FC2ブログ

命をかけてもいいくらい



一般患者が過ごす部屋から少し離れた小部屋。ここには誰も近づかない。それがこの病院での暗黙のルールなのだから。


深夜に近い時間帯。
宮田は白衣のまま、ある場所を目指していた。カツンカツンと靴音が響く。一般患者の病室から、少し離れた部屋の前で靴音止まった。

美和、起きてるか?」

部屋のドアを開け、小さく名前を呼ぶと、ベッドで眠っていた人物がゆっくり起き上がる。窓から差し込んだ月の光が彼女の顔を照らした。

神代美和

神代亜矢子の妹であり、美耶子の姉。
治らない病におかされており、神代家からほぼ見放されている。それは病にかかっていることも原因だが、もっと他に原因がある。
美和は亜矢子や美耶子よりも幻視などの力が弱く、村の権力者である神代家にとっては痛い存在だった。
普通の人間と変わらない美和は、半強制的にここに入院させられているのだ。美和が入院してから神代家は、まるで彼女が最初からいなかったかのように振る舞っている。宮田はそんな神代家が馬鹿だと心の中で笑った。
美和は意図的に力がないようなふりをしているだけなのだ。
元々神代を嫌っていた美和は、そうすることで家を離れることに成功した。実際の美和の力は、一番力が強いとされる美耶子よりもはるかに強いのだ。

「宮田先生、今日はずいぶんと遅い訪問ですね。」

美和が目をこすりながら宮田を見る。月の光に照らされた美和は美しかった。
宮田はそんな彼女を見ながら、神代は本当に馬鹿だなと、再び罵る。ここまで美しい娘など、そうそういない。みずから美和を捨てた神代。もしも彼らが美和を返してくれと言っても、宮田は絶対に返さないと誓っている。

目をこすり続ける彼女のベッドに腰をおろし、そのまま美和を抱き寄せた。
首筋に顔を埋め、呼吸をすれば芽衣の香りがする。それは宮田にとって、一時の至福。美和はすぐに微笑んだ。

「今日の宮田先生、すごく甘えん坊。」
「仕方ないだろ。疲れた時にはこうするのが一番いいんだから・・・。」

普段敬語の宮田も、美和の前では素の自分に戻る。美和はそんな宮田をちゃんと受け入れてくれている。羽生蛇における宮田の存在も、ねじれた愛情を受けて育ったことも、全部・・・。
宮田にとって、美和は大事な大事な存在である。そう、牧野にとっての比沙子のような存在。

「先生、少し頑張りすぎなんじゃ?お医者さんの仕事も、宮田の仕事も・・・」
「文句なら、宮田を働かせる神代と教会に言え。」

宮田は靴を脱ぎ、美和のベッドに上がった。二人分の体重が乗ったベッドが、ギシリと音をたてる。
美和は眉間に皺をよせて言葉を吐いた。

「本当、神代の家は嫌い。自分たちは手を汚さず、他の人に手を汚させるなんて・・・。」
「仕方ないさ。神代はこの村の権力者だからな。神代自身が手を汚すのはまずいのさ。」

宮田はそう告げてから、美和の腕を引っ張った。彼女の体がベッドに沈み、宮田は馬乗りになる。

「そんなことよりも、今夜、付き合ってくれるか?」
「もう。本当にいけないお医者さん。先生、明日も仕事でしょ?」

美和は下から宮田を見る。彼は少しだけ口の端を上げ、美和に覆い被さって答えた。

「残念ながら、明日は休みだ。なぁ美和、お前はいつまで俺のことを『先生』って呼ぶつもりだ?」

宮田は優しく美和の頬を撫でた。ゆるりと彼女の表情が和らぎ、赤い唇が名前を紡ぐ。

「司郎さん。」

それを合図に、宮田は激しく美和の唇を奪った。
宮田にとって、美和は本当に大事な存在。自分の命をかけてもいいくらい・・・。
あぁ、こういう存在のことを、なんて言うんだったっけな。

「ねえ司郎さん。私達、恋人同士?」

美和の濡れた唇が言葉を紡ぎだす。肌に触れながら宮田は優しく笑った。
そうだ、恋人同士っていうんだったな。
宮田は頷いてから、再び美和の唇を奪うのだった。



スポンサーサイト



コメント 0件

コメントはまだありません