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2015.10.16  IC #15 <<19:51



真夜中のアッシュフォード学園。
懐かしい制服を着たスザクは、門の前に立ち続けて学園を見ていた。

一年前、ここで彼と出会い、そして懐かしい時間を過ごした。
ここに彼はちゃんといるのだろうか?ゼロでない偽りの記憶を所持したまま………。
リリィと幼馴染だった記憶もちゃんと――――――――

忘れてくれているだろうか?


――――――――ロロ、俺とお前は兄弟…………そうだろ?

うん、そうだね、ルルーシュ兄さん。

――――――――ロロ、お前にはお前のルールがある。
だから無理して僕たちにあわせようとしなくてもいいんだ。

ありがとう、ライ兄さん………。

――――――――ロロ、あなたはいつまでも私たちの可愛い弟よ。
だからもっと甘えていいの。大人ぶらなくてもロロはありのままのロロでいい………。

リリィ姉さん…………。僕は、もう…………

あなたの可愛い弟は、いやなんです。僕はあなたの特別になりたい。
でも、そういうことを言うと、家族が壊れる。家族が壊れるのは――――――いやだ。
僕はこのままライ兄さんとリリィ姉さんの弟であり続けたいのだろうか?
それとも、家族を卒業して、今度から他人として付き合いたいのだろうか?
どちらかわからない。だけどもう少し………二人の弟でいたい。

「ロロ、そろそろ起きろ。今日も学校なんだろ?」

ずしりと重たいものがのっかかってきて、ロロは苦しさに目を開ける。
綺麗なサラサラの銀の髪がちらりと見え、のっかかっていた人物を跳ね飛ばし彼は飛び起きた。

「ライ兄さんっ!?」
「そんなに驚かなくてもいいだろ?ここは僕の部屋なんだから、僕がいてもおかしくない。
ま、おかしいって言えばお前がここにいることだけど………。」

くすくすとライが笑う。ロロは今の状況が把握できていなかった。………というよりも、昨日の記憶さえ持ち得ない。
覚えていることといえば、ルルーシュを追い込み彼を殺そうとしたが失敗したこと。そして彼はロロを家族だと言った。
その言葉があまりにも衝撃的で、何も考えられなくなった。記憶はそこから抜けている。
そういえば、歌を聞いた気がする。
優しい歌。
地面に雨がしみこんでくるように、心にしみこんでくるような…………。

「僕は…………」
「…………ロロ、覚えてないのか?お前、リリィに会いたいって電話かけたじゃないか。
ロロが公園で寝ちゃったから困ったリリィが僕に電話してきたんだ。
ロロを連れて帰りたいけど、手伝ってくれないかってね。
流石にアッシュフォードの近くにある公園から政庁の寮までロロをおぶってくるのは疲れたよ。」

ライは肩を押さえて苦笑しながら言った。
ロロはしばらくきょとんとしていたが、昨日のことを思い出したのかシーツを力強く握る。
しわになるじゃないかとライは思ったが、口にしなかった。
それよりも時計を指差してロロを促す。時計は午前6時近くを指し示していた。

「ほらロロ。もうすぐ朝の6時だ。ここでお風呂に入ればいい。
それから、これからはちゃんと今の家に帰るんだよ?今日は僕じゃなくて、今住んでる家の人に怒られなさい。」

イスにかけてあったマントをはおったライは、お兄さんぶった口調で言う。
そんな彼をぼうっと見つめたまま、ロロは小さく口を開いた。

「兄さん、どこにいくの?リリィ………姉さんは?」
「え?僕は今から仕事に行くんだよ。昨日のことが片付いてなくて、ギルバートさんが大変な思いをしてるんだ。
リリィはさっきまでロロの隣にいたんだけど、先に仕事に行ったよ。
彼女はシュナイゼル様並みに頭がいいし皇女だから、ギルバートさんも彼女を必要としてるみたい。」

鏡を見ながら寝癖をチェックしつつライが答える。
彼の返答に、ロロの胸はきゅっとしまった。
昨日、あの場所にロロはいた。ゼロを殺そうとギアスを使おうとしたのだ。
ライは離れた場所にいても他人が使用するギアスを感じ取れる人間。もしかしたら昨日も………

「あの、ライ兄さん。昨日僕……………」

あの場所にいたんだ、そう正直に話そうと言葉を紡ぐ。でもその言葉は必要なかった。
鏡に映る自分の姿を見ていたライは、そっと視線をロロに移して口を動かした。

「うん、知ってるよ。あそこにいたんだろ、ロロ。お前のギアスを感じた。」
「………………やっぱり兄さんは鋭いや。うん、正解だよ。昨日、仕事であそこにいた。」

再びシーツをぎゅっと握るロロ。仕事なんて本当はとんだ嘘。
C.C.を差し出すという条件で、ロロはルルーシュの行動を見逃した。
本当は、本当は………裏切った。機情を。ブリタニアを。自分の兄と姉を。
その罪も、今の彼にはずっしりと重くのしかかってくる。たまらなくなってロロは目をつぶった。
しばらく静かな時間が流れたが、やがて衣擦れの音がしたあと、優しく肩に手が添えられる。
見上げれば、優しい目をしたライがいた。

「ロロ、僕が怒ると思ったの?前言ったはずだよ?ロロにはロロのルールがあるって。
今ロロがどんな仕事してるのか分からないけど、これだけは言わせてほしい。
無理はしないで。昨日のお前は酷く疲れていたってリリィが心配してた。
たった一人の弟なんだから、僕だって心配するんだよ。疲れたときはゆっくり休むんだ。いいね?」

スッと温かい手が肩から去り、ライはドアに向かって歩いていく。
「あ………」とロロは声を上げて、ライの背中に視線を向ける。
彼がドアノブに手をかけた瞬間、ロロは大きく叫んだ。

「待って!!!ライ兄さんっ!!!」
「ロロ…………?」

疑問符を浮かべたまま、ライが後ろを振り返る。
その時のロロの表情は硬くこわばっていた。
少しだけ、唇がふるえている。綺麗なアメジスト色の瞳はゆらゆらと動く。
しばらくロロはしゃべろうとしなかったが、ライはじっと待った。
視線を合わさない弟に優しく笑いかけ、歩み寄りベッドに腰をかける。
そうすればロロは、ライに向かって小さく口を開いた。

「ライ兄さん、リリィ姉さんには絶対言わないで。
実は今監視してるの………ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアなんだ。」

ロロの言葉にライの目が大きく開く。そのまま静かに名前を繰り返した。

「ルルーシュ………ヴィ・ブリタニアって、もしかしてリリィの幼馴染の?
そんな………まさか。だってルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは…………」
「死亡扱い?本国のデータベースでは死亡扱いなんだ。だけど彼は生きていた。妹のナナリーも。
彼は名前を変えて、ルルーシュ・ランペルージとして今アッシュフォード学園に通っている。
8年前、アッシュフォード家がルルーシュとナナリーをかくまったんだ。
僕はルルーシュの弟として、ロロ・ランペルージとして機情からルルーシュのところに送り込まれた。」

ゆっくりとロロは話した。
ライは動揺をうまく隠しきれておらず、きょろきょろと瞳を動かす。
もしこのことをリリィが知れば、彼女はどうなるだろう。きっと罪に苦しむはずだ。
だって8年前の事件は………ルルーシュとナナリーが殺されたことが発端だったのだから。

「でも………どうしてルルーシュが機情の監視対象になんかに………」

頭がクラクラする感覚を堪え、ライはロロに聞く………が、ロロは口をつぐんだ。
これ以上はいえない。ルルーシュがゼロだという事実。
兄を信頼していないわけじゃない。だけど………誰に聞かれているか分からない。
もしバレてしまえば、自分に未来はない。それだけは分かっている。
だからロロは、また嘘をついた。知らない。それは教えられていないのだと。

「そうか…………。」

一言だけ残して、ライはベッドから腰を上げた。
はにかみつつもうまく笑えていない兄を見て、ロロは初めて兄の不器用さに気付いた。
きっと彼の中でもうまく処理ができていないのだろう。
ルルーシュとナナリーを殺した日本人が憎くて日本を潰したのに、実際彼らは生きていた。
これじゃあライとリリィがやってきたことは――――――ただの虐殺。人殺し。
向けられた背中が忘れられそうもない。
じっとライを見ていると、ドアノブに手をかけたまま彼は一度立ち止まり、後ろを振り返ってロロに言った。

「ロロ、話してくれてありがとう。真実が分かってよかった。リリィにはまだ………話さないでおくよ。
あ、鍵はかけなくても大丈夫。だからお風呂から上がったらちゃんと学校に行くんだよ?」

そう笑いかける兄はいつもの兄だった。とっさにロロは頷く。
にっこり笑ったライは「じゃあ、いってくる。」という言葉を残し、部屋を出て行った。
ベッドの上で彼を見送ると、ロロはおもむろに首にかけてあるペンダントを取り出す。
赤い石。リリィの瞳のような、リリィの赤く燃えるような髪と同じ色をした………。
ロロはゆっくりとその石を手のひらで包み込んだ。


ミシっ!!!!

寮から外に出て、ライは木の幹に激しく拳を叩きつける。

ルルーシュが生きていた。

それは突然やってきた事実であり、真実。
スザクは確かにルルーシュのことを知らないと言った。だけど本当は知っていたのかもしれない。
ルルーシュが生きていることを。だって彼は一年前、アッシュフォード学園に通っていたのだから。
それでも言わなかったのは、きっとリリィが傷つくことを知っていたからだ。
スザクなりの優しさ。スザクはリリィを守ろうとしたのかもしれない。だからあえて、知らないと言った。

「じゃあ僕たちは、何の為に戦ったんだろう。僕たちはただ………たくさん人を殺しただけじゃないか。」

人の将来を奪い取った。生きるはずだった人を殺した。無差別に。
あの頃の自分たちには全てが憎く、全てを殺したいと思った。
そしてそれは罪となり、今でも自分を、リリィを苦しめ続けている。

人が死ぬことに敏感になった。

人が死ぬことが怖くなった。

リリィはあの時の罰として、人が逝く戦場を赤い瞳に映し続けている。
人が死ぬたびに心を痛め続けている。
そんな彼女がこのことを知ったら……………それだけでライは恐怖を感じた。

「落ち着けライ。隠し通すんだ………。何が何でも。」

ライはそう呟き、呼吸を整える。
昇ったばかりの太陽が、彼を淡い光で包み込む。

もしリリィがこのことを知ったなら…………ギアスで彼女からルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに関する記憶を全て消去する。
ルルーシュに関する彼女の記憶を全て書き換える。それがリリィの脆い心を救う最終手段。

その時自分は力を使う代償として、

ど ん な 記 憶 を 犠 牲 に す る の だ ろ う か ?



神よ ゆるしたまえ かれの罪のすべてを
(ゲーテ)


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