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IC #21


「今ここで、お前たちには"エンジェルズ・オブ・ロード"の称号と地位を与える。我を満足させる働きを見せてみせい!!!」

皇暦2010年、日本。

エンジェルズ・オブ・ロードの称号と地位を与えられたリリィ・ルゥ・ブリタニアとライ・ルシフェルの二人は、荒れ果てた地に降り立った。
このころ二人が乗っていたナイトメアはまだ旧式のナイトメアで、フロートユニットなどの機能はない。
ただ大地を駆けるだけの機能が備わった戦闘兵器。でも二人は普通の人以上にこの兵器を使いこなす。
誰よりも速く駆け、蝶のように舞う。
リリィとライの二人はブリタニア軍の中では1、2位を争う実力だった。
それがたとえ、わずか10歳の子どもだったとしても、この時代のブリタニア帝国には関係ない。
実力があれば上にのぼりつめるだけ………。

リリィ、ここには誰もいないような気がする。」

無線でライがリリィに言えば、彼女は小さく答えた。
エンジェル・オブ・ロードがここに来た理由はただ一つ。
日本に渡った第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを探すため。
この戦争で戦うことを条件にリリィとライによるルルーシュ捜索が承認された。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはリリィにとっての幼馴染であり、初恋の人だった。
ある理由から二人は離れ離れになり、月日が流れたのだ。

リリィはナイトメアを動かす手を止める。
シュンと音を立ててナイトメアが止まった。ライの機体も横に並ぶ。
荒れた土地の遠くには小さな丘があった。

「ねぇライ、ここにもルル様はいないみたいね。」
「うん。やっぱりブリタニアでルルーシュ様とナナリー様の身を案じた人が手を回したんじゃないの?」
「…………マリアンヌ様があんな殺され方をしたのに?」
「それは………」

ライは口をつぐむ。
そう、ルルーシュの母であるマリアンヌは何者かの襲撃を受けて死んだ。
もともと貴族ではなかったため、彼女をつけ狙う輩(やから)は大勢いた。
いつ命を狙われてもおかしくはない状況に彼女は置かれていたのだ。

「とにかく、もう少しこの辺を探してみたいの。」
「………イエス・ユアハイネス。」

そう呟くと、リリィが声を荒げて言う。

「やめてよライ!!!今の私は皇族じゃない。エンジェルズ・オブ・ロードよ?ライだってエンジェルズ・オブ・ロードの一員。仲間でしょ?」
「ごめん、つい………。」

彼女に怒鳴られて、ライは首をすくめる。
反射的に何かあるとこう言ってしまう。誰から教えられたわけじゃない。
なのにこう答えることが体に根強くしみついている。なぜなんだろう………?

(僕は一体、記憶を失う前は何者だったのだろうか?)

そう考えていると、小さく「あっ」とリリィが声を上げる。
コクピットの画面に、少年の姿が映った。一瞬ルルーシュかと思ったが違った。
少年は、そのまま振り返らずに走っていく。リリィのため息が聞こえた。

「あの子、私達と同じくらいの子だね。」

そう言う彼女の声は、とても悲しそうで、ライは「うん、そうだね。」としか答えられない。
他になんて言葉をかけてやればいいのか分からなかった。

「とにかく、少し進んでみましょ………」

彼女がそう言いかけたとき、機内で複数の敵が近づいていることを知らせるアラームが鳴る。

「狙われてるっ!?」

ライは大きく叫んで機体を発進させた。ギリギリで攻撃を避ける。
回線が開き、オープンチャンネルで複数の敵の中からリーダー格の男が話しかけてきた。

「なるほど、お前たちがブリタニア本国から派遣されてきた"エンジェルズ・オブ・ロード"。」
「だから何ですか?」

負けじとリリィが言い返す。
相手は大きく笑い、にやりと口の端をつり上げてから言った。

「どうやら、お前達は"何か"を探してるみたいだな。」
「えっ………?」

リリィは眉をひそませた。嫌な予感がする。
まさか………まさかだけどっ………!!!その予感は当たった。

「君たちのお探しの品はあれじゃないのか?」

敵は陰湿な笑みを浮かべて遠くの丘を指差した。
二人は振り返り、ナイトメアのズーム機能を使って丘の上を見る。
遠いため、詳しくは見えなかったがギリギリでそこにいるのがルルーシュとナナリーの二人だということが分かった。

「ル………ルル様っ!!!」

ルルーシュとナナリーの二人は捕まっていて身動きがとれない。
それでもリリィとライのナイトメアに向かって何かを叫んでいた。
助けてと言っているのか逃げろと言っているのか分からない。けれどきっと後者だ。
彼らは優しいから、きっと自分を犠牲にしてまで二人を助けるつもりなのだろう。
リリィの手に力がこもった。

「ルル様とナナリーを………返してくださいっ!!!
彼らを返してくれるのなら、私からお父様……ブリタニア皇帝に話をして、戦争を終結させるように説得してみせますっ!!!だからお願いっ………。」

彼女は必死だった。ルルーシュとナナリーの命を救うために。

「デタラメを言うな!!!どうせそんな約束、守るつもりはないんだろ?
世間知らずのお姫様がよく言うよ。お姫様には知ってもらわなきゃいけないな。戦争が、どんなものかを!!!」

ニヤリと相手は笑い、ルルーシュとナナリーがいる丘に武器を向けた。ぞくりと寒気がリリィの背中に走る。止めなければ!!!あいつを!!!そうしなければ二人が殺されてしまう!!!でも……体がぴくりとも動かなかった。

「やめ………やめろぉぉぉぉぉ―――――――っ!!!」

ライの叫び声で我に返り、彼女はすぐにナイトメアを走らせる。しかし――――――遅かった。
耳につくような爆音が響き、丘は吹き飛んだ。あとかたもなく………。

「はっはっは!!!これが戦争だ!!!戦争っていうのは、殺るか殺られるかの二つしかないんだよ!!!」

楽しそうに相手は声を上げる。
ライは言葉を失った。それはこの体験を、どこかで同じように体験した記憶が蘇ったから。
親しい人たちが目の前で吹き飛んで……それから………それからっ……思い出せない!!!

「殺るか、殺られるか………?」

相手の笑い声に重なって、とても低い声が静かに響く。
背中がぞくりとするほどの声だった。ぴたりと敵の笑いがやみ、静かな時間がしばらく流れる。
声の主はリリィ・ルゥ・ブリタニア。

「それならここで全員…………」

殺 ら れ て 下 さ い 。

顔を上げたリリィの瞳は冷たかった。「ひっ………!!!」と敵が声を上げる。
リリィは容赦なく敵に襲い掛かった。素早い動きで敵のナイトメア一体を武器で貫く。
機体が倒れ、爆発が起こる。あと7機………。
次に彼女は一体をバラバラにしたあと、コクピットを武器で貫く。
「うあっ!!!」という声と同時に、そのナイトメアは爆発を引き起こした。
その光景を見ていると、ライの中で眠っていた何かが目を醒ましそうになる。
今まで押さえつけていた何か。戦いが自分を呼ぶ。飛び散った残骸が、何かを目覚めさせる。
どうしようもない怒りの心と、憎しみの記憶。敵の姿が何かの姿とダブった。
その瞬間、ライの瞳が赤く染まり、模様が浮き出る。彼は大きく叫んだ。

「ライ・ルシフェルの名において命ずる!!!ここにいる日本人全員はみんな――――――――死ねっ!!!」


イエス・マイロードっっっ!!!!


残った機体6機は、自ら爆発を引き起こして消滅した………。


「それからというもの、僕とリリィは見つけた日本人を片っ端から殺していった。
大人も子どもも、男も女も、そんなこと気にしなかった。憎かったんだ、日本人が。
目の前でルルーシュとナナリーを殺されたリリィはその時憎しみだけで動いていたし、僕自身は長年押さえつけていたギアスのせいで確実に暴走していた。
止める人なんて誰もいなかった。戦争しているんだから、ブリタニア軍には好都合。
僕たちはそうやって、日本を潰していった………。最初はトウキョウから。次はトウホク。
カントウ、シコク、キュウシュウ………。」

瞳を伏せて、ライは言う。
スザクは青い顔をして口を押さえる。気分が悪く、吐きそうだった。
日本人を片っ端から殺した。それって…………

「ぎゃく………さつ…………。」
「そう呼んでくれてかまわないよ。本当のことだから。そう、僕たちは暴走した憎しみによって虐殺を繰り返した。ね、スザク。一度君が僕たちのことを呼んだことがあったよね、"殺戮天使"って………。そうだよ、僕たちは………確かに殺戮天使だよ。僕たちのことを嫌ってる人たちは、みんなそう呼ぶ。」

殺戮天使。
それは日本制圧を進める彼らにつけられた裏のあだ名であり、日本人たちは彼らをこう呼んだ。
やがて二人はチュウゴク地方征圧に乗り出す。
しかしここで起こった出来事は、のちに彼らをどん底へと引きずり込んだ。
この地にいたのだ。藤堂鏡志郎。厳島のキセキを起こした人物。
ライとリリィはこの人物に負けたのだ。ナイトメア戦でも、人の心の強さでも、全てにおいて。
藤堂に負けて、初めてリリィとライの二人は自分たちの過ちに気付いた。
人間の心を取り戻した彼らの目に最初に映ったのは、ただ真っ赤に染まる海だった。
周りを見回せば、倒れる屍ばかり。

「ライ、私達………なんてことをっ!!!」

その時、二人の上に雨が降り注いだ。
冷たい雨は、リリィとライについた血を洗い流す。その雨を受けて、リリィがぽつりと呟いた。

「雨が私についた血を洗い流す………。血が……血だけが流れていく……。」

僕たちはその時初めて、自分達が犯した罪の重さを知った…………。



夕川に葦は枯れたり血にまどふ民の叫びの悲しきや
(石川啄木)

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