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きっかけになればいい



「式部清寿・・・さん?」

三上さんの部屋に響く綺麗な声を聞きながら、俺は書類に張り付いた写真を見ていた。
新しく第1のメンバーが追加されることになったのだ。

(女みてーな顔・・・。)

ぼーっとしながら履歴を読んでいく。
養成所を首席で卒業。技術面でも申し分ない。温和な性格で、誰とでもよく話をする・・・。

「ふーん・・・。」

俺の声に反応した美和がこちらを向く。

「なんか笑ちゃん、不満そうだね。」

不満そう?俺が?

「別になんでもねーよ。新人教育がめんどくせーだけだ。うちにはすでに、手のかかる問題児が一人いるしなぁ。」

ちらりと美和を見ると、俺の想像通り彼女がむくれていた。
頬をぷくっと膨らませ、俺をじっと睨んでいる。けどそれは、誘ってるふうにしか見えなくて・・・。

「なんだよ美和。俺を誘ってんのか?」

「ち、違うもん!笑ちゃんなんてだいっきらい!式部さんが来たら、笑ちゃんは悪い隊長さんって教えちゃうもんね!」

べーっと美和が舌を出す。感情豊かな芽衣を見てるだけで和んでしまう。
彼女の顔を見つつ、俺はさっきの式部清寿の写真を思い出し、こっそりため息をついた。
何となく、今度新しく来る新人は感情豊かじゃないような気がする・・・。
この部隊に、人形はいらない・・・。

* * *

真っ白な制服に身を包んだ新人が、俺と美和の前に立つ。
サラサラヘアーと顔に浮かぶ笑顔。その笑顔に俺は顔をしかめた。まるで作られたような笑顔だったから。

「式部清寿です。よろしくお願いします。」

「わー!すっごい美人さんだ!私は第1で研修させてもらってる黒川美和です!こちらこそよろしくお願いします!」

美和がペコリと頭を下げる。そのあと、彼女が俺をつっついた。

「あー・・・御子柴笑太だ。一応第1の隊長で、総隊長なんかもしてる。なぁ、式部。最初に言っとくが・・・」

この部隊に、お人形さんはいらねぇ。

そう言えば、式部は首をかしげた。

「御子柴隊長、それはどういう・・・」
「常に人間であれってことだ。俺に忠実な部下なんかいらねぇ。それと、言っとくことが一つある。」

ちらりと隣の美和を見た。
彼女のくるくるした目が俺と式部を交互に見ている。

美和は養成所を出たわけじゃないし、この部隊では研修生扱いだ。つまり、ランク的にはお前のほうが上。けどコイツはお前よりはるかに実力があるし、現場経験も豊富だ。美和は一応、お前の先輩だからな。もしお前が美和を侮辱したら、俺が許さない。」

まだ中学生の美和
いろんな事情が重なり、養成所に通うことなく義務教育を受けながら特刑という仕事をしている。
当然、ここでは異色な存在で、常に好奇の目にさらされているのだ。
それに・・・美和はかわいい。この職場は女が少なく、男ばかり。変な気を起こすやつがいないか心配だ。

「はい。分かりました。大丈夫ですよ。僕は彼女のことを侮辱なんてしません。この世界は実力と現場経験主義ですし。」

にこっと式部が笑った。俺は心の中で奴に尋ねた。
お前、そんなずっと笑ってて疲れねーの?

ため息をつきそうになった時、ぼそりと美和が呟いた。

「式部さんって・・・なんだか無理矢理笑ってませんか・・・?」
「・・・!?どうして、そんなこと・・・」

式部の笑顔が少し固いものに変わった気がする。
美和は何かを感じ取ったらしく、慌てて手を振って「何でもないです」と笑った。
そのあと新人は三上さんに呼ばれ、部屋を出ていった。

「・・・美和、俺には分かるんだ。感情豊かそうに見えて、あいつこそ完全なお人形さんじゃないかってな。」
「仕方ないよ。特刑にくる人のほとんどは、小さい時に親しい人を殺されたりした人たちでしょ?確か、式部さんも・・・」
「あぁ。両親を殺されてる。保護された式部は、大丈夫、平気です・・・と答えて笑ったそうだ。」
「・・・・。」

美和が下を向いた。
しばらく時間が流れ、彼女が顔を上げた時、顔には穏やかな表情が浮かべられていた。

「私も・・・ここに来たときはそうだった。感情のない、ただのお人形さん・・・。」
「・・・俺だってそうだった。首席で養成所を卒業し、犯人を殺すためだけを考えてた昔。俺が殺さないと・・・ってな。でも・・・」

俺はそばにいた美和を抱き寄せた。
ふわりと彼女のいつもの香りがする。美和は俺に抱き寄せられたまま、呟いた。

「でも・・・私は変われた。あの人と、笑ちゃんのおかげで。」
「俺も変わったさ。どっかのめんどくせー総隊長と、お前のおかげでな。」

美和を抱く手に力がこもる。
あの当時、アイツを失って再び人形に戻ろうとした俺を救ったのは美和だった。
代わりに美和を守らなきゃ・・・俺はそう自分に言い聞かせ、立ち直った。

「私たちも、式部さんにとってのきっかけになれるかな。」
「・・・なれるさ。っていうか、ならなきゃいけないんだ。そのために多分あいつは、ここに配属されたんだ。」

式部清寿の笑顔が浮かんだ。
その笑顔を、心からの笑顔にするために・・・。俺たちが、



きっかけになればいい。




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