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籠鳥雲を恋う

夜中のことだった。物音がしたような気がして、石切丸はゆっくりと覚醒を迎える。

(こんな時間に誰だろう・・・?)

隣では、同室の三日月宗近がすやすやと寝息を立てている。今日の内番で疲れたのか、石切丸が布団から抜け出しても全く起きなかった。
季節は冬。しんしんと音もなく降り注ぐ雪を眺めつつ、彼は音のしたほうへ向かう。全て明かりが消えているはずの本丸で、唯一明かりがついている部屋があった。
そこは、時間を超えるための機械が置いてある部屋。なぜこんなところの明かりが・・・。そんな気持ちいっぱいで、彼はそっと部屋の中を伺う。当然、誰もいなかった。ただ、時間転移装置だけが動いている。
設定された年代は・・・・2195年。

(おかしいな。時の政府が置かれているのは、2205年のはず。しかもこの機械は、美和にしか扱えない。ということは、2195年に行ったのは・・・美和?)

機械はまだ、動いている。石切丸は吸い込まれるように時間転移装置の光の中へ入って行く。
目を開けた時には、そこはもう本丸ではなかった。
彼の耳に届いたのは、誰かが叫ぶ声。石切丸の臭覚を刺激したのは、物が焼ける匂い。視覚を刺激したのは、燃え盛るほどの赤い赤い炎・・・。
何かが、こみ上げてくる。煙を吸ったせいかもしれない。口を押さえた石切丸の視界に、見慣れた着物が飛び込んでくる。
それは主である美和の姿。
美和・・・と言いかけて、石切丸はその名前を飲み込んだ。美和のその先に、幼い美和がいた。
彼女はただじっと、幼い美和を見ている。石切丸は理解した。2195年というのは、美和の幼少時代・・・。

『お父さん!お母さん!怖いよ!誰か・・・誰か助けて!』

幼い美和はただ一振の刀をぎゅっと抱きしめて、燃え盛る建物のそばにいた。
その時、彼女の持っていた刀が光を放ち始め、石切丸がよく知る人物がフッと幼い美和の前に現れる。
青い狩衣。狩衣に刻まれた、三日月の印。

『天下五剣の一つにして、最も美しいと言われる刀。そなたが俺を呼び覚ましたのだな。・・・怖かったか?幼いわりに、よくがんばったな・・・』

三日月宗近が幼い美和を抱きしめる。その光景を見届けて、石切丸のよく知る主はそのまま彼らに背を向けた。
呆然とたたずんでいた石切丸に、美和は気づく。

「い・・・いしきりまる?」

名前を呼ばれ、ハッとする彼。美和の瞳が揺れ動いていた。もしかしたら、美和にとって見られたくない過去だったのかもしれない・・・。
どうすればいいか分からなくなった石切丸は、そのまま黙っていた。フッ・・・と美和が困ったように笑った。その表情を見て、石切丸の体のこわばりが解けていく。この状況で嘘をついても仕方ないと分かっていた。

美和・・・すまない。物音で目が覚めて、時間転移装置が動いていたから気になって・・・」
「そう、だったんだ・・・。ごめんね、心配かけて。ここはね、私が審神者になる10年前の時代なんだ。時々寂しくなって、故郷を見に来るの。歴史修正主義者との戦いで、結局全部・・・焼けちゃうんだけどね。この戦いで、審神者だったお父さんもお母さんもいなくなっちゃうし・・・。」
「・・・・。」

石切丸は何も言えなかった。
今まで知らなかった、美和の過去。もしかしたら、今美和の近侍を務めている宗近は知っていたのかもしれない。
思い詰める表情を見せた石切丸に、美和は慌てて声をかけた。

「大丈夫だよ!石切丸!私、もう今は寂しくないんだから!さぁ、帰ろう?私たちの本丸へ。」

美和は石切丸の手を取って、光のほうへ歩き出した。後ろを振り返れば、幼い美和が三日月宗近の胸で泣いていた。
今、目の前を歩く彼女は故郷を恋しく思いここに来たのだろうか?
それとも、歴史修正主義者への憎しみを再確認するために、ここへ来たのだろうか?
石切丸には、どちらだったのか分からない。
光を抜けると、そこはもう、先ほどいた場所ではなかった。静かに雪が降り続ける本丸。まばゆい光に一瞬目を細めると、目の前にだんだん浮かんでくるのは、青い狩衣を来た三日月宗近の姿だった。

「宗近!」
美和、それに石切丸も・・・。あの場所へ行っていたのか?」

あの場所とは、幼き美和の時代のことだとすぐに分かった。
宗近は怖い顔をしている。それはまるで、石切丸牽制しているようなものであった。
石切丸の脳裏に、幼い美和を抱きしめる宗近の姿が思い出される。彼にとって美和は、大事な存在なのかもしれない。
でもそれは、石切丸自身の中にも存在する思い。彼女が・・・大事だ。

美和・・・・」
「石切丸、美和の近侍は俺だ。」

彼はそれだけを言い残し、美和と共に部屋を出る。彼女は一瞬だけ申し訳なさそうな顔をしたあと、宗近に寄り添って歩いて行く。石切丸は、彼女に向かってのばした手を静かにおろすくらいのことしかできなかった。




籠鳥雲を恋う




ろうちょうくもをこう
(身を束縛されている者が自由な身を望むたとえ。また、故郷を恋しく思う意にもいう)
大辞林より。

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