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2017.06.02  #49 <<13:06




「うーん・・・。穏やかじゃないねぇ。」

神聖ブリタニア帝国、帝都ペンドラゴン。皇子や皇女たちが集まって、難しい顔をしていた。彼らの傍らに立つのは、ナイト・オブ・ワンのビスマルク。彼が伝えに来た言葉に反応したのはオデュッセウスとシュナイゼルだった。

「中華連邦に宣戦布告なんて・・・。」
「皇帝陛下がそうおっしゃったのかい?」

穏やかに言葉を紡いだシュナイゼルのほうを見て、ビスマルクは言った。

「はい。全て奪い取れと。」

立っているだけでも圧倒される存在感。沈黙してしまうような雰囲気の中、ひときわ明るい声が上がった。ブリタニア帝国第5皇女、カリーヌ。ナナリーと同世代の彼女は、満面の笑みで言う。

「あたし賛成!中華連邦なんてやっつけちゃおうよ!」
「オデュッセウス兄様を辱めたなんて許せませんわね。」

次に口を開いたのは、ブリタニア帝国第1皇女、ギネヴィア。左の胸にあるバラのタトゥーが印象的な皇女で、彼女は怪しく笑いながら言葉を呟く。そんな彼女にオデュッセウスは困った顔を見せる。

「ギネヴィア。天子とのことは私は気にしてないから。EUとの戦争も続いているし、エリア11の和平路線はナナリーやリリィのおかげで順調だっていうから、穏便に・・・」

そう告げる彼に、カリーヌが苦虫を潰したような顔をした。カリーヌは一方的にナナリーを嫌っていて、何かと文句を言っている。それに、カリーヌとしてはナナリーの味方をするリリィのことも嫌いだった。
ブリタニアの皇女のくせに、イレブンたちに肩入れをするところが気に食わない。ブリタニア皇帝に溺愛されているということも、同じ皇女として気に食わない。そしてあの実力も、第8世代という新しいナイトメアを与えられたことも・・・。ナナリーと一緒に立つ姿を想像しただけでイライラしてくる。

「んもう!ナナリーやリリィなんてどうでもいいじゃない!」
「カリーヌ、ナナリーとは歳も近いんだし、仲良くしてくれよ。それにリリィだって、昔からお前を大切にしてくれてるじゃないか。」

ため息をつきながらオデュッセウスは彼女をたしなめた。横ではギネヴィアが同調するかのように言葉を発する。

「あの時リリィがオデュッセウス兄様についていながら、みすみす天子を逃すなど・・・。エンジェルズ・オブ・ロードとしての本質が損なわれますわ。なぜリリィが皇帝陛下に一番近い部隊として存在しているのか、私には分かりかねます・・・・。」

ぎりっとギネヴィアは唇をかんだ。その話をシュナイゼルが静かに目をつぶって聞いている。
シュナイゼルとしては、妹として可愛がってきたリリィが悪く言われ面白くない。彼女の実力は本物だ。彼女の努力も・・・。だからリリィは、皇帝にエンジェルズ・オブ・ロードという地位が与えられた。そして・・・リリィは不思議と人を惹きつける。人を敬い、慕う彼女だからこそ・・・。そんな自分も、彼女の魅力にひきつけられているうちの一人なのだが。

「コーネリアさえいてくれたら・・・。ビスマルク、何か聞いていないの?」

ギネヴィアの言ったワードに、全員が下を向いた。ビスマルクは首をふる。コーネリアの消息は、騎士であるギルフォードの元へも届いていない。ユーフェミアが死んでからというもの、行方不明・・・。沈黙が続く中、シュナイゼルはゆっくりと目を開いた。今回の指揮はシュナイゼル自身が執るという。今の中華連邦はバラバラで、交渉だけで領土の半分は取れるとシュナイゼルは言った。

「それで十分なのでは?」

自信に満ちたような顔でそういう第2皇子に、他の者たちは何もいえなくなった。そこで思い出したようにシュナイゼルはもう一つ、皇女たちに向けて言葉をつけたす。

「ああそうだ。ギネヴィア、カリーヌ。私はリリィの実力は本物だと思っているよ。リリィは私の可愛い妹でもある。あまり悪く言うと、私が許さないからね。」

シュナイゼルはそう言って、席を立った。カリーヌやギネヴィアは彼にそうたしなめられ、静かに俯くのだった。


* * *


スザクは自分の執務室で、今から会議に使用する資料の整理をしていた。机の上に資料を広げ、一つ一つ丁寧に確認する。
ふと、資料の横に置かれた携帯が視界に入った。今からアッシュフォードでミレイの卒業イベントがあるのを思い出す。なんでも、キューピットの日だとか・・・。ジノがえらく楽しみにしてて、昨日の夜からスザクも一緒に参加しようと誘われている。もちろん、会議があるからと断り続けているのだが・・・。

「僕は総督補佐だから・・・。」

一人呟いてみる。本当は参加したいけど・・・。それに、今回のイベントでは不安なこともたくさんあった。ジノがハメを外さないかどうか。アーニャが問題を起こさないかどうか。そして・・・リリィの帽子が他の誰かに奪われないかどうか。例えばルルーシュ・・・。もしもルルーシュがリリィの帽子を奪ったら・・・生徒会長命令で二人は恋人同士だ。スザクはギュッと拳を握った。そんなに不安なら、参加すればいいのにと、彼は自分を笑った。そうできない自分を呪うと同時に・・・。
ため息をつき、机の携帯に手を伸ばす。電話帳から、ある人物の番号を呼び出した。ライ・ルシフェル。しばらく呼び出し音が続き、やがて相手は電話に出た。

「スザクから電話がかかってくるなんて意外だった。何か用事・・・?」

口ではそう言っているが、この男、スザクが電話をかけてきた理由をとっくに見抜いている。

「・・・僕が電話をかけた理由をとっくに見抜いてるくせに。」

言葉とため息が同時に出た。電話の向こうの主が小さく笑う。

「ふふっ、確かに見抜いてはいるけど、僕はスザクからまだ何も聞いてないよ。だから僕の予想は外れるかもしれない・・・。」
「いや、その予想は100パーセント当たりだよ。答えを言おうか?」

そこで一息つくスザク。かすれるような囁き声でライに伝えた。

「僕のかわりに、リリィを守ってほしい・・・。」

「・・・なるほど。やっぱりそう来たか。心配しなくても、僕はリリィを守るよ。僕だって、みすみす他の男にリリィを渡したくないからね。特に、ルルーシュには・・・。」

最後のほうで、ライは声を低くして言う。声だけなのにぞくりとするほどの圧倒感が伝わってきた。彼は何を思ってそう言ったのだろう・・・?しばらく沈黙が続く。その沈黙を破ったのはライのほう。

「ねぇスザク。もしもね、僕がリリィの帽子を奪って恋人同士になっちゃったら、君はどうする?」
「・・・えっ?」

突然の質問に少し戸惑ったが、スザクはすぐ答えた。

「君からリリィを奪う。」
「その覚悟があるなら、僕にリリィを守ってくれなんて言う必要、ないんじゃないかな。」

ライの瞳が細められた。そんなに気にしているのなら、スザクも参加すればいいのにと、そう呟けばスザクは静かに答えた。総督補佐として、仕事をしなきゃいけないのだと・・・。

「ねぇスザク。今という時間は一度きりなんだ。その時間には、特別な思い出が刻まれることもある。それは決して、忘れることのない宝物になるかもしれない。スザクにとっての宝物の時間は、アッシュフォードでの時間と、総督補佐の時間と、どっちなんだろうね?」

柔らかいライの声がスザクの頭に焼き付いた。自分の宝物の時間。そんなの分かってる。ナイト・オブ・セブンとブリタニア皇女が一緒に同じ立場で過ごす時間・・・。まさしくそれが、自分にとっては宝物。けど・・・・。

「僕には総督補佐の時間のほうが・・・大事だから。」
「頑固者。」

すかさず言葉が返って来たが、スザクは一方的に電話を切った。
ツーツーという音を耳にしたライは、苦笑ぎみで通話切断のボタンを押す。携帯を見つめたまま、静かに呟いた。

「全く、素直じゃないなぁ。ふふ、昔の僕とおんなじ。・・・スザク、どっちが大切なのかっていうのに気づくのは、過ぎてからじゃ遅いんだよ。さぁーてと、ルルーシュ・ランペルージ君。君は自分の安全とリリィ、どっちを選ぶつもりだい?」

誰もいない生徒会室から外を見る。まだイベント前だというのに、ルルーシュが大勢の女子生徒たちに囲まれていた。クスッとライは静かに笑って言葉をつむぐ。

「まぁ、君にリリィを奪わせるなんてまっぴらだけど。ねぇルルーシュ、君は確かに・・・ギアスを持ってる人間だよね?」

僕と同じ匂いがする・・・。

そんな彼の言葉をこっそり聞く人物がいた。たまたま生徒会室に来たロロ・ランペルージ。ロロの背中にはうっすらと冷や汗が浮かんでいた。昔から勘が鋭く、ギアスの力は自分よりも遥かに上回っている。おそらくルルーシュよりも強いだろう。やはり自分の兄は侮れない・・・。今後の計画がライにバレなければいいのだが・・・。


* * *


今回はパタパタと走ってくる音がしなかった。ここにやってきたのはリリィではないと感づく。そうすれば、答えはただ一つ。
プシュっとドアが開く音に、カレンはついに来たかと思った。甘くて拷問、厳しくて処刑・・・。どちらにしろ、ゼロのことをしゃべるつもりなんてなかった。彼は日本人にとっての、自分にとっての希望だから・・・。

「ようやく来たわね。拷問?それとも処刑?好きにしなさいよ。」

その言葉に、柔らかい声が返って来た。聞きなれたこの声・・・。カレンはハッとして顔を上げた。そこにいたのは、リリィと同じ雰囲気をかもし出すルルーシュの妹、ナナリー。

「お久しぶりです、カレンさん。」
「ナナリー・・・。」

カレンの瞳が揺れる。その姿に変わりはなかった。やはり目も見えず、足も不自由。それでも彼女は、エリア11の総督としてきちんとした服を身につけていた。静かに車椅子を進めたナナリーは、柔らかく笑ってカレンを見ている。

リリィお姉様がよくここに通っているという噂を聞いて、私も来てみました。」
「あの子は単に、物好きなだけなのよ。捕虜である私なんかのところにきて、何が楽しいのかしら?ぜんっぜん皇女らしくないし・・・。」

ツンとすましてみせると、ナナリーがクスリと笑った。ルルーシュと離れて少し落ち込んでいるかと思ったが、そうでもないように見える。笑顔は変わらず、可愛らしかった。

リリィお姉様は、カレンさんのことをすごく気に入っていらっしゃいますよ。カレンさん、お姉様とどんなお話をするのか私に教えてくださいませんか?私、しばらくカレンさんとおしゃべりしたいんです。」

また柔らかく、少女が笑った。まったく、姉が姉なら妹も妹だとカレンは苦笑する。どうしてこの姉妹は私の話を聞きたがるのかと、カレンは思った。けれども悪くない。知り合いと話をするのは。まるで昔に返ったみたいで・・・。カレンもナナリーに少しだけ笑顔を返した。

* * *

『あとで電話くらいしてあげてもいいだろう?今という時間が、いつまでも続くとは限らない………。』

『ねぇスザク。今という時間は一度きりなんだ。』

『社会的立場は変わったが、君はもともとユーフェミア様の騎士だ。コーネリア様の騎士である私の、先輩としての助言のつもりだったんだが・・・』

『スザクにとっての宝物の時間は、アッシュフォードでの時間と、総督補佐の時間と、どっちなんだろうね?』

ギルバートとライの言葉が交互に浮かんでは消えていく。電話でミレイの声を聞きながら、スザクは壁にもたれかかる。彼女はついに卒業を決意した。いつまでもモラトリアムしてる場合じゃないと彼女は笑った。ミレイ自身、何かに気付いたのかもしれない。

「スザク君、たまには緩むことも必要よ?」

彼女の優しい言葉に、スザクの目が細められた。ミレイの気遣いには昔からすごく助けられている。彼女だけじゃない。シャーリーにもリヴァルにも、すごく助けられていて・・・。だからスザクは、学園があるエリア11をどうしても守りたかった。そしてそれは、リリィが今、守ろうとしている土地で・・・。

「ありがとうございます、会長・・・。本当は僕も参加したかったんですけどね。」
「・・・ふふ、それってやっぱり、リリィ様のためよね?心配しなくても大丈夫よ、スザク君。本番はみんな、リリィ様の帽子どころじゃなくなっちゃうはずだから。」
「え・・・?」
「実はね、ルルーシュに犠牲になってもらおうと思ってね。ルルーシュの帽子を奪って私のところに届けたクラブには、部費を10倍にしようと思ってるんだ。」

にんまりとミレイは笑った。スザクは彼女の言葉に苦笑する。ルルーシュも大変だなと思う反面、少し安心する自分がいた。これでルルーシュには、リリィの帽子を奪う隙なんてできないだろうから。
「もうそろそろ切るね」と告げたミレイに、スザクは別れの挨拶をする。しばらく携帯を握り締め、その場に立っていた。天井を見上げて小さく息を吐くと、彼は壁から体を起こす。
そんな頃、ミレイは生徒会室で放送機器のスイッチを入れた。

「はぁーい。今日が生徒会長最後のミレイ・アッシュフォードでーす。まもなく私の卒業イベント、キューピットの日を開始しまぁーす。ルールは分かるわよね。相手の帽子を奪ってかぶったら、その二人は強制的に恋人同士。帽子を奪う方法は問いません。チームを組んでも道具を使ってもよし!」
「ねえライ。アッシュフォードって、本当に変わったことをする学園なのね。」
リリィ、あんまり僕やロロ以外の男子に近づいちゃ駄目だからね。いい。男子に追いかけられたら全力で逃げること。今日だけは全力を出し切っていいから。」

中庭を歩きながらライが隣を歩くリリィに言う。「なぜ?」とリリィは首をかしげた。そんな彼女にばれないように、ライはため息をつく。

(さっきから君のことを狙ってる男がいっぱいいるからだよ・・・。)

そんなライの苦労を知らないリリィは、頭にあるハート型の帽子に触れた。本当はスザクも参加できればよかったのにと、彼女はひっそりそう思う。寂しい・・・という感情がリリィの胸を支配した。けれどもせっかくのイベントだから・・・。彼女は笑ってライに言った。

「ライ。せっかくだから楽しもうね!」
「あ、ああ・・・。」

ライの言葉のあと、ミレイの声が風にのって聞こえてくる。

「では、スタートの前に私から一言・・・。3年B組ルルーシュ・ランペルージの帽子を私のところに持ってきた部は、部費を10倍にします!」
「なにっ!?」
「ルルのっ!?」
「かっ・・・会長~っ!!」

ルルーシュ、シャーリー、リヴァルがそれぞれ驚く中、一斉にアッシュフォード学園の生徒が動き出す。中庭に集まっていた生徒たちも、すぐに「部員を集めろ!」などと言って走っていってしまった。ぽかんとその光景を見ているライとリリィ。すぐに二人は苦笑して、顔を見合わせた。

「なんだか・・・大変だね、ルルーシュ。」
「まぁ・・・ね。でもとりあえず、僕たちはルルーシュのおかげでゆっくりできるかもね。」

のんびりと話す二人の会話のあと、ミレイのスタートを告げる声と花火が上がる。校舎のほうからは生徒達の真剣な声が響いていた。




さあ、降りて行って、そこで彼らの言葉を混乱させ、
彼らが互いに、ことばが通じないようにしよう。
(創世記11の7)


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