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#7 第二の事件の糸口へと


燕と美和、陽介と千枝はジュネスの家電売り場、あのテレビの前に立っていた。平日だというのに今日は驚くほどに人が多く、とても平気な顔をしてテレビの中に入れる状況ではなかった。もしも入ってしまったら、世界を揺るがす大騒動になってしまうだろう。そう考えていち早く陽介が苦笑した。

「・・・ねえ、こんなんじゃテレビの中に入れないよ?」

困ったように千枝が言う。周りを見れば、若い人から年配の人まで、みんな家電製品を見ていた。壁には『家電製品、大特価市!』なんていう幕が張られていて、陽介は思い出したように声を上げた。

「そっか思い出した!今日は家電製品の安売りの日だったっけか!うっわ~、ちっくしょぉ~・・・!」

悔しそうにガリガリと頭をかく陽介。そんな彼を見ていて、美和が小さく呟いた。

「手だけ突っ込んで、クマのこと呼べないかな・・・。」
「・・・御陵!それだよそれ!ナイスアイデアっ!里中、ちょっとこっちに来い。俺の横に立つんだよ。御陵は向かい側に。んで大空、お前画面に手つっこんでクマのこと呼んでみろ。どうせそこらへんにうろうろしてるんだろ、アイツ。」

パチンと陽介が燕にウィンクを送った。千枝と美和は陽介に指示されたとおりの場所に立つ。壁が完成したところで燕が一度自分の手のひらを見て、そっと画面に手を突っ込む。突っ込んだあと、彼は手をひらひらと振ってみた。しばらくして、何かが近づく気配がし、ズキンと鋭い痛みが手に走る。

「っつ・・・!」

驚きと痛みで燕はすぐに手を引っ込めた。

「大空君!?」
「大空君どうしたの!?」

手を押さえる彼は、丸めた手のひらをそっと広げてみる。綺麗な歯型がついていた。どうやら訳の分からなかったクマが、本能的に噛み付いたようで・・・。

「え・・・ちょっとヤダ。歯型ついてるじゃないの!」

慌てて美和が燕の手を掴む。幸いにも血は出ていない。見ていた千枝も、痛そうに顔を歪める。陽介が呆れていると、テレビの中からあの声が響いてきた。

「何なに?これ何のゲーム・・・?」

それは燕に噛み付いた張本人、クマの声。陽介はクマに尋ねてみる。誰かがテレビの中に入っていないかどうか。そちらに興味があった千枝も燕を美和に任せ、陽介と一緒にクマの言葉に耳を傾ける。

「クマったら、思いっきり噛み付いたのね。あぁもう、歯型消えない。大丈夫?大空君。」

心配そうに傷を見る美和。燕の顔近くに美和の顔があり、燕は体が火照っていくのを感じた。
恥ずかしさから?それとも何か違うものから?どっちからなのかが分からない。どうも最近自分の調子がおかしい。それもこれも、美和と出会ってからだった。
陽介と美和が話しているのを見ると、突然胸がキュッと苦しくなる。ひどく嫌な気分になる。
美和を見ているとドキドキしてくる。50メートルを全速力で走ったようなドキドキ感ではなく、もっと違うもの。一体何なんだ・・・。

「・・・大空君?」

「へ・・・?」

気付けば美和が燕の顔を覗き込んでいた。意識をどこかへ飛ばしていた燕は、急なことだったので驚く。「うわっ!」と声をあげ、燕から少し体を離した。そのあと慌てて「大丈夫!」と取り繕う。
そう、よかったと美和が安心したようにふわりと笑った。燕の心臓が、また大きく跳ね上がる。

「あ、でも念のために家に帰ってから手当てしてあげるね。」
「あ、ああ。よろしく頼む・・・。」

美和に言われた言葉が嬉しくて、燕は少しだけはにかんだ。残念なことに、彼のはにかんだ顔を見ていたのは美和だけではなかった。陽介と千枝もクマとの話がちょうど終わったところで、偶然にも目撃していたのだ。千枝はこっそり、陽介に耳打ちする。

「大空君も、あんなふうにはにかむんだね。ていうか、御陵さんの前だと何か雰囲気柔らかくない?」

ニヤリと千枝は笑い、実は二人って・・・なんて含み笑いをする。陽介は二人を見つめたまま、呟いた。

「んなことあるわけ・・・ないだろ。だって御陵と大空って、知り合ったばっかだし・・・。」

やけに冷たい言い方をする陽介に、千枝は頭に「?」マークを浮かべる。
どうしてか陽介は美和と燕の関係を認めたくなかった。それどころか、彼は燕のことをズルイと思うし羨ましいとも思う。だって、美和の手料理が食べれるじゃないか。
誰よりも美和と長く、一緒にいられるじゃないか。
確かに写真の一件で美和とは仲良くなったけど、美和と過ごす時間は燕よりも短い。
悔しい。この言葉が一番今の状況に合う言葉で・・・。

(あーもー!俺ってばどうしたんだよ!こんなにイライラして!)

ジュネスの家電売り場で、陽介は意味もなく頭を抱えるのだった。



* * *


その日の真夜中は雨が降り続いていた。
みんなとの約束で、今日も真夜中テレビを見よう!ということになっていたので、美和はドキドキしながらテレビを消した。横には念のため、コロマルも待機している。
この前は真夜中テレビがちゃんと映らなかった。今回もダメだろうか・・・?そう思った時、画面が歪み、鮮明な画像が映し出される。

「映った!」
「わんっ!」

リモコンを握りしめ、映像を見ていると、テレビに映っているのは天城雪子。美和は息を呑む。やっぱり自分の予感は当たっていた。彼女は激しく後悔した。
どうして夕方、みんなに理由を話して雪子のところへ行かなかったのかと。行っていれば、彼女はテレビの中に入れられなかったかもしれない。犯人を、捕まえられたかもしれない。
テレビの中の雪子は、『逆ナン』という言葉を残して、大きな城の中へと姿を消した。そこでブッツリ、映像が途切れる。

「わう・・・・わんわん!」

消えたテレビに走りより、コロマルが低く吼えた。美和も深呼吸して呟く。

「次は雪子ちゃんを助けなきゃ・・・。」

その言葉は、固い決意へと変わっていった。



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