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2017.06.02  #51 <<13:45




真夜中の午前2時。酷い嵐の日だった。
雨が激しく窓を叩き、ゴウゴウと風が吹いていく。ピカっと音もなく光っては、雷が地面に向けて落ちていった。そんな日に、モルガンはふと目が覚める。隣では夫であるユーサーが、気持ちよさそうに眠っていた。

(誰かが、私を呼ぶ声がする・・・。)

静かにモルガンはベットから降り、灯りを持って気配のするほうへ歩いていった。歩くと同時に、心臓がドキドキする。ものすごくいやな予感に、彼女は落ち着けないでいた。
ペタペタと裸足で床を歩き、だんだん気配が近くなるのを感じる。やってきたのは大広間だった。壁にかけられているクラエスの肖像画の下で、青白い光がうずくまっている。シクシクと聞こえる声に、モルガンは固まった。
そこにいたのはバンシー。
バンシーとは死をつかさどる巫女である。王家の人間や家族に死者が出ることを泣いて予告する風の精。
モルガンはドサリと崩れ落ちた。クラエスの肖像画の下で泣くのは、クラエスの死を予告しにきたバンシーと同じバンシー。彼女はモルガンの姿に気付くと、泣きながら姿を消した。青白い光はなくなった。モルガンは呆然とする。

「また他に、神は私から大切な家族を奪っていこうとするのですか!?それは私が妖精の力と役目を放棄したことをお怒りだからですか!?神よ!答えてくださいっ!」

モルガンは床に突っ伏して小さく悲鳴を上げた。バンシーよ。なぜお前は、誰が死ぬのかまで予告してはくれないのだっ!?

* * *

エリア11。
天気予報を伝えるのは、アッシュフォード学園を卒業したミレイ・アッシュフォード。
彼女は在学中、資格をとり、事務所も決めていたのだという。ミレイは天気予報のアナウンサーとなると同時に、ロイドとの婚約も解消した。ロイドは傷つくこともなく、いつものヘラヘラ笑ってテレビを見ていた。時折、「さっすが元フィアンセ~」などという言葉を口にする。技術部の職員たちがそんなロイドを見て苦笑していた。スザクもそのうちの一人・・・。

「明るいですね、ロイドさん・・・。」
「もともと結婚とか考える人じゃないですから。」
「そうですね。彼の今の興味は、ナイトメア一筋ですし・・・。」

確かにそうだと、スザクは思った。
いつもナイトメアのボディを触って喜んでいるし、データの数値が更新されれば飛び上がる勢いだ。ロイドは一生、結婚しないような気がしてくるスザクだった。
そこに、パタパタと足音が響いてくる。なんとなくその人物が分かって、スザクの顔がほころんだ。彼の予感は的中した。髪を一つに結った最愛の人が、上のほうからロイドを見下ろしていた。

「ロイドさん!ライがアカシャとランスロット・クラブのプログラムデータを新しく組んだらしいの。そのプログラムで一度テストしてみたいらしいんだけど、ここ貸してもらえますかっ?」
「あらぁ~、リリィちゃん~。今日も可愛いねぇ!」
「ロイドさんっ!皇女様に向かってそんな言い方っ!」

ぴしゃりとセシルがロイドをたしなめた。いつものことなのでリリィはただ苦笑するだけ。スザクがはにかんだように笑うと、リリィも赤い瞳を細めて微笑んだ。
あの日、心を通わせた二人。
キューピットの日以来、スザクとリリィが一緒に過ごす時間は多かった。彼女と過ごすたび、リリィに触れたいと思うスザクの欲望。けれども、まだ早い。リリィを傷つけたくない・・・。

「テストねぇ~。それで、テストパイロットは両方君なの?」
「え、そうですよ。」
「むっふふ~、じゃあランスロット・クラブでも君のデータが取れるってわけね!それは楽しみだなぁ~。」

突然ロイドがにんまりと笑う。セシルが困った顔をして、おでこに手を当てた。横にいるスザクも苦笑しているし、リリィも何もいえなかった。
その後、ロイドからデヴァイサースーツに着替えてくるよう言われて、リリィは更衣室へと向かう。入れ替わりで作業服のライが、分厚いファイルを持って部屋に入ってきた。
模擬試合場にアカシャとランスロット・クラブが並べられる。スザクはそれをじっと見ていた。しばらくして着替え終わったリリィが戻ってくる。ぴたりと体にフィットするデヴァイサースーツを着たリリィは、いつもより綺麗に見えた。デヴァイサースーツの中に入った髪を外に出し、インカムをつける彼女。

「まずはランスロット・クラブからね。」

ライの指示を受け、リリィはランスロット・クラブの中に乗り込んでいく。鍵をさし、軽く設定すると、彼女はいとも簡単にそれを動かした。スザクはその動きに目を見張った。

(やっぱりすごい・・・。こんな第8世代のナイトメアを簡単に動かせるなんて・・・)

隣に立つロイドも、データを見てニコニコしていた。やがて無線を通して聞こえてくる、彼女の澄んだ声。

「ライ、腕がちょっと重い。あとは今までより滑らか。スピードも少しだけ軽く上がった気がする。」
「腕が重い・・・か。そこは少し改善してみるよ。じゃあ次は、翼を出してみて。翼に送る電気量の制御を、少し変えてみたんだ。」

彼の言葉を合図に、ふわりと収納されていた羽が広がった。
天使の翼。スザクはリリィがこのまま飛んでいってしまうような気がして不安になる。
ランスロット・クラブに乗っている彼女は、数回ライとやりとりをし、機体から出てきた。そしてすぐ、今度はアカシャに乗り、同じようなテストを行った。それもすぐに終わる。リリィの意見を聞いて、ライは資料をまとめて部屋から出て行った。

「お疲れ様、リリィ・・・。」

彼女の存在を確かめるように、スザクがリリィを抱きしめる。甘い香りがふわりと香った。彼女は顔を赤らめながらもスザクの抱擁を受ける。スザクはドキドキしていた。体のラインがはっきり分かるデヴァイサースーツ。そして彼女のぬくもり・・・。理性が焼き切れそうだった。彼はそんな自分を無理矢理押さえつける。リリィに嫌われたくない。そんな一心で・・・。

「どうしたの?スザク?」

黙ってしまった彼に、リリィは問いかけた。スザクはしばらく答えなかったけど、一つだけ、言葉を呟いた。

「ねえリリィ。このあと、また君の部屋に行ってもいいかな?」
「ええ、どうぞ。お茶を用意して待っているわ。」

柔らかくリリィが微笑む。その笑顔を見れば、どす黒く渦巻くスザクの欲望が浄化されていくようだった。
チュっとリリィのおでこにキスを贈り、スザクは体を離す。「もうっ!」と少し怒った顔で額を押さえるリリィは、すごく可愛かった。


* * *


ずっと、ずっと雨が降り続く。結局今日は一日雨だった。
夕陽も見えない夕方、夜への入り口で、シャーリーは携帯でルルーシュと話す。ミレイがお天気お姉さんとして活躍してたこと。ルーフトップガーデンに何を植えるか、園芸部との交渉はどうするか。
キューピットの日で結ばれたシャーリーとルルーシュ。彼女は幸せだった。ずっと大好きだったルルーシュと恋人同士。ミレイのおせっかいが生んだ結果。けれども、彼女自身、気付いていることもある。ルルーシュが時折、見ている人。それは自分じゃない。
アッシュフォード学園で、彼がぼうっと眺めているのは転入生の少女。赤い髪に白い肌。誰もがつられてしまうような笑顔を携える女の子。魅力的で、女でもあるシャーリーから見ても素敵な子。リリィクロスロード。ルルーシュは、彼女だけを見ている。リリィと話をするルルーシュは、シャーリーと話しているときのルルーシュとは違う。すごく柔らかいのだ。表情が・・・。

『シャーリー。聞いてるか?』
「あ、うん。ごめんね、ちょっとぼうっとしちゃった。それじゃあ、ハーブの種だけ買って帰るね。園芸部にはルルから話してくれると・・・。」
『ああ、分かった。俺から話しておくよ。それじゃ。』
「うん、お願いね。じゃあ、またね!」

そのまま通話を終え、携帯を握りしめる。瞬間、何かに襲われる感覚がして、シャーリーは足を止めた。色とりどりの傘が横を過ぎ去っていく中で、彼女だけが大きく目を見開いている。
何かを・・・思い出しかけている。手を伸ばせば、何を思い出すのかが分かりそうだった。

(だめよ・・・。そこで手を伸ばしてしまったらーーーーーー)

戻れなく、なる・・・。

けれども、失ってしまった何かに触れたいという欲望はおさまらない。
シャーリーはそっと、自分の頭の中でちらつく何かに手を伸ばすイメージをする。思考が、切り替わった。
同時期、一人の男が部屋の一室で町を見下ろしている。片目だけが機械で覆われた男。そばで幼い少年の声がする。声は少年なのに、声の雰囲気は何か恐ろしいものを放っていた。

「これで8箇所目?」
「はい。しかし本当に、ギアスをかけらてた人間はSPとして配置されているのでしょうか?」
「分からないから綺麗にしているんだよ。君は全てのギアスを破壊する、ギアスキャンセラーを手に入れた。だから・・・」
「了解しました。誰がギアスにかかっているのか分かりませんが、あとはアッシュフォード学園さえ落とせばルルーシュはーーーーーーーー。」


* * *


パソコンに向かっていたライは、何か不思議な感覚を覚え画面から目を離した。
シンと静まりかえる部屋の中、パソコンの機械音だけが響く。気のせいかなと思った矢先、彼には脳裏に青い光が見えた。

「ーーーーーーーっ!?」

フラッシュのように一瞬だけひかり、すぐに消えてしまう。残像として頭に残ったのは、ギアスのマークが反対になった画像。自分の中に眠るギアスが震えた。良くないようなことが起こりそうで、寒気がする。

「い・・・今のは一体・・・・・?」

手に持っていた資料が、バサリと音を立てて床に落ちた。
同時に別室でも、陶器のカップが割れる音が響いていた。リリィの部屋で、白い紅茶用のカップが粉々にくだけている。入っていた紅茶は、床に広がった。

リリィ!?大丈夫っ!?」

驚いたスザクがイスから立ち上がり、リリィの肩を掴む。
彼女の瞳はゆらゆら揺れていた。赤い瞳はスザクを捕らえていない。リリィの唇がかすかに動く。

「今のは・・・・なに?」

一瞬だけ彼女に見えたものは、シャーリーにギアスをかける人物。それは過去の出来事。その人物はゼロで・・・・ルルーシュであった。




何も見えない ぼくは記憶を失っている 
善の記憶も 悪の記憶も・・・ おお こんな悲しい歴史!
(ポル・ヴェルレーヌ)



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