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IC♯74.5




これは私が、クイーンリリーナとしてデビューし、少し人気が出てきた時の話だ。
その時はまだ、本当に小規模なコンサートや、フェスの脇役ゲストとして呼ばれるくらいの私であったが、なぜかあの時私は、エリア11・・・その当時は日本と呼んでいた国の、とあるパーティーで歌うことになった。
まだそこまで名前が売れていないにも関わらず・・・だ。あれは何のパーティーだったかは思い出せない。けどその中に、1人だけ有名人がいたのだ。
私が歌い終わりしばらくした頃、マネージャーに連れられて、その人のところへ挨拶に行った。
テレビで見かけるその人は、テレビで見かけていた時と同じような雰囲気だった。

「今回このパーティーで歌わせていただいた、クイーン・リリーナのマネージャーです。こちらはクイーン・リリーナです。」

マネージャーに紹介されて、私は挨拶した。
その当時、私は皇女であることを伏せていたのでクイーン・リリーナとして対応した。
私は皇女の中でも社交界や政治の世界には出ていなかったし、皇位継承権も低いものだったので、おそらく相手は私がブリタニアの皇女であることも気づかなかったであろう。

「クイーン・リリーナです。このたびはこちらで歌わせていただき、ありがとうございました」

ドレスを広げて少ししゃがむと、彼はじっと私を見ていた。何も言わないその人に痺れを切らし、私は「では・・・」と一言だけ続けて、その場を去ろうとする。それを目の前の男が止めた。

「待ちなさい。」

少し厳しさを帯びた声に、私は体を硬直させる。何か失礼なことをしてしまったのだろうか?と、そればっかりが気になった。
目の前の彼に恐る恐る視線を移すと、彼は私にグラスを差し出した。
グラスを受け取ると、かろうじてまだ未成年の私のグラスにジュースが適量注がれる。それを確認した彼は、「乾杯」とだけ言い、グラスを少し上げた。
お互い少し飲み物を口に含み飲み干すと、先に口を開いたのは彼だった。

「今日の歌はよかった。私は若者の流行りはよく分からないが、君の歌手としての実力は本物だと思った。これからも歌手として、頑張ってもらいたい。」
「・・・お褒めいただき、ありがとうございます、枢木首相。」

緊張しながらも私はお辞儀をした。
いつもテレビの向こうで怖いくらいの雰囲気を放っていた彼が、こんな風に言うなんて少し驚いた。

「時に・・・」と言葉を続けた彼は、少しだけ遠い目をして言った。

「最近の日本とブリタニアの関係は、あまりよくないものだ。君の国と私の国は、もしかしたら戦争になるかもしれない・・・。そうなると君はもう、この国では歌えなくなるのだな・・・。」

グラスに残っていた飲み物を、枢木首相は飲み干した。私は少し、視線を逸らす。
私の母が死んでから、父は少し変わったような気がする。こんなにも他国に圧力をかける父に、私は嫌気がさしていた。その父を補佐する異母兄(あに)たちや、異母姉(あね)たちにも・・・。そして、父のことが大好きなリリィをかわいそうだと思っていた。

「・・・日本はいい国です。日本の私のファンは素敵な人が多くて、独特の文化も好きです。私はまた、日本で歌いたい。だから・・・」

戦争なんかしないで・・・と、そう言いかけたところに、枢木首相が言葉を重ねた。

「私には1人息子がいてね。息子の友達はブリタニア人だが、彼らはうまくやっているよ。子供がうまくやっていくのだから、大人もうまくやっていかなきゃいけないのだろうが、なかなかそう簡単にはいかなくてね・・・。国を治めるというのは、大変なものだ。しかし私は、子供たちに日本という国を残したいと思っている・・・。」

初めて枢木首相は笑った。この人も、こんな顔するのかと、私は意外だった。でもそれは一瞬だけで、彼はまた、いつもの厳しい顔に戻る。

「これからのち、もしブリタニアがこの日本に何か仕掛ける気なら、私は首相としてこの国を守る責任がある。その時は君とも敵同士だ。そうならないために、最大限の努力はしよう。」

そこまで言って、彼の近くに控えていた秘書が、「先生、お時間です」と小さく囁く。
枢木首相はグラスをボーイに渡すと、そのまま私に背を向け歩き出す。しかし思い出したように立ち止まったあと、振り返って私を見た。

「・・・もし、の話なんだが、君がうちの息子と会うことがあったなら、伝えてくれ。私の口から言うのはなんだが、気恥ずかしいものがあるのでな。」

また彼は少し笑った。

「なんて伝えたらいいんでしょうか?」
「・・・私がいなくとも、日本人の誇りを持て。そして、枢木スザクとしての生き方を貫け・・・と。」
「・・・分かりました。もし会うことがあれば、必ず・・・」

私はそう答え、彼にまた一礼した。
満足そうな顔をした枢木首相は、父親の顔だった。もしかしたらこの時彼は、自分の運命を悟っていたのかも知れない。このあとしばらくして、両国は互いに宣戦布告し、戦争状態へと突入した。こののち、枢木首相はこの世を去り、日本はエリア11となる・・・。



※ ※ ※



フレイヤを撃った彼の名前を聞いて、私はふいに懐かしいことを思い出した。
ずいぶん昔のことだ。枢木の名前を聞かなければおそらく、私はこのことを思い出さなかったであろう。
名誉ブリタニア人として・・・ブリタニア軍としてナイト・オブ・セブンの地位を獲得し、トウキョウ租界でフレイヤを撃ってしまった彼を、亡き枢木首相はどう思うのだろうか?今更彼に、父親の言葉を伝える必要があるのだろうか?同族殺しの枢木スザクに、今更日本人の誇りを持てと?果たして、トウキョウ租界にフレイヤを撃ち込んだことが、枢木スザクとしての生き方だったのだろうか?

(もう少し早く、彼の名前を聞いていればよかったのにな・・・。)

そうしたら彼に、会いに行ったのに。枢木首相の言葉を伝えていれば、運命の何かが変わったのだろうか?
私は床に座り込んでしまったリリィを見て、そう思うのだった。




もう歌えない 歌える歌は みんなの嘆きの歌ばかり
(ゴンゴラ)




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