Welcome to my blog

25=10

ARTICLE PAGE

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

#9 自分との絆の力



あんたなんか、あたしじゃない。

千枝は全力でもう一人の自分を否定した。それに合わせて、シャドウ千枝はだんだんと力を増していく。その力を前に、千枝本人は意識を失った。本物の千枝がシャドウ千枝の存在に押されている証拠。
黒い光が飛び交い、そして現れたもうひとつの邪悪なる存在に、燕たちは唾を飲んだ。

「これがもう一人の里中なのか・・・?」

あまりの邪悪さに、陽介は呟いてしまう。
自分だって同じことを経験したし、邪悪なる存在を、裏の自分を認めたはず。だけど実際目にしてみたら、信じられないほどだった。人間のどこにこんな邪悪なる影がいるのだろうか・・・?

「えぇそうよ。これがもう一人の千枝ちゃん。だけどこれも私たちが知っている千枝ちゃんの一部なのよ。」

冷静に美和が言った。
彼女の言葉に陽介がニッと笑い、「そっか。そうだよな!」と付け足した。その横で燕も頷き、コロマルもクマも同意する。

「よし、じゃあ行くぞ。みんな!」

シャドウ千枝が燕たちを敵視した時、リーダーである彼は大きく叫んだ。

「ペルソナーッ!!」

みんなのもう一人の自分を呼ぶ声。呼ばれた自分はゆっくりと目覚める。
心の海からいでし者。シャドウを打ち負かす力。

『どうして邪魔するのよ!?あたしは自由になりたいだけ!!』

シャドウ千枝を阻む者たちに、彼女は叫んだ。
千枝という人間の中に押し込められ、出てくることさえ叶わなかったもう一人の自分。傷つくのは千枝じゃなく、『千枝』だった。いつも、いつも、いっつも!それが苦しくて悲しかったのに、千枝は全く気づいてくれなかった。いや、気づいているはずなのに、ずっと目をそらしていた。それがとっても悲しくて・・・。

『あんたたちに、あたしの・・・シャドウの気持ちなんか・・・!』
「えぇ、分からないわよ。」

彼女の悲痛な叫びに、美和の声が重なった。
青い光を纏(まと)ったまま、美和は冷たい声でいう。瞳までも氷のように冷たかった。

「だって私はシャドウじゃないもの。でもね、自分自身を愛す方法なら知ってる。それは人それぞれ。あなただって、きっと千枝ちゃん自身から愛されたことだってあるはずよ。」
「誰だってみんな、影の自分を認めたくないもんなんだよ。自分と向き合う。それはすっげー難しいことで、勇気のいることなんだ。」

美和に続けて陽介が口を開く。燕も頷き、言葉を発した。

「気づいてもらえない・・・寂しかっただろう。だけどその寂しさを訴える方法を間違えるな。千枝を殺して何になる?お前だって分かってるだろう?千枝を殺して自由になるなんて間違ってるだけだって。自分を半分失って、また傷つくのか?『千枝』・・・。」

最後は優しく『千枝』に問いかけた。彼女は燕の言葉を聞き、大きく目を開く。
そう。シャドウ千枝自身も分かっていた。こんなことをしても意味がないと。ただ、千枝に気づいて欲しかっただけ。

『あたし・・・。』
「ごめんね・・・。」

ふいに、シャドウ千枝と同じ声がする。燕たちが視線を移すと、先程まで気を失っていた千枝が、ゆっくり立ち上がるとこだった。

「そうよ、あたしはずっと前からあんたの存在に気づいてた。今までごめんね、『千枝』。ずっとずっと寂しかったよね。傷ついてたよね。もう一人にしないよ。雪子みたいに女の子らしくないし、勉強だって何だってできない。だけどそれがあたし。あなたはあたし、あたしはあなた・・・。」

千枝はもう一人の自分の前に立ち、頬に触れた。自分の愛し方、分かったわけじゃない。だけど彼女は一つ学んだ。
自分自身と向き合う方法。
千枝の言葉にシャドウ千枝は顔をほころばせて頷く。その瞬間、シャドウは光へと姿を変え、千枝の前に新しい姿を見せた。 強さは力へと変わる。

千枝の前に現れたのは、自分ともう一人との絆の力。そして心の力。ペルソナと、人はそう呼ぶ。

『私はあなたの心の海よりいでし者。名を、トモエという。あなたが力を望む時、私はあなたと共にありましょう。』

高貴な声がこだまし、まばゆくように美しい光は千枝の体へと浸透していく。千枝のペルソナ・・・名前をトモエ。
源平合戦の折、女でありながら自らも武器をとり戦った人物、巴御前。力を授かった千枝はその場に膝をつく。

「里中っ!」
「千枝ちゃんっ!」

立ち上らせていた青い光をおさめて、みんなは彼女に駆け寄った。肩で呼吸をしつつ、千枝はみんなに笑ってみせた。いつものようにはにかんだ顔で、「えへへ」と呟く。恥ずかしそうに。
ほっと美和は息をついた。それでもやはり疲労が激しいのか、時たま千枝は苦しそうに顔をゆがめる。
美和は自分がペルソナを得た時のことを思い出した。ペルソナを得た時はただ、体が重くて仕方なかった。力を何かに吸い取られてしまう感覚がたまらなく辛い。きっと千枝も今、そんな感覚を味わっているのだろう。でもこれは、ペルソナを得たものならば誰でも通る道・・・。

「立てるか?里中。」
「ありがと、花村・・・。」

千枝は陽介にひっぱられて立ち上がった。ぐらりと少し体が傾く。

「大丈夫か?今日はもう引き返そう。」

燕も心配になり、そう言った。

「え?あたしまだやれるよ!雪子を探さなきゃっ!」

彼の言葉に反対したのは一人じゃ立てないほど疲労している千枝本人だった。そんな彼女にぴしゃりと美和が言う。

「千枝ちゃん、それは無理よ。ペルソナになれた私達でさえ、ここでは少し疲労を感じるんだから、このまま進めば大変なことになるわ。」
「そうだな。ここに入れるのは今のとこ俺たちだけだし、俺たちが死んだら天城も助けられない。今のリーダーの指示は的確だと俺は思う。だから・・・引き上げようぜ、里中。」

ニカっと陽介が千枝を安心させるようにウィンクした。クマも陽介の言葉に付け足す。

「そうクマよっ!まだ霧が晴れる気配はないクマ。ちーちゃんが元気になってから友達を迎えに行かないと、友達も元気にならないクマよ!」

力強くクマが言ったのが可笑しくて、千枝は「ぷっ」と吹き出した。つられてみんなも声を立てて笑い出す。笑いながら美和は思った。やはり千枝には笑顔が一番似合うのだと。



* * *


「それじゃ俺、里中のこと送っていくわ。」
「今日はごめんね、大空君に御陵さんも。家に帰ったらゆっくり休むし、心配しないでね。それじゃまた明日。」

現実世界。
ジュネスの家電売り場で、陽介と千枝の二人は一足先に帰っていく。例の通り、コロマルは店員に見つかると大変なことになるので、こっそり先にその場から姿を消していた。残ったのは美和と燕の二人だけ・・・。
二人はゆったりと歩き出し、ジュネスの店内から出た時にはもう、大きな夕焼けが見えていた。街灯もパラパラと点灯し始める時間帯。二人の間に言葉はなかった。
今日の夕飯は何にしようかと、美和は考えて歩く。そのうち隣にいた人物が視界から消えたことに気付き、彼女は振り返る。燕が立ち止まり、美和のことをじぃっと見つめていた。

「どうしたの?大空君。」

不思議に思って美和は小首をかしげる。言葉はなかった。ただ灰色の瞳が凪を見つめ、さらさらと風が燕の髪をくすぐった。

「なぁ、御陵。時々俺は不思議に思うことがあるんだ。ペルソナはもともと俺たちの影・・・つまりシャドウなんだろう?俺たちはそんなシャドウを抱えて普通にテレビから向こうの世界に出入りしている。
ここで疑問が起きるんだ。じゃあ、向こうに存在するシャドウたちも、現実の世界に出てこれるんじゃないかってね。」

彼の言葉にゴクリとつばを飲む美和。同時にあの夜のことを思い出した。
2年前の1月31日。
タルタロスの屋上で、現実世界に現れたシャドウと戦った。地上に降り立った"絶対のもの"とも戦い、そして彼は宇宙の片隅でひっそりと眠りに着いた。あの人と一緒に。あの惨劇を生み出してはいけない。
人間には人間の住む世界が、シャドウにはシャドウの住む世界がある。ペルソナに目覚めたということは、その世界が、再び交わろうとしているということだ。そうなればきっと・・・シャドウも現実の世界に姿を現すこととなる。

「そうね・・・。でも多分、まだ大丈夫だわ。だって現実の世界じゃペルソナは使えないもの。きっとシャドウは現実の世界に出て来れない。だけどいずれ・・・。」

そこで美和は言葉を切った。彼女の独り言のようなセリフに耳を傾けつつも、今度は燕が首をかしげる。くるりと美和は向き直り、空を仰ぎ見た。
今はただ、そんなことがないように祈ろう。
きっと大丈夫だ。
彼はいつも、この広い空のどこかでみんなを守ってくれているはずだから。

「大空君、いずれね、シャドウがこの現実世界に出てくる日が来ると思うの。だから私はそんな日が来ないように、この事件をすぐにでも片付ける。ねぇ、大空君は・・・手伝ってくれる?」

美和は何かを決意した目で燕を見る。その目には強い光が灯っていて、燕は目をそらすことができなかった。いや、目をそらす理由があるだろうか?シャドウがこの世界へ出てきてしまっては、被害は拡大するだけ。そんなこと、燕だって望んでいない。
ゆっくり彼は美和に歩み寄り、ニコリと笑って手を差し出した。

「もちろんだ。俺でよければ協力する。俺たち、仲間だろ・・・?」

差し出された手を見つめ、彼女も微笑む。そしてしっかりと燕の手を掴んだ。



スポンサーサイト

- 0 Comments

Leave a comment

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。