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2016.09.21  #5 認めることも心の強さ <<18:23



「花村君っ!」

「花村っ!」

「ヨースケェーっ!」

「グルルルルル・・・・!」

四人が駆けつけると、ちらりと本物の陽介がみんなを見た。彼は目の前に立つ自分に動揺していて、瞳がゆらゆらと動いていた。

「ぁ・・・大空、御陵。ちが、これは俺じゃないんだ。」

小さく呟かれた言葉に、美和は眉をひそめた。
あれが陽介の影。楽しそうに薄ら笑いを浮かべて、らんらんと光る目でこちらを見ていた。高く笑って彼は本物の陽介へと言葉を投げかける。

「俺じゃないって・・・?嘘つくなよ。俺はお前だ。お前の本心だよ。ずっとお前に押さえつけられて窮屈だったけど、やっと出てこれたんだ。なぁ、ウザイって思ってるのはホントはお前のほうなんだよな?」

くつくつと笑いながら目を細める。軽蔑したような目で前にいる陽介を見た後、ちらりと燕に視線を這わせた。そのまま彼は述べた。

「本当は何もかもウゼーんだよなぁ?田舎暮らしも学校も、ジュネスとかも。お前がここに来た理由は先輩のためじゃない。本当の理由は―――――――」
「や、やめろっ!」
「何でだよ?本当の理由はテレビの中にわくわくしてたんだよな。何か新しいことが始まるかもしれないって、思ってたんだろ?運よく『先輩が死んだ』・・・なんていう口実もあったことだしなぁー?そう言えば、アイツはテレビの中にお前を連れてきてくれる。そう思ってたんだろ?」

シャドウ陽介はスッと燕を指差す。
燕はキッと鋭くシャドウ陽介を睨んだ。凪もシャドウ陽介を睨んだまま動かない。足元のコロマルだって、毛を逆立てて低くうなっている。合図をすれば、いつでもシャドウ陽介に飛び掛っていきそうな勢いだった。

「俺は・・・そんなこと・・・全然・・・・・。大空、見ないでくれ。コレは俺じゃ・・・」

この言葉に美和はハッとした。
シャドウとは、元を辿れば人間が自分の本音を抑圧していた部分。それを否定するということは、自分自身を否定すること。そうなればそれらは人間から切り離され、暴走してしまう。

「俺じゃ・・・」
「ダメよ花村君!自分を否定しちゃだめっ!」

美和は大きく叫ぶが、もはや手遅れだった。焦った陽介は、全身で目の前にいる自分を否定してしまう。

「俺じゃないんだっ!!!!!」
「くっくっくっくっく・・・・ははははははは!!!!!ようやくお前から解放される―――――――――――っ!!!邪魔する奴は死ねばいいんだよっ!」

シャドウ陽介が闇の力を放った瞬間、本物の陽介は意識を失った。
制御不能となったシャドウは大きく形を変え、燕と美和をギロリと見下ろす。それはまさに、歪んだペルソナ。ゴルフクラブを握り締める燕の肩に美和は手をのせた。

「いい、大空君。彼を助けるのはあなたよ。」
「え、でも俺にそんなこと・・・・」
「できる。だってあなたは、ワイルドの力を持ってるんですもの。大丈夫。クマだってあなたをサポートしてくれるわ。」

後ろを振り返れば、少し遠い位置からクマがガッツのポーズをしてくれる。燕は大きく息を吸い込んだ。
そう、一人じゃない。クマがいてくれて、もう一人の自分だっている。きっと・・・やれる。花村を助けることができる。

御陵も一緒に戦ってくれるのか?」

ふと疑問に思い、彼女にそう問いかけてみれば、美和は苦笑しながら部屋の入り口を指差した。そこに視線をうつせば、闘争心むき出しのシャドウたちがこちらを見ている。クマが小さく悲鳴を上げた。

「野次馬はいらないからね。アレは私とコロマルとで何とかするわ。大空君・・・花村君を助けてあげてね。」

パチリとウィンクしたあと、美和はコロマルとともにシャドウの塊へと向かっていった。
燕は彼女を見送ったあと、目の前にいるシャドウをにらみつけた。陽介から出た影の部分。だけどそれは、誰にでもある。
本当のことを思う自分。それを否定したい自分。
本当の強さは、そんな自分を認めてあげられることができること。いやな自分を乗り越えていけること。

「花村には・・・ちゃんとその力があるんだっ!うおおおおおおお―――――!!!!」

燕は彼を呼んだ。
もう一人の自分。目の前のシャドウと戦える、自分の力・・・・。


* * *


陽介が目をさますと、視界にみんなの安心した顔があった。
どこかやけに体が重くて、体育で沢山走ったあとのような体のだるさが彼を襲った。周りを見回せば、自分がテレビの中に入ったときのことを思い出す。

(確か俺は、一人で突っ走って、先輩の心の声を聞いて、そのあと・・・)

ズキンと頭に鈍い痛みが走った。「陽介、大丈夫か?」と言われて燕を見たとき、ソレが彼の視界に入った。
さっき否定した、もう一人の自分。意識を失ったかのように呆然と立っていて、陽介は正直見たくなかった。ずっとソレを見ていると、陽介の横に誰かが座った。御陵美和
彼女は少し眉を下げて、笑顔を小さく浮かべながら陽介に静かに声をかける。

「花村君の否定したい気持ちはよく分かる。でもアレは花村君自身だよ。否定された彼だって、すごく傷ついている。花村君に認めてもらいたい。きっとそう思ってるわ。大丈夫。私達は知ってるもの。花村君は、アレだけがあなたじゃない・・・。」

瞳を伏せがちな彼の頭を、美和は優しくなでてあげた。そうすると陽介は「ははっ、」と軽く笑ってから、立ち上がる。シャドウと向き合い彼は言った。

「分かってたさ、ちゃんと。お前は俺だって。否定したかった。だけどどんだけ否定したって、俺はお前。それは変わらない。そう、俺はお前、お前は俺だ・・・・。」

陽介の言葉に、シャドウは嬉しそうに頷いた。
青い光が陽介の体にしみこんでいく。そして黒い影は強き力へと姿を変えた。
困難に立ち向かう力。陽介のペルソナ。名前をジライヤという。
シャドウが消えてから、ガクっと陽介はバランスを失い、膝から崩れた。みんながびっくりして陽介に駆け寄ると、陽介ははにかみながら小さく呟く。

「ちくしょう、ムズイな。自分と向き合うって。」

そんな彼に燕は手を差し出した。「お前はちゃんと、自分と向き合えたじゃないか。」と、そう言って。美和は微笑みながら二人を見ていた。そして先ほど外で見つけたボロボロの一枚の写真を見る。後で陽介に渡さないとと、思いながら・・・。


* * *


クマの力でジュネスに戻ってくれば、ぐしゃぐしゃ顔の千枝がいた。彼女は散々怒鳴ったあと、涙を浮かべたまま走り去っていく。千枝が心配してくれたことに罪悪感を覚え、三人の心をは少し重くなった。

「とにかく帰るか。俺、今日はちょっといろいろあって疲れたわ。」
「そうね。二人ともペルソナに目覚めたから、だいぶ体も疲れてるはず。あ、そうだ大空君。私今日から大空君の家に晩御飯つくりに行くから、下の食品売り場によってくれる?」

美和が急に思いついたように言ったので燕は慌てる。そんなこと、聞いていない。確かに今まで買い弁だったので栄養は偏っている。本当は自分で晩御飯が作れればよいのだが、そんな技術持ち合わせていない。作れるとすれば味噌汁ぐらいだ。

「そんな急に・・・。確かに家は隣だけど・・・その・・・・・」

菜々子を除いて、同級生の女の子と食事だなんて・・・・。

燕が冷や汗をたらしていると美和は怒ったように彼を見つめ、仁王立ちになり、凄い勢いでまくしたてた。

「あのねぇ、聞いたわよ。遼おじちゃんから。ずっと買い弁なんだって?そんなんじゃ栄養が偏るわ。あなたもナナちゃんも成長期なんだからダメよ買い弁ばっかじゃ。それに私こっちに帰ってきたときは、ずっと遼おじちゃんちに晩御飯作りに行ってるの。今、うちも叔父さんたちいないし。ほら、食品売り場。もう遼おじちゃんからお金はもらってるから。」

陽介に視線をうつすと、「いいなぁ転校生!」という目つきをされた。とうとう燕は折れ、食品売り場へと行くためにエスカレーターを目指して歩き始めた。美和はそれを追う。
「じゃーな、お二人さん」と声をかけた花村を振り返り、思い出したように写真を手にした。

「あ!花村君、これ・・・。テレビの中のコニシ酒店の外で見つけたの。多分、花村君にとって、大事なものだと思うから。」
「俺にとって・・・?」

疑問符を浮かべつつ、陽介は差し出された写真を手に取った。そこに映っているのは、笑顔の早紀と陽介の二人だけ。
ジュネスで撮った写真だった。ドクンと大きく、陽介の心臓が跳ねる。

「花村君、私ね、思うんだけど小西先輩は花村君のこと、大切だったんだと思う。」
「は・・・?なんだよそれ。」

眉をひそめつつそう陽介が問えば、美和はにっこり笑った。そばで彼女を呼ぶ声がして、美和は「写真の裏。」とだけ告げると、美和を待っていた燕へと走っていった。

「写真の裏って・・・・」

ぽりぽり頭をかきながら陽介が写真を裏返す。すぐにその文字が目に飛び込んできて、陽介は大きく目を開いた。

『ジュネスにて。大好きな花ちゃんとのツーショット』

早紀の字で、そう綺麗に書かれていた。

「せ、ん・・・ぱ・・・・・いっ!!!」

陽介は誰もいないテレビの前で泣き崩れる。
溢れる想いが涙となり流れていく。男は泣かない。だけど今だけは泣かせて欲しいと陽介は何かに願った。この先は何があっても泣かないと、心に誓いながら・・・。




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