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2017.06.02  #50 <<13:29





リリィ・・・。お願いだ、俺を思い出して欲しい。
俺はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。お前を愛した人間。お前が誰かのものになるなんて、俺は耐え切れない。だからリリィ、お前は俺のものになってほしい・・・。お前の帽子を他の誰かになんて奪わせない。
会長がこんなイベントを開くなら、俺はそれを喜んで利用してやるさ。リリィルゥ・ブリタニア。お前は俺の大切な・・・恋人だ。

スタートと同時にロロはギアスを使った。自分の兄を助けるため、学園のみんなを一斉に止める。ただ二人だけ、時が止まらない人たちもいるのだが・・・。その二人を思い浮かべ、心の中で謝ると、ロロは目の前のルルーシュをロッカーの中に入れた。胸がキュッと締め付けられる感覚。

(さすがにきついな。これだけの人を止めるのは・・・。)

犠牲にしているのは、自分の心臓。あまり使いすぎると命にも関わる。だからライは、ロロのギアスを心配する。今も彼は自分のことを心配しているだろうかと思った。けどそれが逆に、少し嬉しい。心配してくれる人がいるのだと、思えるから。

「ライ、学園のみんなが・・・。」
「止まった・・・。ロロめ、ギアスを使ったな。」

ライが心配そうに目を細める。しばらくして、一斉にみんなが動き出した。何事もなかったようにルルーシュを探し出す。その中で、二人は心配そうな顔をしてたたずんでいた。

「あの子、数秒でもこれだけの人数を止めちゃったら苦しいはずなのに・・・。」

リリィも心配そうに顔をしかめた。
なぜこんな時にギアスを・・・?ライはその謎が解けなくて俯く。まさか誰かの手助けを・・・?もしかして・・・ルルーシュか?そこまで考えて、ふとリリィの気配がなくなったことに気付いた。顔を上げればリリィは駆け出していた。

リリィ!」
「ごめんライ!ロロが心配だからあの子を探すわ!」

そう言いながら駆けていく彼女。ライもリリィのあとを追おうとしたが、それはできなかった。ピンクの帽子をかぶった女子生徒たちがライの名前を連呼しながら迫ってくる。

「こんな時にっ!」

額に汗を浮かべて、ライはリリィとは逆の方向へ走った。それを密かにモニターで監視する人物が一人・・・。学園の地下施設に戻り、咲世子と入れ替わったルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだった。

「ライ・ルシフェル。お前も甘かったな。今日一日ずっとリリィを守っていられると?そんなわけないだろう?密かにライ・ルシフェルファンクラブがあってな、お前も結構モテてるんだよ。」

怪しくルルーシュが笑った。これでリリィの護衛は誰一人としていなくなった。今日は幸い、スザクも休み・・・。自分はブリタニア全生徒から追いかけられていて、彼女の帽子を奪う隙もないと思われているみたいだ。

(悪いが、頭の回転は速くてね。リリィの帽子を奪うことは、この作戦において計算済み。)

その時、影武者を務める咲世子が、ラグビー部から逃れるために変な掛け声をする。その掛け声にルルーシュは緊張感のない声を出した。「変な掛け声はやめろ」というルルーシュ。そのまま咲世子に第二体育館へと移動しろと指示し、彼女はそれに従った。
彼の指示したとおり、敵軍科学部が配置されていた。花火を打ち込まれるが、華麗な身のこなしで避ける咲世子。それを壁の陰に隠れてロロが見ていた。

(この様子なら、僕の援護は必要ないか・・・。)

少し微笑んでからそう思うロロ。あとは咲世子がうまい具合に敵をかわしてくれれば・・・。そんな時、自分の名前を呼ぶ声にロロはハッとした。心配そうな顔をして走ってくるリリィ

「ねえ・・・さん?」

周りに聞こえないように、小さくそう呟く。バレちゃいけない。今のリリィの立場と、兄弟だってことが・・・。
リリィはロロの姿を確認すると、一気に飛びついてきた。ロロの頬に手を寄せ、顔を覗き込む。全力で走ってきたのか、彼女の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。

「ロロ、あなた・・・ギアスを使ったでしょう?大丈夫なの?」

囁くようにリリィは言った。一瞬ドキっとする。やっぱり姉にはバレたかとロロは思った。そして彼女は自分を心配して、探しに来てくれた・・・。ほんわかそれが嬉しくて、けれども罪悪感も共に生まれてロロは下を向いた。

「無事ならいいの・・・。けどライも心配していーーーーーー」

そこで彼女の言葉が途切れる。リリィは驚いたように瞳を開いて、ロロの背中側を凝視していた。

「姉さん?どうしたの・・・?」

急に口をつぐんだリリィが心配になり、ロロは顔を上げる。同時に、野太い声やハスキーボイスな声が彼女の名前を叫んでいるのを耳にする。振り返れば男子の集団が向こうから押し寄せていた。

リリィさんっ!僕に帽子をくださいっ!」
「いや、俺にこそリリィさんはふさわしい!」

みんな思い思いに言葉を口にしている。そんな光景を見て、リリィは固まっていた。内心、自分の危機を感じているのかもしれない。ロロは鋭い目をして彼らをにらみつけた。そのままリリィの手をとって走り出す。

「姉さんっ、こっち!はやくっ!」
「ロロっ・・・。」

彼に手を引っ張られて、リリィも一緒に走り出した。ロロは服の中で揺れている赤い石を握ると、再びギアスを放った。一瞬にしてみんなが動きを止める。
後ろでリリィが「あっ・・・」と叫び声を上げたが無視した。ほんの数秒でもいい。時間が止まって、僕らが逃げ切れたら・・・。ロロはそれだけの思いで動いていた。校舎に飛び込み、ギアスを解除する。そのままリリィをつれて、校舎の屋上まで逃げてきた。下ではリリィが消えたことに対してみんなが慌てふためいていた。

「はぁ・・・はぁ・・・。ロロ、あなたまた・・・」
「ごめん姉さん。でもああしないと、姉さんが捕まったら大変だと思って・・・。」

ロロは座り込んで笑った。
しばらくリリィはしかめっ面をしていたが、急にロロに抱きつく。そのままロロの耳元で「ありがとう」とお礼を言った。彼の顔は赤くなっていく。「弟として当然だよ」と当たり前のように言ったが、内心は違った。異性として、好きな女の子を守りたくて・・・。
しかしその言葉は、決して口にしてはいけない言葉。でも・・・誰も見てない今ならいいよね。少しだけ・・・。ロロはそう思うと、そっとリリィの体を自分から離した。

「ロロ・・・?」
「あのさ姉さん。少しだけ、僕と帽子を交代してくれない?」
「えっ・・・?」

リリィが不思議そうに首をかしげた。ロロはリリィの返事を聞くこともなく、そっと彼女の帽子を持ち上げる。その代わり、自分がかぶっていたブルーのハート型帽子を彼女の頭に乗せた。自分もリリィがかぶっていた帽子をかぶる。

「ふふ。一瞬だけでもいいから姉さんと・・・」

恋人同士になりたかったーーーーーー。

その言葉を飲み込む。そう言えば姉が、とっても困ったような顔をするって知っているから。
柔らかくアメジストの瞳が和らぎ、すぐリリィにピンクのハート型の帽子が返される。キョトンとした顔をして、リリィはそれを受け取った。目の前には幸せそうに笑う弟。ロロにとって、つかの間の優しい時間が流れた。下ではルルーシュを呼ぶ声が響いている。

一方、作戦室ではルルーシュが焦りの声を上げていた。

リリィがいないっ!?」
「はい。さっきすれ違った男子生徒たちがそう騒いでて・・・。ライ・ルシフェルにも途中で会ったから尋ねてみたが、彼もリリィを見てないそうで・・・。」
「・・・仕方ない。俺がリリィを探そう。見つけ次第、タイミングを見て、彼女の帽子を奪う。」

ルルーシュはインカムを強く耳に押し当てた。その時、モニターに何か大きな影が映る。その影に彼は大きく目を開いた。彼だけじゃない。学園内を走り回るライも、空中に浮かんだそれに言葉を失う。

「モルドレッド?・・・アーニャの仕業だなっ!」

急いで彼は、モルドレッドが浮かんでいる方面へ走り出した。
モルドレッドの姿は屋上にいたロロやリリィも確認している。彼女も「アーニャちゃんったら!」と少し怒りをあらわにし、慌てて昇降階段を駆け下りていった。外に出たところでライと鉢合わせする。

「ライっ、アーニャちゃんがモルドレッドを!」
「僕も見た!まずいぞ。このままじゃ政庁が何か勘違いして、ナイトポリスがこの学園に押し寄せてくるかもしれない!」
「そんなっ!私、アーニャちゃんにモルドレッドを戻すよう言ってくる!」

リリィはそう言うと、再び走り出す。ライは携帯を取り出し、スザクへと電話をかけた。
彼に説明すれば、なんとか騒ぎはおさまるかもしれないと思ったが、会議中なのかあいにくスザクの携帯は電源が切られている。「クソっ」と小さくライは叫び、リリィが走った方面へと彼も走るのだった。
モルドレッドは図書室の窓で止まっている。熱感知センサーで人がいることを確認したアーニャは迷っていた。図書室にルルーシュが向かったのはしっかり見ていた。しかしそこには、人間が二人いるのだ。

「熱源が二ヶ所・・・。どっちかがルルーシュ・・・。」

とりあえずアーニャは、近いほうへとモルドレッドの手を伸ばしてみた。ガシャンとガラスが割れるすさまじい音が響き、ルルーシュとシャーリーが階段を転げ落ちたのを見る。そしてその後方に、もう一人のルルーシュがいたことも・・・。

「ルルーシュが二人・・・?」

確認しようとした矢先、無線を通じてヴィレッタの声が聞こえてきた。

「ナイト・オブ・シックス様!ここは機情の作戦区域であります。すみやかにナイトメアをお引きください・・・。」
「アーニャちゃんっ!」
「アーニャっ!」

ヴィレッタの声と同時に、血相を変えたリリィとライも向こうから走ってくる。
彼女は呑気に答えた。「駄目?」と。すかさずヴィレッタが「駄目です」と返すと、アーニャは少し落ち込んだように「駄目」を繰り返した。そしてそのまま、モルドレッドを地面に下ろし、コックピットから出てきた。ライとリリィはモルドレッドまで駆け寄ると、少しだけアーニャをしかりつける。

「アーニャちゃん!勝手にモルドレッドを持ってきちゃ駄目じゃない!」
「アーニャ!けが人が出たらどうするつもりだったんだ!」

ライが怒った顔でアーニャを覗き込めば、彼女はシュンとうなだれた。大好きなライから怒られたことが少しショックだった様子。「もうしないな?」と言うライに、彼女は正直に頷いた。そんなアーニャを見るとライは苦笑して、自分の帽子をアーニャにかぶせた。リリィが不思議そうな声を出す。

「ライ・・・?」
リリィ、アーニャは単に、帽子が欲しかったんだよ。ほらアーニャ、ルルーシュのじゃないけど、僕のならあげられるから・・・。」

優しい目をして、アーニャの頭にかぶせたブルーの帽子をぽんぽんと叩いた。アーニャは嬉しそうな顔をして、少しだけ俯く。「なんだ。そういうことだったのか」とリリィが呟き、クスリと笑った。やはりライは、アーニャの扱いに慣れている。
三人がそんなやり取りをしている間に、アッシュフォード学園にナイトポリスが到着した。それは俺に任せてと、ジノはライやリリィに合図をとって学園の校門へと向かう。

「はぁ。なんだか大変なイベントになっちゃったわね。」
「まぁ・・・アーニャに常識が欠けてるのは、薄々気付いてたけどさ。ナイトポリスだけじゃなく、スザクやギルバートさんたちにも迷惑をかけちゃったみたいだね。ほら。」

ライに促され、空を見上げるとそこにはギルバートとスザクのナイトメアがあった。
「あ・・・」とリリィは声をあげ、少し苦笑気味に笑って小さく手を振った。それをスザクとギルバートがモニターで捕らえる。

リリィ様・・・。なんだったんだ、この騒ぎは・・・。」

困った顔のリリィを見て、ギルバートが呟いた。スザクが苦笑を浮かべて謝る。

「すみません。生徒会長の卒業イベントだったみたいです・・・。」

そのまま彼はナイトメアについているカメラをリリィからスライドさせる。
近くには人に囲まれ、恥ずかしそうにしているシャーリーとルルーシュの姿。二人の帽子の色が違ったことに気付いた。

(なるほど。ルルーシュはリリィじゃなく、シャーリーと・・・)

スザクは何だか安心して、シートに深く腰掛けた。リリィの帽子をみれば、誰からも奪われていないことが分かる。彼はギルバートに断ると、ランスロットを急降下させた。綺麗に地面に着地させ、ミレイの卒業を祝う言葉を述べた。

「会長、ご卒業、おめでとうございます。」

その言葉に、ミレイは嬉しそうに笑った。

「うむ。これにて、モラトリアムとか色々終了っ!」

彼女はそう言うと同時に、ピンクのハート型帽子を空高く投げた。わーっとその場にいたみんなが拍手をする。リリィも笑って拍手をしていた。
ミレイと過ごした時間は短かったけど、ミレイがどんなに素晴らしい人かはすぐに分かる。こんなにもたくさんの人に支持されているのだ。もし自分が国民の前に立つ日が来たなら、ミレイのような人でありたいと彼女は思った。その時ミレイと目が合う。彼女は怪しく笑って、リリィに近づいてきた。

「・・・と言いたいところだけど、まだ仕事が一つだけ、残ってるのよね。リリィちゃん、ちょっと来て。」

ぐいっとミレイがリリィの腕を掴む。キョトンとするリリィを引っ張って歩くと、ランスロットで礼をしているスザクに声をかけた。

「スザク君も、ちょっと降りて来て。」
「・・・はぁ。」

彼もミレイの言葉に不思議そうな顔をした。ランスロットから降り、ミレイのところへ行くと突然ブルーの帽子を握らされた。彼女の意図するものがうまく理解できなかった。

「ルルーシュとシャーリーもだけど、もどかしいカップルがもう一組。」

そう言って、彼女はリリィの背中を押した。
突然のことにリリィはバランスを失って、スザクの胸へ飛び込む形となる。スザクはそんなリリィを優しく迎えた。
ああ、なるほど・・・とスザクは思い、リリィの後ろでガッツポーズをしているミレイに微笑みかけた。そのあと、スッと腕の中のリリィに視線を戻す。

「スザク・・・。」

赤い瞳が彼を見上げている。スザクはリリィの頭に乗るピンク色の帽子を静かにはずすと、持っていたブルーの帽子をかぶせた。代わりに今までリリィがかぶっていた帽子をかぶる。

「えっ・・・。」

驚きながらリリィがスザクをじっと見ている。彼は優しく微笑んでからそっと小さな声で言った。

リリィ。出会ったときから君のことが好きだった。ユフィの影を君に見たからじゃない。気付いたときにはリリィ自身が僕の中で大きな存在で・・・。太陽のように笑う君の笑顔が、僕の心の救いだったんだ。ねぇ、僕のお願い、聞いて欲しい。リリィ、ずっと僕のそばにいてください。」

世界が、止まったような気がした。
目の前で大好きなスザクが微笑んでいる。翡翠の瞳がしっかりリリィを捕らえていた。嬉しくて、言葉がうまく口に出せない・・・。
リリィは顔を赤らめながら、二度三度と大きくスザクに頷いた。その瞬間、周りから湧き上がる歓声と、ジノやリヴァル、ミレイの冷やかしの言葉。シャーリーとライは、穏やかな表情で拍手を送っている。俯きながらリリィも消え入るような声で言った。

「私も・・・スザクが好きで好きで、大好きを通り越すぐらい好きで・・・。最近その気持ちに気付いたの。私はルル様以上に、あなたを好きでいるんだって。スザク、スザクも私のそばにいてくれる?」

言葉の代わりに、力強い抱擁。消え入るような言葉は、しっかりスザクに伝わった。どこか遠くで鐘が鳴る。二人はその鐘の音を聞きながら、お互いのぬくもりを確認しあうのだった。
ただ一人、この場でスザクを鋭い目つきで睨みつける少年がいる・・・。ただ一人、この場でリリィを悲しそうな目で見る少年がいる・・・。二人はそれに気付かなかった。




女性のように繊細な、やさしくにっこりとうなずく色たちが、
幸福なほほえみの夢を この広い世界にさずけているのだった。
ぼくはいま窓辺に立っている。
(ローベルト・ヴァルザー)



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