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2015.11.18  IC#36 <<01:07



ブリタニアの土地ではない場所で、不安そうな顔に神楽耶はゼロに告げる。中華連邦の天子が、ブリタニアの第1皇子であるオデュッセウスと政略結婚することを。天子の親友として、皇コンツェルンに招待状が届いたのだ。
ルルーシュは仮面の中で表情をゆがめた。計画ではこんなふうに手を打たれる前に、天子を押さえるつもりだったのだ。しかし動きはブリタニアのほうが一足早かった。このままオデュッセウスと天子が結婚してしまえば、黒の騎士団はここにはいられなくなる。大宦官たちか?と考えたが、奴らではないだろう。それではオデュッセウスの策か?いや違う。あいつは平凡な男だ。こんな奇策は考えない。残るは……………そこまで考えて、ディートハルトの言葉を聞いた。

「ゼロ、この裏には…………。」
「ああ、もう一人いるな。険悪だった中華連邦との関係を一気に…………。こんな悪魔みたいな手を打ったやつは――――――。」

シュナイゼル・エル・ブリタニア。

おそらく、そいつしかいない…………っ!!!


***


「あー、もうっ!!!どうしてこうなるのよっ…………っ!!!」

リリィは自分の頭を押さえてから、ペタリとテーブルに体を倒した。長い髪がさらりとテーブルに流れて広がった。ひんやりと冷たくて気持ちいい。彼女は肌をそこにくっつけたまま、ぼうっと窓の外を見つめた。クスリと、近くで声が上がる。リリィはその声の主を睨みつけた。

「おっと、ごめん。」

声の主であるライは、自分の顔を読んでいた本で隠す。すぐに赤い瞳は彼から離れた。

「私…………なんでこんなところにいるんだろう。」

そのまま、ぽつりと呟く。
リリィがいる場所は、エリア11ではなくブリタニア本国だった。兄の側近であるカノンが突然連絡をしてきたため、リリィはライと一緒に本国へと帰ったのだ。
慌ててシュナイゼルの元を訪ねれば、彼はいつもと同じようにリリィを抱きしめ、そして言う。第1皇子オデュセウスが結婚するのだと。リリィはあっけにとられた。彼の相手は中華連邦の天子。お祝いをしてくれないか?と、シュナイゼルは笑ったが、リリィはその結婚の意味を知って、顔をこわばらせた。つまりそれは、政略結婚…………。天子は確かまだ、幼い少女だったとリリィは記憶している。

「ねえライ。私、天子様がすごくかわいそうに思えてくるの。確かにオデュッセウスお兄様は優しくて、おっとりしていていい人よ?でも……………。」

やっぱり結婚は、好きになった人としたいよね。

リリィは小さく呟いた。ライが読んでいた本から顔を上げる。彼はうつぶせるリリィを見て、目を細める。政略結婚か…………そう静かに言ってみて、体をソファにあずけ天井を見た。

天子は結婚したと同時に、ブリタニアの人質となる。

それがライの心に影を落とした。幼いときにはもっと、のびのびと過ごすのがいい。幼いときには、それ相応の時間を。それはいつも、リリィの祖母であるモルガンが言っていた言葉。だからリリィとライ、ロロの三人は幼い頃、いつも野山を駆け巡っていた。それは懐かしく、大事な記憶。大切な、大切な、みんなとの思い出。天子は、そういう生活が昔から……………できなかった。


***


中華連邦。洛陽、迎賓館。

スザクはなんだかこの結婚に納得できずにいた。主賓席を見れば、スザクよりもはるか年上の男性。その隣には、まだ幼くて小さな女の子。親子…………と言っても不思議ではないだろう。彼はそばを通ったセシルを捕まえて、彼女に尋ねた。

「天子様は、納得しておられるんでしょうか?」
「向こうがそういっておられるのだから、信じるしか………。それにこれは、平和への道の一つだし。ここは招待客として、楽しみましょうよ。」

にっこりスザクに笑いかけるセシル。「はぁ。」とだけ呟いて、スザクは視線を落とした。
そういえば最近、リリィに会えていない。彼女は先日、ブリタニア本国に用事があるからと、ライと一緒に帰っていった。それからというもの、何も連絡がない。本国で、何をしているんだろう…………。少し寂しくて、彼はため息をついた。そんなスザクを見て、セシルが尋ねる。

リリィちゃんのこと?」
「えっ…………?」

突然彼女の名前がセシルの口から出てきたので、スザクは戸惑った。瞳を左右に動かしつつ、小さい声で「はい。」といえば、セシルは微笑みを浮かべて言う。

「寂しいのね。でもすぐに会えると思うわ。だってリリィちゃんは――――――」
「スザクー!!!あったあった!!!」

セシルの言葉とかぶるように、ジノが嬉しそうにスザクの名を呼んだ。彼の手には皿が握られていて、その上にオレンジ色の龍が乗っていた。これを鑑賞するためだけに持ってきたのなら、スザクも文句は言わない。だけどジノは、もっと違う目的でこれを彼のところに持ってきた。

「これだろ!?お前が言っていたイモリの黒焼き!!!どうやって食べるんだ?」

満足そうな笑顔でそう述べるジノに、困った顔を見せながらスザクは言った。

「これは料理の飾りだって!!!」
「飾りぃー!?」

きょとんとした目で、ジノは皿に乗せられたそれを見る。オレンジ色の、綺麗な彫刻みたいなもの。スザクにはそれがどこからどう見たってイモリの黒焼きには見えない。その前に、ジノは"イモリ"という生き物をちゃんと知っているのだろうか?まずはそこからして怪しい……………。
「ふーん。」と言いながら皿のオレンジを見つめ、ジノはすぐに視線をセシルに移した。

「でも、さっき似たような鳥を食べていましたよね?」

ジノの発言に、スザクは目を丸くして驚いた。まさか…………と思う。おそるおそるスザクは隣にいるセシルに尋ねた。

「鳥って…………まさか鳳凰をっ!?」
「そういう料理なの?お肉かと思ったらにんじんで…………」

カシャン。

セシルの背後で機械音がして、彼女は一旦言葉を切る。見ればアーニャが携帯で写真を撮り、しきりに何かを打ち込んでいた。セシルは困った顔をしてアーニャに注意した。けれどもアーニャはメールでなく「これは記憶。」という。記憶とは、記録のことなのだろうかと、セシルは戸惑った。やはりライがいないと、アーニャの扱い方がまるで分からない。どうしてライはあんなにアーニャをうまく扱えるのかと、セシルはいつも不思議に思う。銀の髪と、アイスブルーの瞳を持った少年。そしてその横で、いつも微笑む少女。なんだかこの二人がいないだけで、酷く寂しく感じられた。

その横をロイドがすり抜けて、ミレイと言葉を交わす。そこにロイドを知った人物がやってきた。

「珍しいじゃない。明日の式だけ参列して、祝賀会には来ないと思ってた。」

穏やかでふんわりとした雰囲気をまとった人物だった。やわらかな口調には、女性が使うような言葉も混じっている。ロイドはミレイに目の前の人物を紹介した。
カノン・マルディーニ伯爵。シュナイゼルの側近。何かを企んだようにカノンはミレイに言った。

「公私ともにね…………。」

最初ミレイは訳が分からなかったが、すぐに理解して顔を赤くする。そんな彼女を見てカノンは楽しみ、「冗談よ。」とすぐに否定した。そして言葉を付け加える。

「シュナイゼル殿下は変わり者がお好きなの。私も含めてね。」

カノンが言葉を言い終わったのと同時に、迎賓館内で流れていた音楽が一斉に止まる。
エコーを含んだ声が、その人物の到来を告げた。

「神聖ブリタニア帝国宰相、シュナイゼル代表氏様、ご到着!!!」

ざわめきと同時に現れるシュナイゼルの姿。彼の横には、ミレイの良く知る人物がいた。彼女の友達であり、生徒会で共に過ごしたニーナ。シュナイゼルに手を引かれ、それはまるでお姫様のようだった。
その後ろには、赤い髪の少女が前を見つめ歩いていた。時折ニーナを心配するような視線を送る。ミレイはこの少女を見たことがなかった。何回も大きいパーティーに参加しているのに、一回も見たことがないのだ。シュナイゼルのそばにいるのだから、かなり地位の高い人なのだろうとミレイは思った。
彼女の斜め後ろに、少し控えめに歩く少年。公の場で着られる真っ白い騎士服に身を包む、銀の髪を持った綺麗な人。その瞳は、下に伏せられていた。

「ほぉー。弟は特定の女性を作らなかったんだけどねぇ。しかも後ろにいるのは私の妹、リリィじゃないか。元気そうでよかったよ。」

優しくオデュッセウスは天子に笑いかける。震えた声で天子は小さく返事をした。
シュナイゼルの後ろを歩くリリィは、ハラハラしてニーナを見ていた。シュナイゼルとこうして歩く前、彼女はすごく緊張しきっていた。しかし、彼女に「代わりましょうか?」と尋ねても、ニーナはその役を譲らなかった。どうしても、ユーフェミアの代わりがしたいと、それだけを言って。
横からニーナを悪く言う囁き声と、視線が突き刺さる。

「どうしてあんな子が?」
「誰よあの子…………。」
「シュナイゼル様の妹君であるリリィ様を差し置いて、ずうずうしいこと………。」
「本当に…………ねぇ。」

リリィは瞳を揺らして、斜め後ろを歩くライにこっそり視線を送った。下に伏せられていたアイスブルーの瞳が上げられる。彼はリリィに小さく首を振る。リリィは唇をかみ締めて、下を向いた。ライの視線が言っていたのだ。「余計なことはするな。」と。ニーナを悪く言う周りの貴族に文句の一つも言ってやりたかったが、今は皇女としてのリリィ・ルゥ・ブリタニア。シュナイゼルの体裁(ていさい)を悪くするわけにはいかない…………。
次第にじゅうたんの上で膝をつく三人が見えてくる。見慣れた人物たちだった。アーニャにジノ、そしてスザク。
リリィはスザクの姿を見ると何故だか少し、安心できた。スザクは顔を下に向けているため、どんな表情をしているのか分からない。シュナイゼルが立ち止まり、リリィたちも歩むのをやめた。

「お久しぶりです。皇帝陛下からこの地では、シュナイゼル殿下の指揮下に入るよう命じられました。」

ジノが慣れた様子でそう告げる。リリィはじっと、三人を見つめた。本当は自分もそこにいるべきはずだったのに。エンジェルズ・オブ・ロードとして。でも、どうしてもシュナイゼルから皇女としてオデュッセウスの結婚を祝って欲しいと頼まれた。優しい兄に頼まれて、彼女はどうしても断りきれなかったのだ。

「ラウンズが三人も。頼もしいね。あ、ただ、ここは祝いの場だ。もっと楽にしてくれないか?」

シュナイゼルに言われ、ジノはにっこりと笑った。アーニャとジノがすぐに立ち上がる。スザクも遅れて立ち上がった。すぐにニーナが彼に学園のみんなのことを聞いた。スザクは表情を緩めていった。「みんな、元気だよ。」と。そして横を指さした。ミレイがニーナに手を振る。最初、ニーナは驚いていたが、そのあとすぐに顔をほころばせ、彼女の名前を呼んだ。

「ミレイちゃん……………!!!」

その光景を見つめたあと、スザクはスッと、シュナイゼルの後ろに立つリリィを見つめた。いつもスザクと同じような騎士服を身につけていたが、今日は違う。白いドレスに身を包み、赤い髪をまとめている。ほんのりと化粧が施されていて、とても綺麗に見えた。いつもリリィは可愛くみえる。けれども今日だけは違った。少女でなく、女性に見えた。
スザクの視線に気付き、シュナイゼルは「あぁ。」と声を漏らす。リリィの体を引き寄せ、スザクに向かって言った。

「そういえば、スザク君は私の妹・リリィと一緒に戦ってくれているんだったね。私の妹が迷惑をかけるよ?頑固だろう?リリィは…………。でも、この子は本当に美しい。スザク君はリリィの母親を見たことがあったかな?この子はクラエス皇妃様にそっくりだ…………。」
「お兄様っ!!!」

茶化すようにシュナイゼルが言い、リリィが鋭い声を上げた。彼女はどこか不機嫌そうに見え、スザクは「はぁ。」としか答えられなかった。
軽く笑った後、ゆっくりしてくれとシュナイゼルはその場に言い残し、違う場所へと去っていく。彼が去ったあと、すぐにリリィの鋭い視線がスザクに突き刺さった。

「なんか…………機嫌悪そうだね。」
「そうでもないわ。」

彼女は否定しているが、全身から『機嫌が悪い』オーラがにじみ出ている。笑いを押し殺して、ライがリリィの代わりにスザクへと述べた。

「本国でね、いろいろとリリィの気に入らないことがあったんだよ。さっきもね……………。僕が止めなかったら、リリィはきっと、この会場で暴れてたかも。」
「だ、だって!!!態度があからさまなのよ!!!ニーナちゃんに聞こえるようにボソボソと!!!ニーナちゃんはユフィの代わりを務めようと必死で頑張ってくれてたのに!!!」

スザクは彼女の機嫌が悪い理由を、何となく理解した。おそらく先ほど、ニーナのことをいろいろ悪く言われたのだろう。リリィには、それが聞こえていた。なるほど、ライが止めなかったら、確かにリリィは会場で暴れていたかもしれない。でも、リリィらしいなと、スザクは思った。どこまでも優しくて、いつも人のことを一番に考える。それでこそ、スザクの愛したリリィ

リリィ…………ホント、君らしいね。」

彼はそう言って、リリィの頬に触れた。ピクンと彼女が動く。赤い瞳でスザクを見上げるリリィ。シュナイゼルが言うように、本当に美しい。
リリィの母親は見たことがないが、きっと彼女の母親も綺麗なのだろう。騎士服のリリィもいいが、ドレス姿のリリィもスザクは好きだった。

「ス、ザク…………?」

翡翠の瞳にじっと見つめられ、リリィは恥ずかしさを覚えた。どうして彼は何もいわないのだろうと不思議に思う。スザクが今何を考えているのか分からなかった。
逆にスザクは、どうしても彼女を奪ってしまいたかった。こんなに人がいなかったら、スザクはすぐにでもリリィを隠してしまっていただろう。先ほどからリリィに向けられる男たちの目スザクはそれが気に食わない。
リリィのほうに、少し体を寄せる。後ろにいた男がそれを見て、すぐに立ち去った。刃物のような瞳でスザクはそれを確認する。リリィに気付かれないように。けれども、ライには気付かれているようで………。ライが去るときに、彼はボソッとスザクの耳元に言葉を残した。

「スザク、今の君の顔、すごい怖いよ?」

面白そうに笑って、彼は立ち去る。こっちは必死だというのに…………。そんな時、声が上がった。

「皇コンツェルン代表、皇神楽耶様ご到着っ!!!」

神楽耶の到着を告げる声を聞いて、天子に笑顔が戻ったことを見逃さなかったリリィ。そして、神楽耶の横に立つ、ゼロの姿も…………。




時として外見は実体とはおよそかけ離れているもの。
世間はいつでも上面だけの飾りに欺かれる。
(シェイクスピア)



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