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2015.10.16  IC #16 <<20:02



スカイブルーの空に小鳥が舞う。
仕事がひと段落し、リリィはテラスに出てぼうっと庭を眺めていた。
ブリタニア本国の庭園に似ていて懐かしい。
特にルルーシュとナナリーの住んでいたアリエスの離宮はとても綺麗な庭だった。
あの光景は今でも忘れられない。そしてその庭にたたずむルルーシュの母は、とても美しく見えた。

閃光のマリアンヌ。

リリィのあこがれの存在だった。もうこの世にはいないけれど…………。
ふぅとリリィはため息をつく。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。彼が生きていたら自分と同じ18歳。
どんな少年だっただろうか?きっと体育系は苦手で、小難しいことばっかり考える少年だったのだろうなと、リリィは一人苦笑した。
欲を言えば会いたい。もう一度だけ…………。夢の中でもいいから………。

「ルル様…………あなたは今、空の上でマリアンヌ様やナナリーと楽しく過ごしておられるのでしょうか?」
「過ごしているよ。きっと。ルルーシュもナナリーもマリアンヌ様も、いつもリリィのことを見ていると思うな。」

不意に返ってきた言葉に、リリィは一瞬ルルーシュが答えたのかとびっくりした。
しかし実際は背中に立っていたライ・ルシフェル。両手に紙コップを持っていた。
彼はそのままリリィの隣へ来ると片方差し出す。甘い香りを漂わせながら湯気をたてていた。

「ココアだよ。リリィはコーヒー苦手だからこっちをもらってきた。
僕はブラックコーヒーだけどね。リリィもコーヒー飲めるようになりなよ。」

コーヒーを一口飲んだあと、ライが言う。
彼の言葉を聞きつつ、リリィも温かいココアを口に含んだ。甘い香りが舌と鼻を刺激する。
やっぱりコーヒーよりもココアのほうが好きだ。

「いいの、私はココアで。コーヒーが飲めても何も得しないじゃない。」

そう言いながらもう一口ココアを口に含んだところで、ライが何かを思い出したように「あ。」と声をあげた。
紙コップに口をつけたまま、視線だけがライに向く。

「あのね、ジノとアーニャがあとでリリィに用事があるから来いってさ。
なんか企んでるみたい。僕も誘われたけど、残念ながら僕は用事があって一緒にいけないんだ。
リリィ、気をつけてよね。ジノってばすぐハメをはずすから。」

テラスの手すりにひじをついて、紙コップの中に入ってるコーヒーをクルクル回すライが少しかっこよく見えた。
彼女は「何の用だろう?」と考えたが、すぐに「分かった」と返事をする。
確かにエリア11に上陸したジノは、うずうずしていたように感じる。
アーニャはあいかあらず携帯を触っていたっけと彼女の姿を想像し、一人苦笑した。
アーニャのブログに載せられるのは勘弁してほしい。そういう関係のことだったらどうしようとリリィは思う。

「まさか…………アーニャのブログの被写体?」

どうやらライも同じことを考えていたようで、リリィはどきりとする。
すぐ彼に向かって「それはいやよ!!!」と抗議した。
ライはケラケラと笑って「冗談だよ」と呟き、残っているコーヒーを一気に飲みほす。

(ホントに何の用事かしら…………?)

リリィも心の底で思いつつ、ライに合わせてココアを一気飲みした。


***


ホームルームが始まってから、ルルーシュのクラスはざわついていた。原因は教卓の横に立つ人物。
翡翠色の瞳は、しっかりとクラスのメンバーをとらえている。
彼はにっこりと笑いながらこう言った。

「本日づけでアッシュフォード学園に復学することになった枢木スザクです。よろしくお願いします。」

スザクの自己紹介に合わせて、ざわざわとクラスメイトが噂話をする。
「ゼロを捕まえた男だ」とか、「ナイト・オブ・セブンに昇格した」とかそういう噂を。
その中にいるリヴァルやシャーリーはうずうずとしていた。
友達が帰ってきたのだから嬉しい。だけど二人には気付いたことがある。

スザクの微笑み。

笑っているといえど、どこか物足りなくて、みんなを見つめる瞳は冷たかった。
まるでスザクだけが違う世界を生きているような、そういう感覚。
それはきっと、スザクが敬愛していたユーフェミアが死んだせいなのだと、二人は少し目を伏せた。

「枢木卿はエリア11配属に伴い、復学することとなった。席はとりあえず、ルルーシュの隣だ。」

ヴィレッタがルルーシュの隣の席を指差す。
それが合図になったのか、スザクはルルーシュへと歩き出した。次第に二人の距離が縮まっていく。

(枢木スザク。俺の初めての友達。昔のお前はがさつで乱暴で、自分中心主義だった。
けれどお前と再会したとき、お前は変わっていた。他人優先で物腰も柔らかくなっていた。
お前を変えたのは何だ?父親を殺したことなのか?考え方も何もかもが変わっていて、俺は驚いた。
お前はずっと、俺の味方だと思っていたのに、今のお前は――――――)

(ルルーシュ・ランペルージ。いや違う。本当はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
ブリタニア帝国の皇子で僕の友達。昔の君はあまり社交的ではなく、本を読むか一人でチェスばっかりしていた。
けれども再会したときの君は変わっていた。ギアスという人間を超えた力を手に入れて、世界を自分の都合のいいように動かしていた。それが僕は許せない。
君は全てを思い出しているのだろうか。ブリタニア皇帝が与えた偽りの記憶。それは消え去った?
僕はそれを確認しに来たんだ。だって君はもう、僕の――――――)

「久しぶりだなスザク。」
「懐かしいなルルーシュ。」

二人はお互いに笑った。けれどもその笑いはうわべだけ。

「スザク君久しぶりっ!!!」
「出世したなお前!!!」

シャーリーとリヴァルも加わって、スザクは二人を振り返った。
同時にミレイも教室に押しかけてきて、ルルーシュはため息をつく。
騒がしい彼らを見つつ、ルルーシュは誰にも分からないように不敵に笑った。

(失敗だったな、スザク。ルルーシュという名前だけで俺のそばにきた。
つまり、俺のことを知っているからこその行動。さて、あとはロロが下手なことをしなければ………)


***


「もうっ!!!ジノったらいつまでやってるのよ!!!」

爆音と爆風に声をかき消されながらも、リリィはつけているインカムに怒鳴り声をあげた。
政庁内にあるシュミレーションルームでは、ジノ・ヴァインベルグがトリスタンを操っている。
相手はギルバートの腹心たち。アーニャのモルドレッドは空中でジノの行動を観察していた。

『だって暇すぎなんだよ~。リリィが相手してくれりゃ楽しいのになぁ~。』
『私も久しぶりにリリィと…………戦いたい。』
「アーニャちゃんまでっ!!!私、二人の相手はいたしませんっ!!!」

リリィは再びインカムに向かって怒鳴る。
彼女の機体、アカシャは空間のすみのほうに放置してあった。
ライに言われてジノとアーニャのところに行ってみれば、そのままシュミレーションルームに引きずられてしまったのだ。
ジノに対戦の相手をしてくれと頼まれて断ったところ、ギルバートの部下たちが運よくやってきて今に至る。

「ちぇっ。まぁいいや。君たちも十分強そうだしね。でも失格。その武装は建物を守ることを優先している。仕方ない……………。」

ジノはレバーを入れ替えた。
そのとたん、トリスタンは変形しナイトメアの形をとる。
そこで相手は気付く。可変型のナイトメア、それを操るのは特定の人物しかいない。

「なるほど。そういうことですか。可変ナイトメアフレーム・トリスタン。つまり………ナイト・オブ・スリー、ジノ・ヴァインベルグ卿ですね。」
「その通り。君たちを試しにきた。さぁ、私を止めてみろっ!!!」
「いいでしょう。私達も恥をかかされたままではおさまらない。」
「そうそう。本気で頼むよ?」

ジノはそう言いながらにやりと笑い、舌なめずりをする。
頭を抱え込んでいたリリィがもう一度彼の名を叫ぶが効果なし。
そうしているうちに相手は武器を構え、ナイトメアを走らせた。

「言われずともっ!!!」
「ありがとうっ!!!」

機体と機体がぶつかりあった衝撃で地面が揺れる。リリィはバランスを崩し、しりもちをついた。怒った彼女がジノに抗議の声を上げようとし口を開いたその時…………

「やめろっ!!!もう勝負は決した。」

鋭い声が響く。制服を着た枢木スザクだった。
それはナイト・オブ・セブンの判断かと問われ、スザクは短く「そうだ。」と答える。
ギルバートの部下たちは唇をかみ締めた。
一方、ジノは明るい声で彼の名前を呼ぶ。スザクはその声を無視し、座り込む少女に手を差し伸べた。

「大丈夫………?」

リリィはスザクの顔を見上げるとにっこり笑い、彼の大きい手を掴んだ。
だが、そのままグイっと引っ張られ、いつの間にか彼の腕の中にすっぽりおさまる形となる。
これには彼女も驚いた。

「え、ちょ………スザクっ!?」
「ただいま、リリィ。」

優しく囁くスザクの言葉に答えようと、顔を真っ赤にしながらなんとか言葉を搾り出す。
「おかえり、スザク。」と言うと、彼はますます腕に力をこめてきた。
嬉しそうに小さく笑う彼から、先ほどのような鋭い言葉が出るなんてとリリィは思う。

「あー!!!スザクずるい!!!俺もリリィのことぎゅーってしたいのにぃ。」
「ジノはダメだ。それよりもランスロットを持ってきてほしいって頼んだのに…………」

そう言いつつ、リリィの腰に手を回すスザクを彼女は睨みつけた。
けれども彼女の睨みは効くことなく、腰に手が回されたまま。
これでは恋人同士ではないのか?恥かしさをいっぱい溜めた瞳でジノに助けを頼むが、彼は気付かないふりをする。
ライを含め、どうして自分の周りにはこうも意地悪をする人ばかりなのだろうとリリィは小さくため息をついた。
彼女の悩みにジノとスザクは何も言わず、話をどんどん進めていくばかり。

「一回本国に帰ってまた来週くるから、その時にロイド伯爵と一緒に来るよ。
そろそろランスロット・クラブとアカシャの点検しなきゃって嬉しそうだったよ、ロイド伯爵。それよりなんだい、この服。」
「ああ。学校帰りだからね。制服…………」
「これが制服っていうやつなの?」

制服という言葉に反応し、ジノと横にいたリリィもスザクの制服を撫でたりひっぱったりする。
リリィは学校というものに通ったことがなかった。
勉強も何もかも、現エリア7であるアルビオンで、祖父母や家庭教師から習ったのだ。
時には本国にいたシュナイゼルから。好きなピアノはクロヴィスから手ほどきを受けていた。
だから彼女は制服を見たこともないし着たこともない。
一度、ユーフェミアから「今の学校、制服が可愛いの!!!」と聞いたことがある程度。

「なんかスベスベしてる。騎士服より軽そうだわ。女の子もズボンなの?」
「まさか。女の子は黒のスカートだよ。」

制服をまじまじと眺めるリリィに優しい瞳を向けてスザクが答えた。完全に二人の世界。
入り込める隙がないため、ジノが「ちぇっ。」と舌打ちすると、スザクにのしかかった。

「ジノ、重いんだけど…………」

そう言うスザクに上から声が降ってくる。
やる気のなさそうな、か細い声。モルドレッドに乗ったままのアーニャの声だった。
もう終わりだとジノとスザクがアーニャに告げると、彼女は機体の中で「つまんない。」とだけ答え、ポケットから携帯を取り出した。ブログをつけている最中の画面が開く。そのままアーニャは携帯に熱中してしまった。

「スザクも来たことだし、私そろそろ帰る。まだ仕事が終わってないの。途中で放り出してきちゃったわ。それじゃあね。」

苦笑しつつ、リリィが手を振ると、ジノとアーニャが手を振る。
スザクのそばにいたアーサーもリリィのあとについて行く。
彼は遠ざかる彼女の背中を見つめていたが、不意にリリィの名前を叫んだ。

リリィっ!!!あとで君の部屋に行ってもいいかな!?教えて欲しい教科があるんだ!!!」

そんなのは口実だと分かっている。
だけどもっと彼女のそばにいたい。リリィと同じ時間を共有していたい。彼女が好きだから。
もしも彼女が、アッシュフォード学園に来てくれたら…………それははかない願い。
そして、叶えてはいけない願いでもあった。
アッシュフォードにはルルーシュがいる。彼女とルルーシュを会わせるわけにはいかないのだ。

スザクの言葉にリリィはにっこり笑って首を縦に振る。了承の意味。
彼女は頷いたあと、足元のアーサーを抱き上げて再び歩いていった。
この光景を見ていたジノはスザクの首を絞めながら呟いた。

「俺らがいるのにイチャつくなよスザク。リリィはみんなのものだろぉ~?」

彼の言葉にスザクは心の中で首を横に振る。

(いいや、違うよジノ。彼女は僕のものだ。リリィは誰にも渡さない。絶対にね。)

スザクはリリィの背中が見えなくなるまで、ずっと彼女を見つめていた。



白バラに恋をしたナイチンゲールは、棘に体を押しつけて死ぬまで歌い、白バラを赤く染めた。
(ペルシア伝説)

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