地よい。これが彼女の心の力なのかなと千枝は感じる。

ペルソナ

美和のペルソナはとても温かかった。

御陵さん・・・。あのさ、あたし御陵さんのこと『美和』って呼んでいいかな。」

ふいに千枝がそう問えば、美和は嬉しそうに「いいよ。」と答える。それに便乗して、燕も小さく彼女の名前を口にした。

美和・・・・。」
「えっ・・・?」

彼女は驚いて燕を見る。その呼び方が、あまりにもあの人に似ていたから。

「あ、ごめん。」
「い、いいの!大空君がいいと思うなら、名前で呼んでくれても。ただ、知ってる人と呼び方が似てたから、ちょっとびっくりしちゃって・・・。」

懐かしそうに目を細める美和に、燕は少し寂しくなった。彼女はいつも誰かを見ている。誰かの影を追いかけている。戻らない誰かを・・・。

「そうか。それなら美和も俺のことを名前で呼んでくれてもかまわない。」

誰を見ているか分からない瞳に向かって、彼は言葉を紡いだ。美和の瞳が燕をとらえる。そして世界に戻ってきた。

「うん、じゃあ名前で呼ばせてもらうね。」

微笑んで美和は言った。そんな2人の間に1人の人物が割り込む。

「あ、御陵。俺のことも名前で呼んでくれても大丈夫だかんな。その代わり俺だって名前で呼ぶし。」

花村陽介はいつもどおりの口調で述べる。内心はドキドキしていた。女子の名前なんて、呼び捨てで呼んだことがない。呼んでもせいぜい苗字くらい。

「ええ、分かったわ陽介。ちょっと恥ずかしいね・・・。」

顔を少し赤くして美和が言ったので、陽介も赤くなりながら「そうだな。」と相づちをうった。二人を見て、千枝は「お?」と思う。雰囲気が付き合い出したカップルみたいな感じのものだったから。

(あれれ・・・?もしかして花村って・・・・)

そのままニヤけて思う。
彼はもしかして、美和に淡い恋心を抱いているんじゃないかと。その横で、燕は複雑な気分だった。やっぱり陽介と美和の間には、二人にしか見えない絆があるように思えて。まだ自分と美和の間には、何の絆もない。その場でただ、焦りだけが燕を駆り立てていた。




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2016.09.22  #9 自分との絆の力 <<00:28




あんたなんか、あたしじゃない。

千枝は全力でもう一人の自分を否定した。それに合わせて、シャドウ千枝はだんだんと力を増していく。その力を前に、千枝本人は意識を失った。本物の千枝がシャドウ千枝の存在に押されている証拠。
黒い光が飛び交い、そして現れたもうひとつの邪悪なる存在に、燕たちは唾を飲んだ。

「これがもう一人の里中なのか・・・?」

あまりの邪悪さに、陽介は呟いてしまう。
自分だって同じことを経験したし、邪悪なる存在を、裏の自分を認めたはず。だけど実際目にしてみたら、信じられないほどだった。人間のどこにこんな邪悪なる影がいるのだろうか・・・?

「えぇそうよ。これがもう一人の千枝ちゃん。だけどこれも私たちが知っている千枝ちゃんの一部なのよ。」

冷静に美和が言った。
彼女の言葉に陽介がニッと笑い、「そっか。そうだよな!」と付け足した。その横で燕も頷き、コロマルもクマも同意する。

「よし、じゃあ行くぞ。みんな!」

シャドウ千枝が燕たちを敵視した時、リーダーである彼は大きく叫んだ。

「ペルソナーッ!!」

みんなのもう一人の自分を呼ぶ声。呼ばれた自分はゆっくりと目覚める。
心の海からいでし者。シャドウを打ち負かす力。

『どうして邪魔するのよ!?あたしは自由になりたいだけ!!』

シャドウ千枝を阻む者たちに、彼女は叫んだ。
千枝という人間の中に押し込められ、出てくることさえ叶わなかったもう一人の自分。傷つくのは千枝じゃなく、『千枝』だった。いつも、いつも、いっつも!それが苦しくて悲しかったのに、千枝は全く気づいてくれなかった。いや、気づいているはずなのに、ずっと目をそらしていた。それがとっても悲しくて・・・。

『あんたたちに、あたしの・・・シャドウの気持ちなんか・・・!』
「えぇ、分からないわよ。」

彼女の悲痛な叫びに、美和の声が重なった。
青い光を纏(まと)ったまま、美和は冷たい声でいう。瞳までも氷のように冷たかった。

「だって私はシャドウじゃないもの。でもね、自分自身を愛す方法なら知ってる。それは人それぞれ。あなただって、きっと千枝ちゃん自身から愛されたことだってあるはずよ。」
「誰だってみんな、影の自分を認めたくないもんなんだよ。自分と向き合う。それはすっげー難しいことで、勇気のいることなんだ。」

美和に続けて陽介が口を開く。燕も頷き、言葉を発した。

「気づいてもらえない・・・寂しかっただろう。だけどその寂しさを訴える方法を間違えるな。千枝を殺して何になる?お前だって分かってるだろう?千枝を殺して自由になるなんて間違ってるだけだって。自分を半分失って、また傷つくのか?『千枝』・・・。」

最後は優しく『千枝』に問いかけた。彼女は燕の言葉を聞き、大きく目を開く。
そう。シャドウ千枝自身も分かっていた。こんなことをしても意味がないと。ただ、千枝に気づいて欲しかっただけ。

『あたし・・・。』
「ごめんね・・・。」

ふいに、シャドウ千枝と同じ声がする。燕たちが視線を移すと、先程まで気を失っていた千枝が、ゆっくり立ち上がるとこだった。

「そうよ、あたしはずっと前からあんたの存在に気づいてた。今までごめんね、『千枝』。ずっとずっと寂しかったよね。傷ついてたよね。もう一人にしないよ。雪子みたいに女の子らしくないし、勉強だって何だってできない。だけどそれがあたし。あなたはあたし、あたしはあなた・・・。」

千枝はもう一人の自分の前に立ち、頬に触れた。自分の愛し方、分かったわけじゃない。だけど彼女は一つ学んだ。
自分自身と向き合う方法。
千枝の言葉にシャドウ千枝は顔をほころばせて頷く。その瞬間、シャドウは光へと姿を変え、千枝の前に新しい姿を見せた。 強さは力へと変わる。

千枝の前に現れたのは、自分ともう一人との絆の力。そして心の力。ペルソナと、人はそう呼ぶ。

『私はあなたの心の海よりいでし者。名を、トモエという。あなたが力を望む時、私はあなたと共にありましょう。』

高貴な声がこだまし、まばゆくように美しい光は千枝の体へと浸透していく。千枝のペルソナ・・・名前をトモエ。
源平合戦の折、女でありながら自らも武器をとり戦った人物、巴御前。力を授かった千枝はその場に膝をつく。

「里中っ!」
「千枝ちゃんっ!」

立ち上らせていた青い光をおさめて、みんなは彼女に駆け寄った。肩で呼吸をしつつ、千枝はみんなに笑ってみせた。いつものようにはにかんだ顔で、「えへへ」と呟く。恥ずかしそうに。
ほっと美和は息をついた。それでもやはり疲労が激しいのか、時たま千枝は苦しそうに顔をゆがめる。
美和は自分がペルソナを得た時のことを思い出した。ペルソナを得た時はただ、体が重くて仕方なかった。力を何かに吸い取られてしまう感覚がたまらなく辛い。きっと千枝も今、そんな感覚を味わっているのだろう。でもこれは、ペルソナを得たものならば誰でも通る道・・・。

「立てるか?里中。」
「ありがと、花村・・・。」

千枝は陽介にひっぱられて立ち上がった。ぐらりと少し体が傾く。

「大丈夫か?今日はもう引き返そう。」

燕も心配になり、そう言った。

「え?あたしまだやれるよ!雪子を探さなきゃっ!」

彼の言葉に反対したのは一人じゃ立てないほど疲労している千枝本人だった。そんな彼女にぴしゃりと美和が言う。

「千枝ちゃん、それは無理よ。ペルソナになれた私達でさえ、ここでは少し疲労を感じるんだから、このまま進めば大変なことになるわ。」
「そうだな。ここに入れるのは今のとこ俺たちだけだし、俺たちが死んだら天城も助けられない。今のリーダーの指示は的確だと俺は思う。だから・・・引き上げようぜ、里中。」

ニカっと陽介が千枝を安心させるようにウィンクした。クマも陽介の言葉に付け足す。

「そうクマよっ!まだ霧が晴れる気配はないクマ。ちーちゃんが元気になってから友達を迎えに行かないと、友達も元気にならないクマよ!」

力強くクマが言ったのが可笑しくて、千枝は「ぷっ」と吹き出した。つられてみんなも声を立てて笑い出す。笑いながら美和は思った。やはり千枝には笑顔が一番似合うのだと。



* * *


「それじゃ俺、里中のこと送っていくわ。」
「今日はごめんね、大空君に御陵さんも。家に帰ったらゆっくり休むし、心配しないでね。それじゃまた明日。」

現実世界。
ジュネスの家電売り場で、陽介と千枝の二人は一足先に帰っていく。例の通り、コロマルは店員に見つかると大変なことになるので、こっそり先にその場から姿を消していた。残ったのは美和と燕の二人だけ・・・。
二人はゆったりと歩き出し、ジュネスの店内から出た時にはもう、大きな夕焼けが見えていた。街灯もパラパラと点灯し始める時間帯。二人の間に言葉はなかった。
今日の夕飯は何にしようかと、美和は考えて歩く。そのうち隣にいた人物が視界から消えたことに気付き、彼女は振り返る。燕が立ち止まり、美和のことをじぃっと見つめていた。

「どうしたの?大空君。」

不思議に思って美和は小首をかしげる。言葉はなかった。ただ灰色の瞳が凪を見つめ、さらさらと風が燕の髪をくすぐった。

「なぁ、御陵。時々俺は不思議に思うことがあるんだ。ペルソナはもともと俺たちの影・・・つまりシャドウなんだろう?俺たちはそんなシャドウを抱えて普通にテレビから向こうの世界に出入りしている。
ここで疑問が起きるんだ。じゃあ、向こうに存在するシャドウたちも、現実の世界に出てこれるんじゃないかってね。」

彼の言葉にゴクリとつばを飲む美和。同時にあの夜のことを思い出した。
2年前の1月31日。
タルタロスの屋上で、現実世界に現れたシャドウと戦った。地上に降り立った"絶対のもの"とも戦い、そして彼は宇宙の片隅でひっそりと眠りに着いた。あの人と一緒に。あの惨劇を生み出してはいけない。
人間には人間の住む世界が、シャドウにはシャドウの住む世界がある。ペルソナに目覚めたということは、その世界が、再び交わろうとしているということだ。そうなればきっと・・・シャドウも現実の世界に姿を現すこととなる。

「そうね・・・。でも多分、まだ大丈夫だわ。だって現実の世界じゃペルソナは使えないもの。きっとシャドウは現実の世界に出て来れない。だけどいずれ・・・。」

そこで美和は言葉を切った。彼女の独り言のようなセリフに耳を傾けつつも、今度は燕が首をかしげる。くるりと美和は向き直り、空を仰ぎ見た。
今はただ、そんなことがないように祈ろう。
きっと大丈夫だ。
彼はいつも、この広い空のどこかでみんなを守ってくれているはずだから。

「大空君、いずれね、シャドウがこの現実世界に出てくる日が来ると思うの。だから私はそんな日が来ないように、この事件をすぐにでも片付ける。ねぇ、大空君は・・・手伝ってくれる?」

美和は何かを決意した目で燕を見る。その目には強い光が灯っていて、燕は目をそらすことができなかった。いや、目をそらす理由があるだろうか?シャドウがこの世界へ出てきてしまっては、被害は拡大するだけ。そんなこと、燕だって望んでいない。
ゆっくり彼は美和に歩み寄り、ニコリと笑って手を差し出した。

「もちろんだ。俺でよければ協力する。俺たち、仲間だろ・・・?」

差し出された手を見つめ、彼女も微笑む。そしてしっかりと燕の手を掴んだ。





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