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IC #19


寮の大広間で、ジノがアーニャと一緒に携帯を見ている。そこにがちゃりと扉が開き、制服姿のスザクが入ってくる。
ジノは首を動かしてスザクの姿をとらえた。

「おかえりスザクー♪」
「ジノ…………。全く、君は何を考えていたんだ?あれから大変だったんだからね!!!
スケジュールはめちゃくちゃになるし、ルルーシュはすごく怒ってたし……ってあれ?そういえばリリィは……?」

怒った顔を一旦ひっこめて、部屋をぐるりと見回すスザク。
いつもの時間なら、ここのソファに座って本を読むかアーサーと遊んでるかしているはずなのに。
そういえば………アーサーもいない。

リリィ………部屋に……いるよ。疲れたから休むって……言ってた。」

携帯をいじりながら、ぽつりぽつりとアーニャが呟く。
ジノが「ライは?」と尋ねると、彼女は「部屋。」とだけ答えた。
でも少しだけ携帯をいじる手を止めて、「声、元気なさそうだった」と言う。
スザクは鞄をもったまま、二階へと上がった。リリィの部屋へと続く長い廊下を歩く。
名前のプレートが入った扉の前で、アーサーがちょこんと座って鳴いているのが見えた。
部屋に入ろうと、しきりにドアを引っかいては可愛らしい声で「にゃあ」と鳴く。
スザクはそんなアーサーを抱き上げて、ドアの前に立った。今日は噛み付いてこない。

「アーサー……君も元気なさそうだね。リリィに遊んでもらえなかったの?」
「にゃあー。」

まるで「そうだ」と言っているように聞こえる。スザクはコンコンと扉をノックした。

リリィいるの………?君に話したいことがあるんだけど、いいかな?とっても重要なことなんだ。」

何も返事がない。
彼女は部屋にいるのだろうか?スザクがドアノブに手をかけて回すと、ゆっくり扉が開いた。
スザクの腕に抱かれていたアーサーが飛び出し、リリィのベッドの上に寝そべる。
そこには彼女の騎士服がきちんとたたんで置いてあった。今日、彼女は仕事が休みだったのだろうか?

リリィ?」

部屋の電気はついていない。
ただ、シャワールームだけに明かりがついていて、スザクは焦った。

「シャワー中……なのかな?」

水の音だけが部屋に響いている。アーサーは大きなあくびをすると、ベッドの上で寝てしまう。
彼もベッドに座って、じっとシャワールームを見つめた。そして違和感を覚える。なんだか様子がおかしい。
その違和感に、彼はすぐ気付いた。シャワールームの扉は開けられたまま………。
スザクは不思議に思い、ドアに近づく。もしこれで何でもなかったら、潔くリリィに叩かれようと覚悟しながら。

リリィ、シャワー室のドア開いて―――――――」

彼は言葉をかけながらシャワールームを覗いた。
そしてすぐ、彼の体は固まった。視線をはずすことができない。
スザクの視線の先にあったのは、異常とも思える光景。

リリィがシャワールームの一角に座り込み、服のまま、全身びしょ濡れだった。
タイルの壁に力なく寄りかかり、虚ろな目でどこかを見ていた。赤い髪が頬や首筋にべっとり張り付いている。
スザクは息を飲んだ。もう一度彼女の名前を呼ぶと、ゆっくり瞳がスザクのほうへ向く。
彼はそのまま、制服が濡れるのも気にせずシャワールームへと飛び込んでいった。

リリィっ!?何してるのっ!?こんな服のまま全身びしょ濡れでっ!!!」

シャワーの蛇口をひねると、キュっと高い音を立てて回る。
次第に水が止まっていって、止まりきらなかった雫がぽたぽたと床に落ちていった。
強く彼女の肩を掴むと、今までどこかを見ていた彼女の赤い瞳がゆっくり動く。

「あめ………あめにうたれてたの。あめはわたしの血をあらう……。」

スザクには、言っている意味が分からなかった。
その前に、スザクの目に映るリリィは、本当に彼女なのだろうかと疑ってしまうくらいだった。
いつも彼女はニコニコ笑っていて、明るくて眩しい、太陽のような存在。
だけど今は違った。闇に飲み込まれてしまったような、暗くて冷たい。

リリィ、どうしたの?君はいつも笑っていて、太陽みたいでっ……」

抱きしめると、彼女の体は本当に冷たかった。
全身冷え切っていて、いつものぬくもりが感じられない。スザクの熱までも奪われそうな冷たさ。
こつんと彼の肩にリリィの額が置かれる。声を震わせて、リリィはスザクに言った。

「太陽は、罪のない人を焼き払った。だけど太陽自身は、その罪に気付かなかった。
自分がどんなに愚かな存在だったか気付いてなかったから………。」
「………なにが、あったの?」

こんなに弱弱しい彼女を見るのは初めてだった。
出会ったときも、スザクを支えてくれた時も、彼女の心はとても強かった。
でも本当は強く見せていただけなのだ。
優しく耳元で囁くと、彼女は体を震わせたまま、消え入りそうな声で言う。

「あのねスザク。今日、ルル様に―――――会ったの。」
「――――――――っ!?」

その言葉を聞いて、スザクは呼吸できなくなる。自然とリリィを抱く腕に力が入った。
まさかだけど………今日、ジノがアッシュフォード学園に来た。きっとアーニャも一緒だっただろう。
だけどそこに来たのは二人だけじゃなく、リリィも一緒だったということ?
そこでリリィは、偶然にもルルーシュに会ってしまったというのか?
でも今のルルーシュは、リリィのことを覚えていないはずだ。現に今日、それが証明された。
最愛の妹・ナナリーを彼は、「人違いじゃないか?」と言ったのだ。
昔の記憶は戻っていない………。

「ひ、人違いだよきっと。ルルーシュに似た人なら学園にいるって僕も知ってい………」
「ちがうっ!!!あれはルル様だった……っ!!!あの瞳、私忘れてないっ!!!」

伏せていた顔を上げて、リリィが叫ぶ。
じわりと瞳に沢山涙が溜まっていた。

「ルル様………だった。彼、生きていたのよ………。」

それだけを呟いて、リリィは気を失い、スザクの胸に倒れこむ。
彼はリリィをそっと抱き上げて、シャワールームから出ると、静かにソファへと寝かせる。
ふらつく足取りで部屋を出て、ライの部屋へと向かった。
悔しいけど、今頼れるのは彼しかいない………。
ドアをノックすると、返事が聞こえガチャリとドアが開いた。

「誰です………って、スザク?び……びしょびしょじゃないか!!!
どうしたんだ一体!?外、雨降ってはいないと思ってたんだけど―――――」
「ライ、助けてほしい。リリィが…………」

彼女の名前が出ると、ライは眉をひそめた。
嫌な予感がして、ドアノブを握る手に力をこめる彼は、スザクの次の言葉を正確に聞き取った。

「アッシュフォードでルルーシュに会ったって…………」
「なん、だって…………?」

息をする時間もなく、ライは自分の部屋を飛び出した。
断りもなくリリィの部屋へと飛び込み、ソファの上で眠るぐっしょり濡れた彼女を見て、絶句した。
後ろからスザクが追いかけてきて、同じように部屋へと入ってくる。
ライはしゃがんで、彼女の頬に張り付いた髪を取った。そのまま静かに尋ねる。

「――――――いつ?」
「たぶん、今日だと思う。ジノがアッシュフォード学園のお祭りに来てたんだ。
姿は見なかったけど、アーニャも来てるんだろうなぁと思った。
でもまさか、リリィが来てたなんて思わなかったから………。」

ライは今日の朝のやりとりを思い出した。
ジノは彼女を楽しませるために、リリィが憧れてた学校へと連れて行ったのだろう。
彼はアッシュフォードにルルーシュがいたことを知らない。アーニャだってそうだ。
第一、ルルーシュは本国では死んだことになっている。知りようがない。
あの時、尋ねればよかった。二人にどこへ行くのかと。そうすれば彼女は、ルルーシュに会わなかった。

「僕の、せいだ………。あの時僕がジノに尋ねればよかったんだ。どこに行くのかって……。
僕は知ってたんだ。ルルーシュが生きていることを。つい最近、ロロに聞いた。
スザク、君は黙ってくれてたんだろう?リリィのために………」

振り返らずにライが言ったので、スザクは小さく頷いた。
ルルーシュが生きていることをリリィに知られてはいけない。もし知ってしまったら、リリィの心がもたないから。
ルルーシュを助けるために、リリィは罪もない人の命を奪った。8年前の話だ。

「他に、リリィは何か言ってた?」

早口で聞くライに、スザクは彼に余裕なんてないように見えた。
他の言葉………。そうだ、水をあびる彼女は一言呟いていた。

「雨………雨にうたれてたってリリィは言ったよ。シャワールームで彼女を見つけたとき。
雨は私の血を洗うんだって、そう呟いてた。」
「…………………。」

ライはその言葉を聞いて黙った。いつになく真剣な眼差しでリリィを見つめ続ける。
スザクもライの隣に腰を下ろしてリリィを見つめた。
その時、ライは視線を動かさずスザクに告げる。

「スザク、しばらく二人っきりにさせて欲しい………。これは僕がやらなくちゃいけないことだから。いや、僕にしかできない………。」

真剣に言うライを見たあと、スザクは立ち上がりゆっくりと部屋を出て行った。
ドアのところで一回だけ振り返り、すぐに部屋を出てドアをしめる。
パタンと音がしたあと、ライは激しく床に拳をたたきつけた。
もしかしたら、リリィの心は壊れてしまったかもしれない。忌まわしい8年前の事件。
瞳を細めたライは、スッとリリィの額に左手を置いた。

(彼女の心を救うには、この手段しか残されてないんだ………。)

次第に瞳に現れてくる赤い模様。
これこそ他ならぬギアスの模様だった。ライは乾いた唇を動かして、小さく言葉を紡いだ。

リリィ、ごめん………。君の記憶から、ルルーシュを消すよ。これしかもう、思いつかないんだ。リリィの心が壊れるのを見るくらいなら、僕は手段を選ばない………。」

そのままそっと、リリィの耳に唇を近づけて、ライは辛そうに呟く。

リリィ・ルゥ・ブリタニア、僕の名前において命ずる。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアについての記憶を全て書き換えよ。
彼は8年前の戦争で死んだ。今アッシュフォード学園にいるのは………ルルーシュ・ランペルージっ。
そして、ナナリーは…………」

必要なことだけを呟くと、ライはリリィの額から左手を離す。

(これで………よかったんだ………。)

彼は目を閉じて倒れた。
ギアスを使用することには代償を払わなければならない。
ロロは自分の心臓に負担をかける代わりにギアスを使っている。
ライの場合の代償、それは…………

自分の記憶を一部消し去ることだった。

消すための記憶は選べない。ギアスを使ったときの許容量によって、消える記憶が決まってくる。
しばらくして何かに記憶を蝕まれる感覚がライを襲い、そして彼は意識を失った。
目覚めれば、どの記憶が消えているのか知る恐怖を抱えながら………。



たとえ何かを失っても、生まれ変わったように振まえ。
(ゲーテ)


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