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  石切丸

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ある夏の日のできごと


暑い夏の日だった。にっかり青江は人間の気配を感じて本丸の玄関口へと向かった。
ガラッと玄関を開けると、そこには着物を着た髪の長い女が一人・・・。最初は、主かと思った。けれどもそんなはずはない。
主は先ほど、自分の部屋に近侍である石切丸を呼んで談笑していたのだから・・・。

「この本丸に何か用かい?かわいいお嬢さん。」

柱に背中をあずけて腕を組み、できるだけ柔らかい声をかけた。相手は無言だった。
少しうつむき加減な顔は、血色がなく青白い。彼女がゆっくりと、この本丸へ一歩を踏み出す。
青江の切れ長の目が、少し細まった。

「あー・・・お嬢さん。それ以上はダメだよ。」

それでも歩みは止まらなかった。一歩一歩、着実にこの本丸へ近づいてくる。
言葉をかけても止まらない女に、困った表情をする青江。

「あーあ。たまーにいるんだよねぇ。この本丸に張ってある結界をなんなく通って、ここに来ちゃう人間が。
・・・・いや。もう人間じゃないね。人間だったものが・・・。でも、やめといたほうがいいよ。
それ以上こっちに来ると、この本丸で一番こわーーーーいお兄さんがやってくるからね。」

そうのんきに言った瞬間、廊下のほうからドンドンドンと、重そうな足音が聞こえてくる。
ほら来た・・・と、青江は天を仰ぐ。ガラッと玄関が開かれ、優しそうな顔をした石切丸が出て来た。
「お客さんかい?」と言う彼に、青江は「困ったお客さんでね・・・」と苦笑した。
ゆっくり玄関口に近づいてくる女を見て、石切丸も目を細める。表情は笑っているような感じだったが、目は笑っていなかった。

「へえ・・・・。君、迷ったんじゃないんだね。目的は・・・やはり主の霊力か。
今ならまだ、引き返せるよ。そっちの道を行けば川を渡れる。でも・・・違うのか。仕方ない。」

石切丸は自分の刀を抜いた。その瞬間、女が凄い形相で石切丸へと突進してくる。
彼は平然な顔をして女を斬った。そのまま女は、すぅ・・・っと消えて行った。

「青江、最近こういうのが多いね。
何もしない魑魅魍魎たちは好きにさせてるけど、彼女の霊力を狙ってくる輩はやはり心配だな。
夜なんかに来られたら、彼女を守れるかどうか・・・」
「いっそそれなら、夜も一緒に過ごしたらどうだい?」

青江としては冗談のつもりだった。
しかし石切丸はというと、「ふむ・・・」とだけ言い、そのまま踵を返して廊下をドンドンと歩いて行く。
大きい背中を見送りながら、青江は小さく呟いた。

「ごめん、主。石切丸に余計なことを言ったかもしれないねぇ・・・」

その日の夜、三条派の部屋に石切丸は帰ってこなかったとか・・・。



(拍手お礼)
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カテゴリー:  石切丸

恋と知るのは先の話


夜中。静まりかえった本丸の一室で、石切丸は一心に加持祈祷していた。なんかだ胸騒ぎがして、目がさめてしまったせいである。神棚の前にくれば落ち着くのではないかと考えた彼は、1時間前からこうしてずっと加持祈祷をしているのだ。
今日は月も雲に隠れてしまっている。月の明かりがないだけで、ずいぶんとあたりが暗く感じた。

(主はもう、寝てしまっただろうか?)

ふと、この本丸の主である美和のことを思い出す。石切丸が顕現されてから、はや数週間・・・。この本丸で石切丸は、比較的新しい刀剣男士だった。初期刀と呼ばれる一番古い刀剣男士は山姥切国広で、彼はことあるごとに美和へちょっかいを出すし、二番目に古い刀剣男士は同じ三条派の三日月宗近だった。彼も美和へいつもべったりくっついている。彼らを少し羨ましいと思うのの、石切丸は「何を考えているんだ。相手は主だぞ?」といつも邪念を振り払っている。今だって、加持祈祷中であるにも関わらず、浮かんでくることといえば美和に関する事ばかり。

(最近主は忙しそうだが、ちゃんと睡眠は取っているのだろうか?)

祝詞を唱える口と、美和のことばかりを考えてしまう頭。どうにもちぐはぐで・・・。いつしか祝詞を唱える声は紡がれなくなる。代わりに口の端からはため息と小さな笑い声が漏れる。

「・・・ははっ。どうにもダメだな。最近は主のことばかりを考えてしまう。一体私は、どうしたのだというのだ。」

よく分からない感情に心が支配され、加持祈祷どころではなくなっていく自分が少し怖かった。でも、このよく分からない感情はもどかしさもあり、そしてどこかが暖かかった。
石切丸は立ち上がり、襖を少し開ける。ひやっとした空気が自分の熱くなった体を冷やしていく。空を見上げれば雲に隠れていたはずの月が出ていた。今日は満月だった。

「主にも見せたいくらいだね。まだ彼女は起きているだろうか?」

月の光に照らされながら石切丸は小さく呟く。彼の心に生まれた感情が『恋』だと知ることになるのは、ずいぶん先の話であった。


カテゴリー:  石切丸

籠鳥雲を恋う


夜中のことだった。物音がしたような気がして、石切丸はゆっくりと覚醒を迎える。

(こんな時間に誰だろう・・・?)

隣では、同室の三日月宗近がすやすやと寝息を立てている。今日の内番で疲れたのか、石切丸が布団から抜け出しても全く起きなかった。
季節は冬。しんしんと音もなく降り注ぐ雪を眺めつつ、彼は音のしたほうへ向かう。全て明かりが消えているはずの本丸で、唯一明かりがついている部屋があった。
そこは、時間を超えるための機械が置いてある部屋。なぜこんなところの明かりが・・・。そんな気持ちいっぱいで、彼はそっと部屋の中を伺う。当然、誰もいなかった。ただ、時間転移装置だけが動いている。
設定された年代は・・・・2195年。

(おかしいな。時の政府が置かれているのは、2205年のはず。しかもこの機械は、美和にしか扱えない。ということは、2195年に行ったのは・・・美和?)

機械はまだ、動いている。石切丸は吸い込まれるように時間転移装置の光の中へ入って行く。
目を開けた時には、そこはもう本丸ではなかった。
彼の耳に届いたのは、誰かが叫ぶ声。石切丸の臭覚を刺激したのは、物が焼ける匂い。視覚を刺激したのは、燃え盛るほどの赤い赤い炎・・・。
何かが、こみ上げてくる。煙を吸ったせいかもしれない。口を押さえた石切丸の視界に、見慣れた着物が飛び込んでくる。
それは主である美和の姿。
美和・・・と言いかけて、石切丸はその名前を飲み込んだ。美和のその先に、幼い美和がいた。
彼女はただじっと、幼い美和を見ている。石切丸は理解した。2195年というのは、美和の幼少時代・・・。

『お父さん!お母さん!怖いよ!誰か・・・誰か助けて!』

幼い美和はただ一振の刀をぎゅっと抱きしめて、燃え盛る建物のそばにいた。
その時、彼女の持っていた刀が光を放ち始め、石切丸がよく知る人物がフッと幼い美和の前に現れる。
青い狩衣。狩衣に刻まれた、三日月の印。

『天下五剣の一つにして、最も美しいと言われる刀。そなたが俺を呼び覚ましたのだな。・・・怖かったか?幼いわりに、よくがんばったな・・・』

三日月宗近が幼い美和を抱きしめる。その光景を見届けて、石切丸のよく知る主はそのまま彼らに背を向けた。
呆然とたたずんでいた石切丸に、美和は気づく。

「い・・・いしきりまる?」

名前を呼ばれ、ハッとする彼。美和の瞳が揺れ動いていた。もしかしたら、美和にとって見られたくない過去だったのかもしれない・・・。
どうすればいいか分からなくなった石切丸は、そのまま黙っていた。フッ・・・と美和が困ったように笑った。その表情を見て、石切丸の体のこわばりが解けていく。この状況で嘘をついても仕方ないと分かっていた。

美和・・・すまない。物音で目が覚めて、時間転移装置が動いていたから気になって・・・」
「そう、だったんだ・・・。ごめんね、心配かけて。ここはね、私が審神者になる10年前の時代なんだ。時々寂しくなって、故郷を見に来るの。歴史修正主義者との戦いで、結局全部・・・焼けちゃうんだけどね。この戦いで、審神者だったお父さんもお母さんもいなくなっちゃうし・・・。」
「・・・・。」

石切丸は何も言えなかった。
今まで知らなかった、美和の過去。もしかしたら、今美和の近侍を務めている宗近は知っていたのかもしれない。
思い詰める表情を見せた石切丸に、美和は慌てて声をかけた。

「大丈夫だよ!石切丸!私、もう今は寂しくないんだから!さぁ、帰ろう?私たちの本丸へ。」

美和は石切丸の手を取って、光のほうへ歩き出した。後ろを振り返れば、幼い美和が三日月宗近の胸で泣いていた。
今、目の前を歩く彼女は故郷を恋しく思いここに来たのだろうか?
それとも、歴史修正主義者への憎しみを再確認するために、ここへ来たのだろうか?
石切丸には、どちらだったのか分からない。
光を抜けると、そこはもう、先ほどいた場所ではなかった。静かに雪が降り続ける本丸。まばゆい光に一瞬目を細めると、目の前にだんだん浮かんでくるのは、青い狩衣を来た三日月宗近の姿だった。

「宗近!」
美和、それに石切丸も・・・。あの場所へ行っていたのか?」

あの場所とは、幼き美和の時代のことだとすぐに分かった。
宗近は怖い顔をしている。それはまるで、石切丸牽制しているようなものであった。
石切丸の脳裏に、幼い美和を抱きしめる宗近の姿が思い出される。彼にとって美和は、大事な存在なのかもしれない。
でもそれは、石切丸自身の中にも存在する思い。彼女が・・・大事だ。

美和・・・・」
「石切丸、美和の近侍は俺だ。」

彼はそれだけを言い残し、美和と共に部屋を出る。彼女は一瞬だけ申し訳なさそうな顔をしたあと、宗近に寄り添って歩いて行く。石切丸は、彼女に向かってのばした手を静かにおろすくらいのことしかできなかった。




籠鳥雲を恋う




ろうちょうくもをこう
(身を束縛されている者が自由な身を望むたとえ。また、故郷を恋しく思う意にもいう)
大辞林より。

カテゴリー:  石切丸

審神者が風邪をひいた日



ある寒い日の翌日、審神者である美奈は風邪をひいてしまった。
原因は前の日に何人かの刀剣男士たちと遠征に行ったこと、
そして遠征先で無理して戦ったことによる体力消費のせいだった。

ピピピ・・・と告げる体温計の液晶部分には今、『38.0度』の文字が表示されている。
彼女のそばで正座をしていた燭台切光忠が、美奈からひょいっと体温計を取り上げた。

「・・・高熱だね。これは熱が下がるまで、おとなしくしておかないと・・・」

「でも、まだ本部に提出するレポートが残ってるんだけど・・・」

「それは元気になってからだよ、美奈。僕は少し、他の刀剣たちと話してくるよ。
このまま僕たちの姿を顕現させ続けるのは、美奈にとってもしんどいだろうからね。
誰が刀に戻って、誰が人の姿のままで待機するのかを相談してくる。」

そう言って、光忠は静かに美奈の部屋を出ていった。
刀剣男士を人間の姿に顕現させているのは、審神者の力が関係している。
風邪をひき、体力が落ちている美奈の力を刀剣男士の顕現に当てるべきではないと考えた光忠。
美奈の風邪が治るまでは数名の刀剣男士をもとの刀の姿に戻し、残った数名は本丸の警護にあたることを提案するため、他の刀剣男士が集う部屋を訪れる。

「・・・・ということなんだが、みんな、誰が残って誰がもとの姿に戻るか意見をくれない?
ちなみに僕は、美奈におかゆを作ってあげたいし残りたいんだけど・・・・」

おおまかに説明し、刀剣男士たちの顔を見回す光忠。
先に口を開いたのは鶴丸だった。

「そうだな。うまい飯の確保は必要だ。あとはある程度、太刀が残ったほうがいいだろう。
本丸が奇襲された時、戦力となるのは大きい刀だ。
しかし、太刀組は夜目が効かない。短刀や打刀も何人か残ったほうがいいだろうな。」

美奈の体力を考えて、多くは残れないだろう・・・。
大太刀も無理だろうな。顕現させておくのに、美奈の力をかなり使う。
太刀3人、打刀・短刀を合わせて3人の計6人くらいだろうな。」

静かに三日月宗近もそう言った。
この本丸で長く一緒に戦っているぶん、お互いのいいところ、悪いところをよく知っている刀剣男士たち。
結局話し合いで、燭台切光忠・三日月宗近・加州清光・薬研藤四郎・大和守安定は残ることに決まった。
あと一人を決めねばならない。

「・・・・俺はやはり、石切丸がいいと思うんだが。」

不意にそう言った三日月宗近。その言葉に石切丸が顔をあげた。
大太刀である彼を顕現させるためには、審神者の力を多く使用する。
彼はおとなしく、普通の刀の姿に戻るつもりだった。

「しかし私は大太刀だ。美奈の力をかなり使う。それでは意味がないのでは?」

「いやいや。それがあるんだなぁ・・・・。
石切丸は美奈の近侍で、初期刀だろう?残るべきだって。
そっちのほうが、美奈の回復も早い。」

意味ありげに、にまりと笑う鶴丸。この場に居合わせる刀剣男士たち全員が、石切丸を見てうなずいた。
そこまで後押しされてしまっては、引くに引けない。
石切丸は苦笑を浮かべ、宗近の提案にうなずくのだった。


* * *


夜も更けた頃、石切丸は美奈の休む部屋を訪れていた。
彼女と一緒に布団に潜り込み、優しく抱きしめていた。

「・・・どうやら、私と美奈がこういう仲であることは、みなにバレているらしい。」

「そう言われるとなんか恥ずかしいけれど、みんなに応援されてるってことじゃないの?」

赤い顔の美奈は、優しい眼差しの石切丸を見つめた。
二人が恋仲になったのは、もうずいぶん前の話。
今までこっそり隠してきたけれど、みんなにはすでに、バレてしまっていたらしい。

「そういうことにしとこうか。
・・・ということは、これからは堂々と皆の前で美奈とべたべたできるということだ。」

「ちょっ・・・それはダメ!私は審神者なんだから!」

「戦場でも、堂々と美奈を守れるということでもあるね。」

「だから・・・・っ!」

「その前に今は、美奈の風邪を私にうつしてもらって、君に元気になってもらわないとね。」

にこっと笑った石切丸は、抗議する美奈の唇を己の唇で捕まえる。
優しいキスから、激しいキスへと転じていく。
夜は更けるばかり。
次の日にはもう、彼女の風邪は治まり、
本丸で美奈にべたべたくっつく石切丸が目撃されたとかされてないとか・・・・。




審神者が風邪をひいた日



カテゴリー:  石切丸

★更新履歴★

18.08.17
刀剣乱舞 短編1つUP!(山姥切国広)
 




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