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2015.10.16  IC #08 <<16:05



ツンと薬品の匂いが鼻をつく。
ゆっくり目を開けると、光が眩しくてリリィはもう一度目を閉じた。
テレビから流れる声が鼓膜を振動させる。低く若い男の声。
この声を、つい最近聞いた気がする…………。
光に目を細めつつも、リリィは目を開き、完全に覚醒を迎えた。
体を起こすと、点滴の針が腕につながっている。
ずっとそれを目で追っていくと、ポタリポタリと薄く色のついた液体が細いプラスチックの中で滴りおちていた。

(ここは………病院……?)

リリィは小さく首を傾げてから、すぐあとに「あっ」と声を上げた。
軍医として手当てを行っている途中、急に目の前が真っ暗になり、気が遠くなったことを思い出したのだ。
確かにあの時は疲労が限界に達していた。
きっと倒れて、誰かが病院に運んでくれたに違いないと、リリィは思う。

とりあえずキョロキョロと病室を見回してみる。ライの姿はなかった。
ただ、ライとは別に、違う人物の姿が視覚に飛び込んでくる。
テレビに映るギルバートの姿。何故彼がテレビに映っているのか分からない。
テレビに映るギルバートは、心地よいくらいの響きのある声で叫んでいる。

『ここに裁かれるべきイレブン、256名がいる。
ゼロよ、仲間を助けたければ私と正々堂々勝負せよっ!!!』

(勝負………仲間………?)

ギルバートの言葉から状況を考えようとしたリリィ
つまりは仲間をえさに、ゼロをおびき出させようとしているのかと、彼女は考える。
しばらくして画面が切り替わり、柱にくくりつけられたとある人物の姿が映し出された。
それを見て、彼女の時間は一瞬止まってしまった。

柱にくくりつけられながらも厳しい顔を崩さない男。
その人物に見覚えがあった。いや、忘れたくても忘れられない。

藤堂鏡志郎。
それが彼の名前。

1年前の日本解放戦線時、前線で戦ったリーダー。
そして厳島の奇跡を起こした人物である。それだけではない。
この男、8年前の戦闘で、唯一リリィとライに勝った人物だった。
リリィとライはナイトメア戦で藤堂に負けたのだ。ナイトメア戦だけじゃない。
考え方も、人としてのあり方も、全てにおいて藤堂のほうが勝っていた。
このとき、リリィとライは気付いたのだ。
自分たちが日本という土地で何をしたのかということを。
負けてみて、初めて気付いた。大地が血に染まっていることに。
自分たちの手が、血で汚れていることに。
大切な命をいとも簡単に握りつぶしてしまったことに。
ここから全て、罪を背負う辛さを知ったのだ。

「藤堂………さま……。」

全ては彼が気付かせてくれたようなものだった。
リリィははじかれたように行動を起こす。
まず、思いっきり自分の腕から点滴の針を引き抜いた。
唇をかんで針を抜く時の痛みを堪える。ズブリと音が聞こえてきそうだった。

抜いた針をベッドの上に投げ捨てると、素足で床の上に降り立った。
足の裏からヒヤリとした冷たさが伝わってきて、なんだか心地よかった。
ペタペタと床を歩き、イスにかけてある騎士服に腕を通す。
服についていたはずの泥や埃が綺麗になくなっていて、代わりに洗剤と太陽の香りがし、リリィは自分がどれくらい眠っていたかを知った。
最後にマントをつけ、ブーツをはいていると、ドアがガチャリと開いてすぐに声が上がる。

「………リリィ?」

くるりと後ろを振り向くと、驚いた顔のライが入り口に立っていた。
騎士服を着た彼女の顔を見たあと、ベッドの上に放られた点滴の針を見る。
布団がごく少量の血で少し汚れていた。

「…………………。」

ライは無言で部屋の中に入る。静かに扉が閉まった。
まじまじと布団の上にある点滴の針を見た後、彼は口を開く。

「………で、言い訳は?」

そう言う彼がリリィには少し怒っているように見え、彼女は首をすくめて小さく述べる。

「テレビ……で、藤堂様が捕虜として映ってて……それで私……」
「………はぁ。そんなことだろうと思った。ギルバートさんのところに行くつもりだったんでしょ?」

見透かしたようにライは言い、リリィの前で腕組みをして表情を和らげた。
身長の高い彼に見下ろされ、彼女はぎゅっとマントを掴む。
呟くように「何で分かったの?」と聞いてくるので、ライはにっこり笑って答えてやった。

リリィの行動パターンなんて単純だから、僕じゃなくたってすぐに分かる。
どうせ僕が止めたって、ギルバートさんのところに行くんでしょ?
だったらさ、僕も一緒に行くよ。それから、もし行くんだったら、ナイトメアで行くことをオススメするかな。」

にこやかな表情を、今度は困った表情にするライ。
どうして彼がこんなことを言うのか分からないリリィ
ナイトメアじゃなくたって、ギルバートのいる公開処刑場にはいけるはずだ。
眉をひそめるリリィを見て、ライが続けて述べた。

「どうやらエリア11のブリタニア軍内では、エンジェルズ・オブ・ロードは嫌われてるみたいなんだ。
さっきギルバートさんと話そうと思って連絡をとったら、ブリタニア軍の上官の人に、『そんな部隊は知らん。もし話したいというのなら、自分のナイトメアで直接来ることだな』なんて言われたよ。
だからランスロット・クラブで乗り込んでやろうと思ってね。」

いたずらっぽくライが笑った。
彼のこの調子だと、本当にしでかしそうだとリリィは苦笑する。
エンジェルズ・オブ・ロードは皇帝直属部隊なのに、ギルバートと直接話もできないなんてとリリィは少し不便に思った。
けれども最終的にナイトメアは必要になるかもしれないと彼女は考え、そのままマントを翻して歩き出す。

「仕方ないわ。それじゃあまず、ナイトメアを取りに行きましょうか。」
「了解。」

リリィとライの二人は病室を出る。
1階のフロアに来た時、二人は病院にきた患者同士の話の内容を偶然聞くこととなる。
中年ぐらいのブリタニア人女性が二人、大げさに話す。

「ちょっと聞いた!?表参道モールに黒の騎士団が爆発物をしかけたって大騒ぎよ!!!」
「いきなり非常ベルが鳴ったんでしょう?こわいわねー、ホント!!!」

女性たちのそばを通り過ぎる時、ライとリリィは視線をその二人に這わせるが、すぐに視線を戻す。
きっともう、警察やブリタニア軍が表参道モールには向かっているだろうと思いながら、二人は病院を出た。
リリィとライは知らない。
その表参道モールに自分たちの弟がいたことも、その弟がまさにその場所で、ゼロであるルルーシュを監視していたことも。

「急ごう、ライ。」

病院の入り口を出たとたん、リリィは赤色の長い髪を揺らしながら後ろを振り返って走り出す。
少しウェーブのかかった赤い髪は太陽に照らされてキラキラと光輝いていた。
目指すはエリア11にある政庁。ここからそう遠くない場所にある。
ライも銀(しろがね)の髪を風になびかせ、リリィと並んで走った。

このあと彼らはゼロと、彼が率いる黒の騎士団と戦う運命にある。
だけどそれを彼らが知る術なんてない。
全ては人々の決断と決断が重なり合い、紡いだ結果がそうなるのだ。
リリィ、ライ、ゼロ、ロロの決断が重なり合った時、未来の悲劇が生まれる。

運命は確実に紡がれていく―――――――――。



初めは一つの点であるが、いつの間にか開いて円となり、
その円は大きくなり、しまいに世界を包合する。
(ゲーテ)

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