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  三日月宗近

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かざぐるま




とある本丸で、若い審神者が病気で亡くなった。
審神者は残された刀剣男士たちが、次の審神者が決まるまで今の姿が保てるようにと、庭の大木に己の力を残していた。
刀剣男士たちは、その力を少しずつ使いながら姿を保つ。
審神者がいなくなったこの本丸は、喪に入った。皆、ふとした瞬間審神者を思い出し、涙を浮かべたり、鼻をすすったり。
新しい審神者なんていらない・・・とさえ思っていた。
そんな日が1ヶ月ほど続いた頃・・・。
突然三日月宗近を筆頭とする三条派の者たちが、小さな赤子を連れて帰って来た。
赤子はどこか懐かしい匂いがした。ついこの間まで、ここにいたような人物と雰囲気がそっくりで、その人物の名前を口にしてしまいそうになる。

「この子は一体どうしたんだ?」

長曽祢虎鉄が三日月宗近に尋ねると、彼はにっこり笑って答えた。

「我らの新しい主よ」

宗近の言葉に、他の三条の面々も頷いた。
小さな赤子はケタケタと笑いながら、長曽祢に向かって手を伸ばしていた。まるで、再会を喜んでいるように・・・。
その日から、小さな赤子は前の主を失ったこの本丸を引き継ぐことになった。

赤子は刀剣男士たちに愛された。
あまり泣くこともなく、人見知りすることもなく、みんなに懐いた。特に、近侍である三日月にはひときわよく懐いた。前の主とどこか似ている・・・と、みんなそう思っていたが、口には出さなかった。
寒かった冬が過ぎ、春が来て、初夏の頃を迎えた。
宗近は赤子を抱きながら、加州が持って来たかざぐるまに息を吹きかけ回す。大きなかざぐるまが回るたび、赤子は喜んで声を上げた。そして三日月は小さく歌ってやる。

「・・・なぁ、美和よ。俺を愛してくれたこと、覚えてはおらんだろうなぁ。しかしだ。お前はまた、こうして再び生まれてきてくれた。美和が俺に会いたい一心で、再び生まれ変わってくれたと、そう思ってもよいか?」

優しく話しかけると、赤子は声を出さず、ただにこっと笑った。その表情が前の審神者そのもので、宗近はキュッと胸が苦しくなる。
ただただ前の審神者に会いたい一心で、宗近は彼女の魂を探した。再び人間に生まれ変わってくることを信じて。探して探して、やっと彼女の魂を見つけた。

「俺はずっとずっと美和そばにいてやろう。今度はこの手を離さんぞ。だから早く、大きくなっておくれ。」

いつの間にか眠ってしまった赤子を抱いたままゆっくり揺らし、宗近はまた小さく歌いだす。
緩やかな風に吹かれ、かざぐるまが回り始める。宗近と赤子の関係も、ゆっくりと回り始めていた。


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カテゴリー:  三日月宗近

渡せない役目



最近新しい刀剣男士がやってきた。にっかり青江と同じ刀派で、三日月宗近と同じ天下五剣のうちの一人。
その刀は数珠丸恒次という名前の刀だった。
三日月と肩を並べるほどのレア度ではあるが、資材も依頼札もさほど消費せず鍛刀できたのは、審神者・美和の霊力が高かったせいなのかもしれない。
見た目も美しい刀なのだが、天下五剣の中で最も美しいと言われた三日月宗近よりは劣るかもしれない・・・。そんなことを小狐丸が口にしているのを宗近は聞いたことがあった。確かに美しさには自信がある。優雅な舞も踊れるし、この本丸の中では一番強いとも思っている。そういうふうに努力したからなのだ。美和の心を掴むために・・・。だから内心、数珠丸が来た時は少しだけ動揺した。この新しいレア太刀に、美和の心がうつってしまうのではないかと・・・・。

「三日月殿。今日は非番ですか?」

宗近が縁側に座って空を眺めながら茶を飲んでいると、廊下の向こう側から長身の男が歩いてくる。
数珠丸だった。長い髪を引きずりながら静かに歩く彼は、少しだけ微笑んでいた。

「そうだな。今日は内番もなければ、遠征も出陣もない。美和が本部に行っている間はやることもないのでな、少しばかり茶を飲もうかと思ってだな・・・」
「三日月殿は、美和殿の近侍でしたね。そういえば、美和殿が私を鍛刀した時の近侍もあなただった。」

宗近の隣に座った数珠丸は、少しだけ意味ありげな言葉を紡ぐ。

「この本丸の近侍は、前からずっと俺なのだ。元は初期刀の山姥切国広だったんだがな、いつのまにか国広のレベルを俺が追い越してしまってな。」
「そうなんですか。そういえば三日月殿はこの本丸の中で、一番レベルが高いのでしたね。私も早く、あなたと同じくらい強くなってみせます。天下五剣の呼び名にかけて・・・」

彼のゆっくりとした口調の中に、何か強い意志を感じる宗近。数珠丸の胸の内はよく分からないのだが、宗近には一つだけ理解したことがある。

「俺と同じくらい強くなっても、美和がそなたを近侍に選ぶかは分からんぞ。」

ずずっ・・・と茶をすする音が響く。しばらく言葉は返ってこなかった。
美和が数珠丸に心うつりするのでは?・・・と動揺したことはあるものの、その可能性が低いことを宗近は知っている。
他の刀剣男士たちに極秘で、美和と宗近は契りを結んでいるのだ。美しい刀に宿った付喪神の妻は、美しく気高き人間の娘。決して裏切ることもなく、最期の時まで宗近に寄り添うと誓った美和

「・・・三日月殿、私があなたと同じくらい強くなったなら、勝負していただけませんか?美和殿の近侍をかけて。」
「別にそれはかまわんさ。それにしても数珠丸恒次。お主は仏教の刀剣であろう?そんなふうに欲望のまま生きても許されるのか?」
「欲望などと・・・。私はただ、仏教の刀として、よりお側で美和殿をお守りしたいだけです。」

それだけ言うと数珠丸は立ち上がり、元来た方へと戻って行く。それを見送りながら、宗近は飲んでいた茶を一気に飲み干す。

「・・・ゆるりと茶を飲んでいる場合でもないか。」

小さく呟き、彼もまた立ち上がった。数珠丸とは反対方向へと歩き出す。腰にさしている三日月宗近本体に手をかけながら、彼は鍛錬場へと入っていく。美和の近侍という立場を守るために、さらに努力を重ねることを胸に誓うのだった。






渡せない役目





カテゴリー:  三日月宗近

三日月宗近の料理



「主、今日も夕食に顔を出さなかったね。」
「どうしても今日中に完成させて提出しないといけない資料があるんだって。」
「でも、何か食べないと倒れるんじゃ・・・」

燭台切光忠と歌仙兼定の言葉を、三日月宗近はぼんやりと聞いていた。二人は食事の片付けをしながら主のことを心配する言葉ばかりを紡いでいた。

「三日月殿、そろそろ我ら三条派の風呂の時間ですぞ。」

同じ三条派の小狐丸に突然言葉をかけられ、宗近は「あ、あぁ・・・」と素っ気ない返事をしてしまった。風呂の準備をしながら宗近は思う。確かに、主はここのところいつも忙しそうにしており、あまり食事をとっている姿を見た事がない・・・と。
風呂へ行くには主の部屋の前を通る。少し様子を見てみてもいいだろう。そう考えてみたものの、実際主の部屋の前に来ると、そこへ入って行くのも気が引けた。
『仕事中につき、入室禁止!』と障子には貼られ、入って行けるような雰囲気ではなかった。

「主さまも忙しそうで・・・。主さまのお姿を見れないのは、とても寂しいことでございます。」

小声で話す小狐丸とともに主の部屋を通過し、風呂へと向かった。ゆっくり湯につかりながらも、考えることは主のことぼかりだった。まるで、自分がへし切り長谷部にでもなってしまったようだ。
風呂から上がり、宗近はそのまま床へ入った。ぽかぽかと体が暖かいうちに布団へ入ってしまったほうが、ゆっくり眠れることを知っているからだ。他の刀剣男士たちからは、「じーさんはいつも早寝早起きだな」なんていつもからかわれる。しかし、今日は違った。夕飯を食べなかった主のことが気がかりで仕方ない。そのうちに夜もふけ、本丸の中は静かになった。
電気は消され、月の光だけが本丸の中を照らす。時計は夜中の1時をさしていた。
隣で眠る石切丸が小さく寝言で祝詞を唱え、岩融がガーガーといびきをかいている。宗近はすっ・・・と起き上がり、布団から抜け出した。
目指すは本丸の台所。少し残っている冷ご飯を温め直し、冷蔵庫から卵を取り出す。だしと混ぜ、フライパンで器用にくるくると卵を巻いた。温め直したご飯をにぎり、二つのおにぎりを作る。あたたかいお茶を入れ、それをお盆に乗せてよく知る場所へと向かった。
主の部屋。真夜中だというのに、電気がついていた。主はまだ起きているらしい・・・。相変わらず、障子には「仕事中につき、入室禁止』の張り紙。

「主、入るぞ。」

相手の返事も待たず、宗近は部屋へと入って行った。机の前に座ってパソコンとにらめっこしていたこの本丸の主である少女が、驚いた表情で宗近を見ていた。

「宗近・・・。急にどうしたの?」

にっこりと微笑むが、その表情は疲れきっている様子。

「主、少しは休んだほうがよいと思うが・・・。そなたの好きな握り飯と、だし巻き卵を作ってきたぞ。今日の夕餉も食べずに仕事ばかりしおって・・・」

審神者の目の前に、宗近が作ったおにぎりとだし巻き卵が乗ったお盆が置かれる。

「これ・・・宗近が作ってくれたの!?あ、ありがとう!そういえば、晩ご飯食べるの忘れてた・・・」

少しはにかんだ少女が、ゆっくりとおにぎりを口に運ぶ。少しだけかじり、もぐもぐと口を動かしたあとふわりと笑った。

「おいしい!やっぱり宗近の作るおにぎりは絶品だね!」

彼女の言葉に、宗近が嬉しそうな表情を見せる。時折こうして、忙しそうにしている主に夜食を作って持って行くのが宗近の役目だった。きっと他の刀剣男士たちは知らないだろう。実は宗近が料理上手なことを・・・。

「こんなに美味しい料理が作れるなら、光忠や歌仙と一緒に料理当番すればいいのに・・・」
「俺が料理の腕を磨いてるのはそなたに食べさせるためであって、他の刀剣たちに食べさせるためではないぞ、美和。」

今まで少女のことを『主』と呼んでいた宗近が、急に彼女の下の名前を呼んだ。美和と呼ばれた少女も困惑することなく、いつものことのようにとらえる。
美和はせっせとおにぎりやだし巻き卵を口に運んでいく。美味しそうに食べている美和を見つめる宗近の目は、優しいまなざしをしていた。

美和。食べてばかりでなく、茶も飲まねば。」
「だって、宗近のおにぎりと卵焼き、美味しいんだもん!」

美和は全部食べ終わったあと、お茶を一気飲みし、ぷはーっと息をついた。手を合わせて丁寧に「ごちそうさま」と言ったあと、あぐらをかいている宗近の膝の上に座った。

「これはこれは・・・。どこぞの大きい猫が甘えてきおった。」
「だって・・・疲れたんだもん。これくらい許してよ。」
「誰も許さぬとは言っておらぬ。むしろ・・・これくらいで許されると思ったのか?美和。」

宗近は膝の上に座っていた美和を畳へ押し倒し、両手首を押さえ込む。怪しい表情を浮かべて上から美和を見下ろすと、彼女はその先に待つ結末を想像して、顔を赤らめた。

「宗近、仕事、まだ終わってないんだけど・・・」
「知らぬな。誘ってきたのはそなたではないか。仕事ばかりで俺に寂しい思いをさせた分、どうなるかは分かっておるな?それにそなたのことだ。急ぎの仕事は、もう全部終わってるのだろう?」

美和の性格を見抜いているような宗近の発言に、彼女は押し黙った。確かに、急ぎの仕事は終わっている。まだ終わってない仕事は、明日にでもまわして大丈夫なものばかり。

「まだ終わってないって言ったら?」
「知らぬ。俺には何も聞こえぬな。」

宗近はそれだけ言うと美和の唇を奪う。甘く、激しく。これまでの分の寂しさを埋めるように。
そうして二人は深い夜へと溺れていく。美和の飲み残したお茶が、小さく湯気を立ててゆらめいていた。





三日月宗近の料理



カテゴリー:  三日月宗近

寒い夜の過ごし方




「・・・この状況は、一体何が起こったのでしょう?」

寒い夜のことであった。今からまさに深い眠りへと落ちようとしている美和の意識を、現実へと引き上げた人物がいた。青色の狩衣に、三日月のうちのけが入った瞳の男。その男は美和の布団にもぐりこんでくるやいなや、彼女をぎゅっと抱きしめる。布団を持ち上げられ一瞬冷めた体は、彼の体温のおかげで再びぬくもり始めた。
彼女の小さな呟きにも答えない彼に、少しむっとする美和。おかげで眠り損ねたのだ。顔を上げ、キッと相手をにらんでやると、男はゆったりと優しいまなざしをしていた。

「で、この状況は一体どういうことなのですか?三日月宗近。」

そう問えば、彼は少しだけさらに目を細めた。沈黙を以ってこの状況をはぐらかそうとしているように見える。彼女はさらに彼を問い詰めようとしたが、それは宗近の言葉に静止された。

「あまりにも寒い夜なのでな、暖を取りに来たのだ。この寒さは、じじいの体にはこたえるのでな。」
「それだったら、小狐丸の布団か石切丸の布団にもぐりこめばいいでしょう。」
「なぜ男が男の布団なんかにもぐりこまねばならんのだ?むさくるしいものよ。」
「じゃあ居間のこたつにもぐりこめばいい。」
「以前俺がそれをやって、風邪をひくからやめろと怒ったかわいい主は、どこのどなたさんだ?」
「・・・・・・・。」

ああ言えば、こう言う。そういう男なのだ、三日月宗近とは。言葉や理屈でかなわないのは、相手が神様であり、自分よりも長く生きてることも関係しているのだろう。言葉を返せなくなった美和を見て、宗近は勝利したごほうびのようにさらにぎゅっと彼女を強く抱きしめた。
「あぁ、やはり美和は暖かい」と、のんきに言うものだから、美和はため息をついてそのまま自分の身を宗近にゆだねる。なによりも、美和自身も宗近の熱で体が温まってしまい、眠くなってきてしまったのだ。意識が遠のく寸前、宗近が何か言ったような気がするが、彼女はそのまま気にも留めず眠りへといざなわれる。
何も言わず、規則正しい寝息を立て始めた美和に、宗近は小さく尋ねた。

「・・・ふむ。寝てしまったか?さきほどの俺の言葉は、美和に届いたとは思えんな。こうも男の腕の中で無防備に寝顔をさらすとは・・・。俺じゃなかったら、襲われてしまっていたぞ、美和。まぁ、俺も夜這いに来た・・・とは口が裂けても言えんけどな。しかしこうも夜這いする相手があっさり寝てしまっては、その気も失せた。仕方ない、俺も寝るとするか。」

宗近はチュッと彼女のおでこに唇を落とす。

美和、俺以外をこの布団の中へ誘い込むでないぞ?ここは俺の居場所ぞ。」

それだけ言うと、宗近の意識も甘く暖かな場所へと沈んでいく。再び目を開けるときにはもう、白く美しい朝が来ているだろうと思いながら・・・・。




寒い夜の過ごし方






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ワケアリ刀剣男士たち4



「えぇ!?なんでっ!?ちょっとなんでなの!?石切丸と三日月宗近、二人して美和と一緒に本部に行くってずるくない!?なんで俺じゃないんだよ!俺は美和の初期刀でしょー!?」

朝早くから、加州清光の絶叫が本丸に響く。
加州の目の前には、現代風な格好をした石切丸と三日月宗近、そしてこの本丸の主・美和が苦笑していた。

「加州、ごめんね。別に遊びに行くわけじゃないから。私は本部で審神者同士の会議だし、石切丸と宗近は・・・・」
「危ない刀剣ではないか、定期的に査定が開かれるのです。私たちは、この本丸ではワケアリ刀剣男士だからね。」
「全く・・・。本部の奴らも暇なものよ。このじじいの査定なんかして、どうするのやら・・・」

持っていた青い扇子で自身をあおぐ宗近。そばでにっこり笑っていた一期一振が、宗近に向かって言った。

「三日月殿。いろんな審神者があなたを顕現させようとしたけれど、あなたは刀剣男士にはならなかった。しかし今この本丸で、三日月殿は刀剣男士となり戦っている。こってりしぼられ、話をさせられるでしょうね。」
「一期一振、俺に恨みでも・・・?」
「・・・・まさか。」

二人の間で、静かに火花が散っているように見える。
美和はビジネスバッグに携帯やタブレット、必要な資料を詰め込みながら、初期刀である加州や山姥切国広に声をかけた。

「清光も国広も、今から遠征でしょ?他の刀剣たちをお願いね。二人とも、頼りにしてるよ。」
「頼りにしてるって?・・・仕方ない。美和がそう言うんなら、がんばっちゃおうかなぁー!」
「・・・アンタの頼みだ。まとめて俺が面倒みよう。」

美和の言った言葉に、加州はころっと態度を変える。国広もまた、ため息をつきながら答えた。加州も国広も、彼女のことを信頼しているのだ。

「じゃあ、俺たち行ってくるから!美和、お土産買ってきてよね!」
「石切丸殿は心配なさそうですが、三日月殿・・・くれぐれも美和殿のお手を煩わせないよう、お願い申し上げる。」
「お主も。残念な結果の遠征にせぬよう、気をつけるのだな。」
「ご心配なく・・・・。」

挑発的な宗近の態度に、一期が優雅に微笑む。そばにいた薬研が、ぶるっと体を震わせた。自分の兄は顔では笑っているが、内心怒っている・・・・。薬研はこっそり、遠征先にいる敵のことを哀れむのだった。
加州たちを遠征へと見送って、美和たちも現代にある、本部へと向かった。政府公認の機関であるため、本部の建物は大きく、たくさんの人たちがせわしなく働いている。

「じゃあ、石切丸と宗近とは、ここでお別れだね。私はこの上の階だから。会議が終わったらいつもの場所で待ってるね。石切丸、宗近とくれぐれもはぐれないようにね。」
「分かってるよ。美和、会議がんばって。」

美和が手を振りながら、上へと続くエレベーターへと乗っていく。
さて・・・と、石切丸は隣にいる宗近を見た。「覚悟はいいかな?」と尋ねれば、宗近は涼しい顔で「うむ」と返事をする。
長い廊下を歩き、一つのドアの前で立ち止まる二人。戸を叩けば、男の声が響く。「どうぞ」と。宗近が眉をひそめた。この男の声は、以前彼を保管していた人間と同じ声。

「査定・・・か。面倒なものだな。」
「私たちはワケアリの刀剣だから仕方ないさ。特に私は、美和のことを一度斬ってしまっているしね。」
「いっそのこと、美和のことを好いておる・・・と言ってしまおうか。好いておるがゆえ、反旗を翻す意はない・・・とな。」
「それはそれで、大問題になると思うけどな。」
「・・・冗談だ。では、ゆくとしようか。」

二人はドアを開いて、中に入る。重役と思わしい人物たちが、ずらっと座っている。その中で、トップの人間が最初に口を開いた。「よく来たな、石切丸・三日月宗近」と。
査定はまず、石切丸から始まった。これまで何度も査定を受けている彼は、慣れた感じで質問に答えていく。彼の査定はすぐに終わった。次に宗近の名前が呼ばれる。名前を呼ばれた瞬間、重役たちの目が一斉に宗近へと注がれた。みんな、目をギラギラさせている。

(なるほど・・・。俺が天下五剣の一つであり、今まであらゆる審神者の顕現の力を受け入れてこなかったからか。皆、興味津々のようだな・・・。ふむ。こやつらに正直に答える道理もなかろう・・・。)

宗近がこっそり、にやりと口角をあげたのを石切丸は見逃さなかった。





会議が終わり、いつも石切丸と待ち合わせる庭園のベンチに座っている美和
タブレットをいじりながら長い時間二人を待っているのだが、いっこうに姿を見せない。いつもなら石切丸が早く終わり先に待っているが、今日は宗近も一緒だ。宗近の査定が長引いているんだろう・・・と考える。しかし、あまりにも遅すぎる。直接査定会場まで行こうかと立ち上がったが、すれ違ってしまっては大変なことになる・・・。美和はそのまままた、ベンチに腰を下ろした。その時、困った顔をしながら頭を抱える石切丸と、ニコニコ笑っている宗近が姿を現した。

「遅かったね。二人とも・・・。もしかして、ずっと査定だったの?」
「・・・・それが・・・・」
美和よ。身分の高い人間どもに、一泡吹かせてやったぞ。」
「・・・・・え?石切丸、どういうこと?」

満足そうな顔をしている宗近を睨みつけ、石切丸が口を開いた。彼の言葉を聞いた瞬間、美和は青ざめ、宗近は高らかに笑った。





数日後。石切丸から査定での話を聞いた加州は、刀を抜かんばかりの勢いで廊下にいた宗近につめよった。

「三日月宗近っ!あんた、査定で『美和のことを好いておるがゆえ、反旗を翻す意はない』って言ったって本当っ!?言っとくけど、あんたなんかに美和は渡さないからな!」
「はっはっは。加州、まあ落ち着け。俺は正直に答えたまでだ。」
「・・・やっぱあの時、折っときゃよかった!」
「三日月殿。次の査定ではまじめに答えてください・・・。」

地団駄を踏む加州の横で、石切丸が頭を抱える。宗近はそれを笑い飛ばしてしまう。どうやら、次の査定でもまじめに答えるつもりがないようである。
その頃、美和は自室で今回の査定に関する書類を読んでいた。

『刀剣・三日月宗近の査定評価について。
上記刀剣は、今現在悪意は感じられないが、時に常軌を逸脱した行動をする傾向にあると断定。危険な刀剣でない・・・とは一概に言えず。よって、引き続き審神者によって監督していくこととする。三日月宗近の胸の内に、黒き闇が見受けられる。十分注意せよ。』

「宗近の胸の内に、黒き闇・・・・か。彼は自分の本心を、私に見せてくれる日が来るのかしら?」

自室から出ると、廊下で加州がわめき声を上げ、石切丸が頭を抱えていた。その横に立つ宗近と目が合う。彼は意味ありげににっこり笑うのであった。


続く。

カテゴリー:  三日月宗近

★更新履歴★

18.08.17
刀剣乱舞 短編1つUP!(山姥切国広)
 




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