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2015.10.18  IC #28 <<16:24



悪夢にうなされ続けたルルーシュは目を開く。昨日の最後の光景が、脳裏に焼きついて離れなかった。
スザクと共に去っていくナナリー。最愛の、妹……………。すぐに人の視線を感じて、ルルーシュはそばを見る。心配そうな表情のロロが、ルルーシュをじっと見ていた。彼の口が開く。

「うなされているようだったから…………。昨日、何かあったの?」
「いや………………。」

ルルーシュはとっさに否定した。
昨日のことを誰にも聞かれたくない。それはルルーシュの弱さを見せることになるから。ロロが本当に自分のことを心配してくれているのは分かる。でも…………彼は、本当の弟ではない。ナナリーにとって代わる存在には、なりえない。絶対に。

「俺は、何か言っていたか?昨日…………」
「えっ?」

ルルーシュの問いかけに、ロロは少し言葉を詰まらせた。
そう、昨晩、ルルーシュの看病をしていた時に確かに聞いた。『ナナリー』という言葉。ルルーシュの妹の名前。ロロはすぐに嘘をつく。嘘をつくのは得意だ。自分が嘘で塗り固められた存在だから。でも、鋭いライにはすぐにばれてしまうけど。

「ううん。兄さんは、何も言ってなかったよ。何も…………。」
「そうか。」

それだけ呟いて、ルルーシュは再び目を閉じる。ナナリーの姿が見えた。
ふわふわのドレスに身を包んでいて、車椅子に乗っていた。必死でこちらに手を伸ばしてくるナナリー。彼女は言った。
世界は、もっと平和に、優しく変えていける―――――――と。
ナナリーが言うんだったら、そうかもしれない。そう、世界はもっと、優しく平和に変えていける。もう、ゼロなんて存在しなくてもいい。ナナリーが、世界を変えてくれる。ナナリーの望む世界。ナナリーの選ぶ明日。それにはルルーシュが、ゼロが………邪魔なのだ。


***


「お姉様、私はちゃんと、エリア11の新総督としてご挨拶ができるでしょうか?」

ナナリーは横に座る人物へと尋ねた。もうすぐ新総督としての就任挨拶が始まる時間。大勢の部屋の中で不安をあらわにできる相手はたった一人。母は違うけれど、同じ皇女としてナナリーが憧れた存在、リリィ・ルゥ・ブリタニア。リリィはナナリーの手を優しく握って答えた。

「大丈夫よ、ナナリー。私がちゃんと見ているから。ナナリーはね、ルルーシュとよく似てて、いざとなったとき力を発揮できる子よ。だからきっと、大丈夫。」

彼女はナナリーを抱き寄せ、甘く香る髪に口付けを送る。壊れ物を扱うように優しく。ナナリーがネコのように気持ちよさそうに表情を緩めた。そのままナナリーは、リリィに抱きついたまま述べる。

「あの、お姉様。私…………ユフィ姉様の意志をついで、行政特区・日本を再建したいと思っているんです。今日のスピーチでは、そのことについてお話しようと思ってます。」

ぴくりと、リリィが動いたのがナナリーは気になった。でも、リリィならきっと分かってくれるはずだと思い、言葉を続ける。

「お姉様なら、私に協力してくれますよね?」

しばらく沈黙が続いた。ナナリーは不思議に思う。なぜリリィはすぐに「うん。」と言ってくれないのだろうかと。もしかして、リリィは反対なのだろうか。行政特区・日本を作ることを。
不安で胸が押しつぶされそうだった。それでもリリィの答えを待つ。不意にリリィが、ナナリーを抱く腕に力を入れた。

「ユフィの意志を、ナナリーがついでくれるのね。行政特区・日本…………。そうね、ナナリーならきっと、優しい世界を作ってくれるわね。協力、するわ。ナナリー。」

その言葉に、ナナリーはほっと胸をなでおろす。
就任挨拶の時間だといわれ、彼女はリリィに一旦お別れをし、スピーチへと向かった。ナナリーがいなくなって、リリィはすぐに部屋から出た。
足が震える。体が震える。急ぎ足で廊下を歩き、だれもいなくなったところで座り込む。震える自分の体を落ち着かせるように。

行政特区・日本。
かつて親しかったユーフェミアが、日本人のためを思って作ろうとした理想郷。
彼女の願いはたった一つ。みんなが笑顔になれる世界を作ること。ユーフェミアがそんな理想郷を作ろうとしていたとき、リリィは彼女から連絡を受けたのだ。

リリィ、私はエリア11に行政特区・日本を作ろうと思うんです。あなたもそこに、参加してもらえませんか?私に協力してくれませんか?」

ふわりと笑うユーフェミア。
リリィはその話を聞いたとき、固まった。ユーフェミアの透明な願い。透明すぎるくらいの願い。でもその願いはリリィを傷つける。
エリア11は、日本は、リリィが壊した国だった。憎しみによって。自分には、日本の土を踏む資格などないと思っていた。だから………断った。ユーフェミアの誘いを。それでもユーフェミアは笑って許してくれた。
行政特区・日本が出来た時、一緒にお祝いして欲しいとも連絡をもらった。けれどリリィは、それさえも断った。そして、ユーフェミアは………そのまま命を落とした。
リリィはユーフェミアがなくなったことを聞き、絶望へと立たされる。
もしもあの時、断らなかったなら、もっと違う道を歩んだかもしれない。ユーフェミアの暴走を、止められたかもしれない。でもそれは、遅すぎる後悔。ユーフェミアにあわせる顔がなくて、結局お葬式にも出なかった。
彼女の顔を見たくなかったのだ。顔をみればきっと、より深い後悔を味わうと思ったから。これ以上、自分が傷つくのがイヤだった。逃げたかった。

「なんて卑怯…………。」

リリィは一言つぶやいてみる。
腕に顔をうずめると、少し体の震えがおさまった。ユーフェミアの意志をつぎ、今度はナナリーが行政特区・日本を作ろうとしている。反対ではない。むしろ協力したい。やはり日本人には、日本という国が必要だと思ったから。それはエリア11に来てから思ったこと。今度は後悔しないように。でもそのためにはもう少し、心の準備が必要で……………。
もうすぐナナリーのスピーチが始まってしまいそうだったが、リリィはしばらく座り込む。

「ユフィ………ごめんね。ごめん、ね。」

一人でそう呟くと、リリィのそばに影が落ちる。
何だろう?と不思議に思った瞬間、優しい香りと抱擁は訪れた。彼女はすぐにそれが誰だか分かった。こんなふうに抱きしめてくれるのは一人しかいない。

リリィ、どうしたの?こんな人のいないところで…………。」
「ス、ザク…………。」

リリィは伏せていた顔を上げる。赤い瞳にたくさんの涙が溜まっていた。スザクはそれを見て、眉をひそめる。彼の表情がこわばったのを見て、リリィは涙をふき、笑ってみせた。

「なんでもないの!!!ただちょっと…………大切な人に謝ってただけ。その人が、本当に許してくれるかどうか分からないけれど。あ、大変っ!!!ナナリーのスピーチ始まっちゃう!!!スザクもこんなところで油売ってないで、ちゃんとナナリーの横にい――――――」

言葉が飛んだ。
ポフっと音がして、温かいぬくもりが訪れる。自分がどんな状況なのかが分からない。
しばらくして、自分がスザクにきつく抱きしめられていると分かった。

「嘘、つかないでよリリィ。なんでもないわけないじゃない。リリィ、君ひどい顔してるよ?とても苦しそう…………。ねえ、僕じゃリリィの苦しさを受け止めきれない?僕はリリィの支えには―――――――――ならない?」

ギュっとさらに力が加わった。
彼女は顔を上げる。優しい翡翠色の瞳が彼女の視線とぶつかった。それがとても温かく感じられて、リリィは下を向く。そのままコツンと、額をスザクの胸に当てる。強く彼の服を握り、肩を震わせた。
最初は小さい嗚咽だったが、だんだんそれが大きくなる。そして…………

「ごめん、なさ、い…………っ。ユフィ……っ。」

スザクが聞き取れたのはその言葉だけ。あとはリリィの小さな泣き声と心の悲鳴だけが聞こえた。彼は子どもをあやすようにリリィの背中をなでてあげる。そうするだけで、不思議とリリィの肩の震えはおさまっていく。
リリィはしばらくスザクの胸で泣いた。しばらくすると、彼女の肩の震えと嗚咽は完全に止まる。

「ごめんね、スザク。私、最近泣き虫になっちゃったみたい………。」

スザクの胸から離れて、恥ずかしそうにリリィが言う。そんな彼女を、スザクは目を細めて見た。耳まで真っ赤。とても可愛く思えた。
涙をふいたリリィは、はにかみながら言う。

「ふふ、泣いたらなんだかすっきりしちゃった。これでナナリーのスピーチも、ちゃんと集中して聞けるわ。ありがとう、スザク。」
「どういたしまして。」

スザクもにっこり笑って言葉を返す。
目の前にいたリリィは、廊下にかけられた時計を見て慌てた。「大変!!!もうスピーチが始まっちゃう!!!」と声をあげ、大急ぎでかけていく。スザクはその姿をじっと見ていた。
急いでかけていくリリィが、ふと立ち止まる。そのままスザクを振り返り、リリィは言った。

「どうしてだろうね。スザクが抱きしめてくれると、本当の自分になれるような気がするの。
皇女としてのリリィ・ルゥ・ブリタニアじゃなくって、この世界を必死に生きるただ一人のリリィに。きっと、ユフィもそうだったんだと思う。だからユフィはあなたを騎士に選んだ。ユフィはきっと、今でもスザクを愛しているよ。」

リリィはそうスザクに告げ、ナナリーのスピーチを行うための部屋へと走っていく。けれどもその時の彼女の心境は、なぜかとても複雑だった。
そう、きっとユーフェミアは今でもスザクを愛している。きっとスザクのそばにいて、いつでも彼を守っている。そう思うだけで、自分のどこかが苦しい。スザクだってきっと、今でもユーフェミアを愛しているはずだ。自分に優しくしてくれるのは、自分がユーフェミアと同じ皇女だから。スザクがいつも抱きしめてくれるのは、自分にユーフェミアの影を映しているから。そう思うだけで、苦しい…………。その正体が、何かは分からない。
反対に、スザクはリリィの後ろ姿を見ながら悲しい思いをしていた。
どうして気付いてくれないのだろう?こんなにもリリィが大切で仕方ないのに。
リリィに優しく接するのは、ユーフェミアの影を彼女に見ているからじゃない。リリィ自身を愛しているから。白黒の世界に生きていた自分に、彼女が色を教えてくれたから。

リリィ………………。」

誰もいない廊下で、スザクは愛する人の名を呼んだ。


***


「みなさん、初めまして。私はブリタニア皇位継承第87位、ナナリー・ヴィ・ブリタニアです。
先日なくなられたカラレス侯爵に代わり、このエリア11の総督に任じられました。私は見ることも、歩くこともできません。ですが、精一杯総督を務めます。どうか、よろしくお願いします。」

ナナリーは丁寧に頭を下げた。そしてそのまま言葉を続ける。エリア11の明日のために。

「早々ではありますが、みなさんに協力していただきたいことがあります。」
「えっ……………?」

小さくスザクが声をあげ、ナナリーを見た。彼女はみんなの動揺を気にせずに淡々と述べていく。

「私は、行政特区・日本を再建したいと考えています。」

ナナリーがそう言うと、会場のいたるところで声が上がった。
「口にするだけでもはばかられるものを………」と人々は小声をあげ、どよめきはおさまらない。リリィはナナリーのスピーチと、周りのその声の両方を聞いて、静かに瞳を閉じた。隣にいるライも真剣な目つきをしていた。そしてリリィに小さく問う。

リリィ、君はそれでいいの?」

彼女はすぐに言葉を返した。

「うん、いいよ。ユフィには、もう謝った。たくさん、数え切れなくらいに。」

リリィがいいのなら………」ライがそう呟いて、視線をナナリーに戻す。
ナナリーの隣にいたスザクは動揺し、瞳を揺らした。そして、リリィの先ほどの悲痛な懺悔を思い出す。

(ああ、それでリリィはユフィに謝っていたんだ。)

壇上から、彼女の姿が見えた。リリィは静かに目を閉じている。その隣にライもいた。
彼はすぐにスザクの視線に気付き、コクンと頷く。そしてライの口が動く。

リリィなら、大丈夫。』

それだけを紡いで、にっこりと笑ってみせた。




最も古いものを忠実に保持し、快く新しいものをとらえ、心は朗らかに、目的は清く。
それで、一段と進歩する。
(ゲーテ)

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