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2015.10.16  IC #08 <<15:48



アッシュフォードの地下深く、水の流れる場所でロロの冷たい声が響き渡る。
彼のそばには真っ赤な血を流し、逝ってしまった同じ機密情報局の隊員。
ヴィレッタはその光景を見て息を呑む。

「聞かれた可能性があります。ギアスのことは、トウキョウセクションでは僕らだけの秘密ですから。」
「しかし、これで一体何人の隊員を…………」

ロロにはヴィレッタがこう言う意味が分からなかった。
秘密を漏らしてはいけない。それは上からの命令。命令は絶対。軍ではそれが当たり前で………。
命令と人の命、ロロにとっては命令のほうが重かった。

「もっとも確実で迅速な方法でした。違いますか?」

彼の言葉を聞いて、ヴィレッタは口をつぐむ。
そのまま静かに背を向けて、ロロから去っていった。
ヴィレッタの無言の意味がますます分からないロロは、ゆっくりと足元に視線を向ける。
さっきまで歩いて、しゃべっていた人間。
ぷっつりと糸が切れてしまった人形のように動かない。
自分の手をみれば血がついていて、ぬるぬるとする感触があった。
そこでようやく自分が何をしたのか気付く。

僕………また人を殺したんだ……。

ロロは仕事のこととなると人が変わることがあった。
冷たい表情を浮かべ、言葉も機械的、何も考えられなくなる。そんなことがしょっちゅう。
現に今だって………。赤い、血がついた手がかすかに震える。

リリィ………ねえさんの、声が……聞きたい。」

ロロは血をふいて、ポケットから携帯を取り出した。
アドレス帳を開き、リリィの文字を探す。見つけた――――。
番号が表示され、ボタンをプッシュする。

トゥルルルル……トゥルルルル……………。

長いコール。
いっこうにつながる気配がない。
コール音はしているのだから電源は切られていない。仕事だろうか………?

ロロは通話終了ボタンを押し、ためしにライにもかけてみた。
もしもリリィがライと一緒にいれば、電話をかわってもらえばよいと思ったから。
通話ボタンを押すとまた数回、コール音がする。
6回目のコール音のすぐあと、自分の兄の声がした。

「――――――ロロ?」
「兄さんっ!!!」

地下でロロの声が響く。なぜだか心臓がドキンドキンと大きく打った。

「どうしたんだロロ?急に電話してくるなんて珍しくないことだけど……」

ライは小さく笑った。
そう、ロロが急に電話してくることなんて珍しくない。
寂しがり屋のロロは、何かあるとすぐに電話してくるのだから。
兄さんと姉さんの声が聞きたかったって言いながら。今回も、何かあったのだろうか?
ロロが弱さをさらけ出せることができるのは、
自分とリリィの前だけなのだとライはよく知っている。

「あ、うん。元気かなって思って………。
この前黒の騎士団の事件があったから、少し心配してたんだ。大丈夫?」

電話越しにライは一瞬顔をこわばらせる。
しかしすぐに表情をやわらげて、明るい声で言った。
「大丈夫だよ。」と。
だけど、本当は大丈夫じゃない。
辛かった。全員を救えなかったことがいまだに胸をしめつける。
腕の中で息を引き取ったあの男性のぬくもりを、いまだに覚えている。

(ウソ……………。)

ライの声を聞いてロロはそう思った。
自分に心配かけまいと、わざと明るく振舞っている。
それがバレバレ。いつだって自分の兄は無理をする………。

「………兄さん、ウソ、なんでしょ?大丈夫っていうのは。」

ロロが目を細めて言うと無言ののち、乾いた声でライが再び笑った。

「ロロ、いつになく今日は鋭いんだな。
………あの日、バベルタワーに行ったんだ。人を助けに。でも……助けられなかった。
敵のナイトメアが無残にバラバラになってた。
助けたかった日本人の男の人も、僕の腕の中で息を引き取った。
どんなに強くても、結局全ての人は助けられない。
戦いの中では、必ず逝ってしまう人もいるのだと、そう思い知らされた事件だった。」

ギュッとライが唇をかみ締める。
彼の言葉を聞いて、ロロは足元に倒れた人を見た。
兄は人を助けようとしている。では………自分は?

ロロだって、あの日バベルタワーに行っていた。だけど目的は人を殺しに。
兄と姉が、手を煩わせることのないように。
汚い仕事は自分がやればいいと思っているから。彼は拳を固く握る。
そんな時だった。今度はライがロロに尋ねた。

「そういえばロロ、お前だって、あのタワーの中にいたんじゃないのか?」

兄の言葉を聞き、ロロの目が大きく見開かれ、瞳が泳ぐ。
無意識に服の上から、首にかけられたペンダントを掴んだ。
リリィにもらった、赤いペンダントを………。
今度は、彼がとっさにウソをついた。

「何言ってるの兄さん。僕のエリア11での仕事は、重要人物の監視。
そんな僕がタワーに行くなんてありえないよ。」

手のひらで強く、ペンダントを握った。
どうかそのウソがばれないでと、ロロは強く願う。
ライは変に鋭いから、いつだってロロのウソを見抜いてしまう。そして今回もそうだった。
ため息が聞こえ、すぐにライが言葉を返した。

「ロロ、別にお前を責めるために聞いたんじゃないんだ。
お前にはお前の事情があるんだろ?それはちゃんと分かってる。
ただ僕は、ロロの口からホントのことを聞きたかっただけなんだ。
タワーの中にロロがいるかもってリリィに言ったら、リリィは心配してた。」
「ねえ、さんが?………………ごめんなさい。
僕……タワーに行ったよ。どうしても行かなきゃいけなかったんだ。
兄さんに止められてたはずのギアスも使った。
そのギアスを使って、人も……殺したんだ。ごめんなさい。
僕はやっぱり、兄さんたちとの約束、守れてない。今だって…………」
「ギアスを使った?人を殺した?」

ロロの言葉にライは声を重ねた。
電話をかけてきた少年は驚く。
「どうして分かったの?」とロロが問えば、彼は「なんとなく」と答えた。
そのまま続けてライは言う。

「ロロ、無理して約束守ろうとしなくていいんだ。
ただ、お前のギアスは心臓に負担をかけるから心配してるんだ。
でももうお前は機密情報局の人間だから、ギアスを使う必要性だって出てきている。
人を殺すことだって………仕方のないことかもしれない。
こう言ってしまったらいけないかもしれないけど………。
それに、ロロにはロロのルールがあって、僕たちには僕たちのルールがある。
人を殺さない。それは僕たちのルールだ。お前の作ったルールじゃない。
約束が守れなかったからって、お前が落ち込む必要はないんだ。
でもほんの少し、少しだけ後悔してくれるなら………僕はそれでいいと思う。」

にっこりと電話の向こうでライが笑った。
その言葉を聞いて、ロロの頬をつめたい何かが伝う。
涙だった。
ライに分からないようにそっと彼は涙をふき、先ほどまでとは違った声色でしゃべった。

「………ありがとう、兄さん。なんかちょっと救われたかも。
あ、ライ兄さん。ところでリリィ姉さんは?
声聞きたくて電話したんだけど、携帯に出なかった。そこにいるの?」

サッとライの顔色が変わる。

リリィは……今ちょっと仕事でここにはいないんだ。
たぶん携帯にも気付いてないんだと思う。けど、元気だよ。
お前に会いたいって、それがリリィの最近の口ぐせなんだ。
落ち着いたらリリィに電話かけさせるから、それまで待ってて。」
「そうなの?うん分かった!!!絶対だからね!!!約束だよ!!!」

そうロロにライが言うと、彼は声を弾ませた。ロロの大好きなリリィ姉さん。
彼女は今―――――――。

「それじゃあ、切るぞロロ。」
「うん。あの、兄さん。急に電話してごめんね。それから、ありがとう。」

最後に彼はそう告げて、耳から電話をはなして通話を切断した。
ライも通話終了のボタンを押す。携帯を机の上に置き、彼は横を見た。

ベッドの上で静かに眠るリリィ

あれから救護班の医師として活躍したリリィは人を手当し続け、そして過労で倒れてしまった。
極度の疲れと脱水症状、栄養不足によりリリィの体は衰弱しきっていたのだ。
倒れてからずっと、リリィは昏々と眠り続けている。
ライは優しくリリィの髪を撫でてやり、小さく口を開いて彼女に呼びかけた。

リリィ、今ロロから電話が来たんだ。ロロは大丈夫だって。
あいつがリリィからの電話を待ってるよ。だから今はゆっくり休んで、そして早く元気になって。」

彼女が少し頷いたような気がした。
その時、つけっぱなしのテレビからギルバートの声が聞こえ、ライは視線を移す。
そのまま大きく目を開いた。

『ゼロよ。聞こえるか?私はコーネリア・リ・ブリタニア皇女が騎士、ギルバート・G・P・ギルフォードである。
明日15時より、国家反逆罪を犯した特1級犯罪者、256名の処刑を行う。
ゼロよ!!!キサマが仲間の命を惜しむなら、この私と、正々堂々と勝負せよ!!!』

「ギルバートさん………。犯罪者を囮に使うなんて。
もしゼロが現れなかったら、あなたは本当にその人たちを処刑するのですか…?」

彼らはいずれ、国に反旗を翻した人として裁かれる。
それが分かってて、彼らは反旗を翻した。全ては日本という国を復活させるために。
もしも運命が変わっていれば、裁かれているのは自分たちだったかもしれないと、
ライはテレビを見つめてそう思う。

「ん…………ルル様…ナナリー………スザク…。」

テレビに集中していたライは、ベッドの上で眠るリリィの呟きには気付かなかった。

このテレビを、ルルーシュも一人、生徒会室で見ていた。彼は拳を握る。
やってくれたなギルバートと、誰にも聞こえないように小さく呟く。

これからどうすればいい?

仲間を見捨てるわけにもいかない。
かと言って、監視されている状態じゃうまく動けない。ロロのことだってある。
まずは監視とロロを何とかしてからだ………。
ルルーシュがそう思ったとき、シャーリーが部屋に入ってくる。

「あれ?ルル一人?」
「ああ。シャーリーこそ水泳部は?」

ルルーシュはリモコンでテレビを消した。
プツンとテレビが音を立てて消えると同時に、シャーリーが話始めた。

「それがさぁ、あたし顧問のヴィレッタ先生に、誕生日プレゼント買う係になっちゃって。
あたしだけいつも怒られてるからだって。でも苦手なんだよねぇ、こういうの。
やっぱお酒かな………。好きみたいだし。でも銘柄なんて……」

最後はブツブツと一人ごとになるシャーリー。
ルルーシュはそれを聞いてニヤリと笑った。これは使えるかもしれない。
ロロの正体を暴く糸口、そして監視の者を退ける作戦のための。
ギアスが戻った今なら、できないことなど………ない。

「付き合おうか?」
「………へっ?」
「だから、プレゼント選ぶの。」
「えっ、いいの!?ホントにっ!?」

シャーリーの笑顔に、ちくりとルルーシュは胸を痛める。
けれどこれは自分の将来がかかっているかもしれないのだ。
彼は心の中でシャーリーに謝った。




何も敢えてしなければ、何も得られない。
新しい果実を掴もうとすれば、誤りを犯す勇気を持ってもよい。
(ヤーコプ・グリム)


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