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#11 心の内から叫ぶもの



雪子救出隊は今日もジュネスの家電売り場から異世界へと進入する。
本当は干渉してはいけない世界だった。けれども、誰かがこの世界に干渉している。それを止めなければと、美和は思う。このままこちらの世界が膨れ上がってしまったら・・・。あの恐怖と悲しい出来事を繰り返してしまうかもしれない。
ズサリとシャドウを切り落とす。敵は煙となって消え去った。

「もう!どこまで行けば雪子のところへたどり着けるのよ!」

すらりと綺麗な足がシャドウにヒットする。千枝はイラつく心をシャドウにぶつけるように蹴った。最後に燕がジオで敵を一掃すると、戦闘は終わる。みんな肩で息をしていた。

「あとどのくらいいけばいいんだよ。」

陽介が呟くと、クマのサポートが入る。

「みんな、頑張るクマよ!!雪ちゃんの反応が近いクマっ!」
「反応が近い・・・?ということは、この上か・・・。」

そう言う彼は、目の前にある階段を見上げた。この場所に来るまで、すでに4日かかっている。
まだペルソナをうまく扱えない千枝や陽介にペースを合わせていたので時間がかかってしまったのだ。でもそれは仕方のないことだと美和は思う。
ペルソナは今まで使ってこなかった力であり、それよりもペルソナに目覚めること自体が異常なのだ。使いこなすには時間がいる。でも・・・。美和は階段を登るチームのリーダーに目を向けた。そう、彼は特別だった。まるで、目覚めることが当たり前だったかのようにペルソナを使いこなす。昔のリーダー・・・あの人と何もかもがそっくりで、美和は戸惑いを覚えるばかり。

(でも彼はあの人じゃない。燕は燕。なのに私・・・。)

振り返る彼の顔が昔のリーダーと重なってしまう。

美和・・・?」

燕に腕を掴まれて、彼女はハッと我に返った。

「大丈夫か?ぼっとしてたぞ。美和にもだいぶ負担かけてるし、疲れたなら・・・」
「大丈夫よ。それより早く、雪子ちゃんを助けましょう。何があるか分からないし、今だったらまだ、千枝ちゃんも陽介も大丈夫みたいだから・・・。」

ちらりと二人に目を向けると、「雪子!」と叫びながら千枝が階段を駆け上がっていった。

「ったく!あれだけ一人で行くなっつったのに!」

舌打ちしながら陽介も千枝のあとを追う。コロマルもそれに続いた。

「どうやらあの三人、帰る気はないみたいね。」

彼らのうしろ姿を見送ってから、美和はいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「そうみたいだな。仕方ない。行こう、美和。」

つられて燕も笑うと、彼女の手をぐいと引っ張り、三人のあとを追って走った。
階段を登りきると大きな扉があり、その扉はすでに開かれていた。扉の向こうには大広間があり、燕と凪はそこで千枝たちと合流する。視線を前に向ければ、青くまがまがしい光を放つ雪子がいた。

「雪子・・・・。」

「あら?あらあらあら?まぁ、王子様が4人も!待ってたのよ、私の王子様・・・。」

その瞬間、千枝が苦虫を潰したような顔をして唸る。

「え?ええええええええ!?私も王子様なのっ!?」
「・・・・私もね。」

彼女の訴えに合わせて、美和も一緒に苦笑した。すると、ずいとクマとコロマルが1歩出て、「3人目と4人目はクマとコロマルでしょ!」と怒鳴る。陽介が絶対違うと呟いた。目の前の雪子はすっと目を細めると千枝を見る。

「うふふ、待ってたのよ千枝。千枝は私の王子様。私のことを守ってくれるナイト・・・。でもね、結局千枝じゃダメなのよっ!旅館の娘だから若おかみ・・・?そこに生まれたから私の生き方は決まってる?そんなの私いやよ!誰か私をここから連れ出して欲しい。連れ出してくれる人を待ってた。それは・・・あなたなのかしら?」

千枝から視線がはずれ、雪子は燕を見た。ぞっとするほど冷たい瞳、黒いオーラ。これは雪子ではない。ギリリと燕が唇を噛むと、「待って!」というか弱い声が上がった。頭を抑え、ふらふらと歩いてくるのは本物の雪子だった。

「雪子っ!」
「千枝・・・みんな・・・」

彼女は苦しそうな表情でみんなを見た。フンともう一人の雪子は鼻を鳴らす。

「何よ。今更あんたが出てきたって、私は止められない。私はもういやなのっ!あんたに縛り付けられるのは。心の奥底では、旅館のおかみなんていやだと思ってるくせに。もっと自由に生きたいって思ってるくせに、いつもあんたは思うだけ。旅館のおかみなんて・・・クソくらえだわっ!」

もう一人の雪子――――――シャドウ雪子は吐き捨てるように言う。雪子は絶句した。息をのみ、「なんてことを!」と唇を震わせて叫ぶ。それでもシャドウ雪子は高らかに笑って大きく言った。

「私は・・・自由になるのよ!旅館なんて継がない!私は私の意志で生きるの!」

それはきっと、雪子がずっと叫びたかった言葉であり、口にできなかったこと。雪子は目を大きく開いて言葉を小さく紡ぐ。「違う」と3文字。美和はこの言葉にこめられた意味を悟った。

そんなふうに思ってない自分。そして、そんなふうに言う自分。違う。それは否定の言葉。

「ちがう・・・わたしは・・・そんなこと・・・・思ってない。私はちゃんと旅館をつごうって思ってる。そんなふうに言うあなたは・・・あなたはっ―――――――」

泣き出しそうな表情を浮かべて、彼女はまっすぐシャドウ雪子を見た。「あっ」と燕たちが声を上げる。まもなく、雪子はもう一人の自分に向かって、否定の言葉をぶつけた。

「私なんかじゃないっ!」

その瞬間、空気が凍りつく。下を向いていたシャドウ雪子は小さく笑い、目を光らせながら顔を上げた。

「っ!来るわ、みんな・・・」

びりびりと伝わってくるシャドウの雰囲気を感じ取り、美和はペルソナに不慣れな千枝と陽介に言った。
シャドウの力が大きくなるにつれ、本物の雪子の意識はだんだんと薄れていく。彼女が完全に意識を失った時、シャドウ雪子は本来の姿へとなった。

「ゆき・・・こ・・・・・。」

千枝が声を震わせて彼女の名前を呼ぶ。シャドウはギロリと千枝をとらえると、高く笑って嬉しそうに言った。

「千枝、こんな私だけど、千枝はずっと友達でいてくれるよねっ!友達なら・・・死んでよ千枝!」
「あぶないっ!!」

すんでのところで美和が千枝を突き飛ばし、代わりに攻撃を受けた。陽介と燕が鋭く叫ぶが、美和は平気な顔をして体勢を立て直した。
彼女のペルソナはかつてのリーダーから受け継いだペルソナ。どんな炎にも負けない、強い光と炎をまとったペルソナ、オルフェウス。

「大丈夫。私のペルソナは火炎属性よ。火炎の攻撃なら、その効果を打ち消す。」

ホッと燕と陽介の二人は胸をなでおろした。
シャドウ雪子は不敵な笑顔を浮かべたまま千枝を見ていた。その視線に美和は気付く。ひゅっと唇を鳴らすと、耳をぴんと立てたコロマルが千枝の前に立った。

「え・・・?」

彼女はコロマルのうしろ姿を見たまま首をかしげる。千枝を守るように立つコロマルは、彼女の顔を見たあと高く吼える。その声と重なるように美和が背を向けたまま言った。

「千枝ちゃん、火炎系は弱点でしょ?雪子ちゃんは千枝ちゃんを狙ってる。彼女は火炎系なのよ。本当はこの戦闘にあなたは参加しないほうがいい。だけど、雪子ちゃんの一番の友達は千枝ちゃん・・・。今はあなたの声が必要な時だわ。コロマルに火炎系の攻撃はきかない。だから彼は、あなたの盾となる。」
「ワフっ・・・!」

任せろというふうにコロマルは鳴いた。陽介は息をのんでから美和に尋ねた。

美和・・・こんな短い間にそんなに分かったことがあるのか?」
「ええ・・・。ペルソナを使ったのも、シャドウと戦ったのも初めてじゃないから。」

彼女は武器を構えなおして言う。クマが「あっ」と声を上げ、全員に向かって叫んだ。

「こ・・・攻撃が来るクマっ!」
「全員、防御体勢!」

クマの声に合わせて燕が大きく言う。シャドウ雪子は炎を手の中に集めていた。そのすぐそばで倒れる本物の雪子の姿が千枝の視界に入ってくる。

(雪子・・・雪子は私が―――――――助けるっ!)

シャドウ雪子から、赤々と燃え盛る炎が放たれた。


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