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2017.07.31  桂木の心配 <<03:43



青龍切宗綱を実際に見たあと、美和は松田や峯崎と分かれて他の時代へと飛んだ。
もちろん、近侍である三日月や加州も一緒である。これからどこへ向かうかも、二振にはすでに分かっていた。
美和はあまり他人の本丸へは出かけず、ほとんどの審神者が美和の本丸へと尋ねてくることのほうが多い。だからなんとなく、他人の本丸へ行くことが宗近と加州にとっては新鮮だった。

他人の本丸に足を踏み入れて最初に彼らに気づいたのは、庭で稽古をしていた蜻蛉切。この本丸では古い刀でもある。
彼らの来訪に目を丸くして(特に美和を見て)、慌てて建物内に入る。

「主!客人がおいでですぞ!」

それからすぐ、緑色のジャージに身を包んだ穏やかな表情の老人が庭へと出て来た。

「あれまぁ。美和ちゃんのほうからこちらに来るなんて、本当に珍しいねぇ。しかも三日月宗近と加州も一緒とは、これはこれは・・・」
「桂木さん、お久しぶりです。急に訪ねてきてしまってすみません。」

美和が丁寧に頭を下げたため、後ろにいた加州と宗近も礼儀正しく一礼する。
「あ、いやぁ」と桂木が少しだけにっこり笑ったところで、ぴりっとした声が響き渡った。

「えぇっ!?主、お客様が来てるのかい!?お客様にジャージで応対するとか、ほんとに主の神経はどうなってるんだい!?」

ダダダダダ・・・と音が聞こえこちらに駆けてきたのは、この本丸の近侍である燭台切であった。彼がお客の正体に気づいた瞬間、少しだけ安堵したのを美和たちは見逃さなかった。
なぜならこの桂木、常にジャージを着ており、正装しなければならない場所ですらジャージで行こうとする。そんなわけで桂木は政府の人間が来ても安定のジャージ姿。燭台切はいつもそれを咎めていた。しかし今回は比較的見知った面々であり、そんな桂木の背景を知っているメンバーたちでもある。

「燭台切さん、お久しぶりです」
「あぁ〜・・・なんだ美和さんと加州君と三日月さんたちか。よかったよ。今回もまた政府の方々を、主がジャージ姿で応対しているのかと思ったから・・・。次そんなことがあったら、主を強制的に着替えさせようと思ってたからね。」
「燭台切よ。ワシも結構な歳じゃ。もうジャージが楽なのでな。そんな堅苦しい格好は・・・」
「このおじいさんの言い訳はどうでもいいでしょう?大事な話があるんだよね。今お茶とお菓子を用意するし、みんな大広間へどうぞ!」

桂木の話を若干無視しつつ、燭台切が三人を手招きする。
この本丸では近侍がしっかりしているので、たまに立場が逆転することもあった。それは珍しい話でもなく、大抵いつもこういう感じである。
苦笑を浮かべつつ、三人は燭台切についていく。その後ろを、若干寂しそうにして桂木がついていった。
大広間ではお茶とお茶菓子が用意され、甘いもの好きの三日月がそれを頬張っては幸せそうな顔をしている。

「いやぁ。やはりたまに他の本丸で食べる茶菓子は美味しいなぁ。」
「はっはっは。気に入ってもらえて何よりじゃ。美和ちゃんは他の本丸にあまり行くことがないから、二人も新鮮であろうな。」
「そっ、そんなことないよ!自分んとこの本丸で食べる茶菓子も最高だよ!」

加州が取り繕うように言った。それを聞いた桂木がさらに笑う。そして急に黙り、口を開いた。

「して・・・美和ちゃんよ。ただうちに茶菓子を食べにきたわけではあるまい?」

ジャージを着てはいるが、この桂木という男、審神者としてはかなりの実力であり、切れ者でもある。美和の来訪の理由もなんとなく予想がついてはいた。

「・・・はい。実は先ほど、実物の青龍切宗綱を見て来たんです。」
「ほぅ。あの、審神者会議の資料に載っておった、新しい刀を・・・。それで、美和ちゃんは実際にその刀を見てどう思ったのじゃ?」

美和は少しだけ目を伏せた。あの場所であの刀を見た瞬間、すぐに危険だと感じた。

「あの刀は・・・危険です。顕現してはいけない気がします。あの刀を見つめるだけで、心が恐怖に支配される気がするんです。平安時代の刀たちの大半は、青龍切についての不吉な話を知ってるって、松田さんのところの鶯丸さんが教えてくれました。」
「ふむ、なるほどな・・・。実はな、うちの本丸にいる平安生まれの刀剣たちにも青龍切のことを尋ねてみたんじゃがな、みんなその名前を聞いたとたん、口数が少なくなってだな・・・。」
「今剣君に至っては、その名前を聞いたとたん泣き出した始末でね。」

桂木の湯のみに新しく茶をつぎ足しながら、燭台切もそう言った。「だから僕も、あの刀は顕現すべきではないと思うよ」と、意思の強い黄色い瞳を三人に向けて。

「そういう点では、審神者会議で議題にすべきまでもないと思うがな。反対の本丸も多いだろうしの。まぁ、青龍切の問題を利用して審神者を集め、そこを時間遡行軍に襲わせるなどという作戦だったなら、恐ろしいことじゃがな。」
「そんなこと、できるはずがないですよ。だって会議は本部ですよ。セキュリティは万全だし、会議にはいくつもの本丸の近侍だって集まる。自殺行為ですよ。」
「ははは。老人の戯れごとじゃ。本気にするでない。」

パクッと、桂木は茶菓子の最後の一切れを口に放り込んだ。
それからはただのたわいない話をし、お互いの近況報告をし、美和たちが帰る時間となった。
帰る際、わざわざ桂木と燭台切が玄関まで見送ってくれる。

「今日は桂木さんに会えてよかったです。またうちの本丸にも遊びに来てください。」
「いやいや、今日はワシも楽しかったしの。お言葉に甘えて、近いうちにそちらの本丸にも寄らせてもらうぞ。」
「その時はジャージ以外を着てきてよね。桂木のじいさんも、もうちょっとオシャレしたらいいのに。」

ぶっきらぼうに加州が言葉を付け加えた。美和が少したしなめたが、桂木は笑った。それはこちらの加州にも言われた・・・と。それを知っているのか、燭台切も苦笑していた。
三人は一礼し、再び時間を超えて自分の本丸へと戻って行く。
彼らの姿が見えなくなってから、桂木はそばにいた燭台切に一言呟いた。

「燭台切よ。審神者会議に出ないのは、遊星とかなめちゃんであったな。文をしたためるので、早急に紙と硯を持って来てほしい」
「・・・?メールじゃダメなのかい?」
「そうだな。メールでは少し、信用ならんからの。」

そう告げる桂木に首をかしげながら、燭台切が玄関をあとにする。桂木はこの時、本当に最悪の事態を想定しているのだった。


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