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2015.11.18  IC#37 <<01:24



(神楽耶…………?)

スザクは聞き覚えのある名前を耳にして後ろを振り返る。そこに彼がいた。ゼロ―――――――。そして、カレンも。三人は、すぐに中華連邦の兵士たちに囲まれ武器を向けられた。悲痛な声を天子が上げる。「神楽耶!!!」と、そこにいる彼女の名前を呼ぶ。それを大宦官たちが止める。リリィはそのやりとりをじっと見ていた。

(ああ、なるほど。そこに立つ少女は、天子様にとっての…………)

大切な、お友達なのね。

武器を向けられ続ける彼らに視線を移し、リリィは凛とした声で叫んだ。

「おやめくださいっ!!!ここは我が兄・オデュッセウスの祝いの席です。平和の道を歩むというのなら、中華連邦の方々、友好国ブリタニアを信じ武器をおさめてください。」

ルルーシュは聞き覚えのある声にハッとして、そちらを見た。そのとたん、呼吸ができなくなる。瞳がゆれて、涙があふれ出そうだった。
今回は騎士服ではなく、ドレスに身を包んでいるリリィ。この前のは、見間違いだったのだろうか?それよりも、リリィに会えたことのほうが大きい。ずっと、会いたいと思っていた。仮面の下で、ルルーシュは表情を和らげた。声に出さないで、唇だけで彼女の名前を紡ぐ。リリィ…………と。
シュナイゼルも一歩前に出て、言葉を告げた。

「我が妹、リリィの言うとおりです。やめましょう、いさかいは。本日は祝いの席ですよ?」
「ですが……………。」

しぶるように大宦官のうちの一人がそこで言葉を切る。リリィもスザクの横を通り抜け、兄であるシュナイゼルの横に並んだ。スザクは「え?」と思うが、彼女を捕まえるにはもう遅い。こんな時、彼は自分もリリィと肩を並べるくらい同じ地位にいたならと、そう思った。そうすれば彼女一人で立ち向かわせることもない。一緒に、立ち向かって行ける。

「皇さん、明日の式では、ゼロの同伴をお控えいただけますか?」

シュナイゼルはやんわりと神楽耶に尋ねる。彼女は言葉を詰まらせながらも答えた。「致し方ない。」と。

「ブリタニアの宰相閣下とその妹君がいうのなら………ひけぃっ!!!」

シュナイゼルの横で、大宦官は右手を水平に切った。すぐに中華連邦の兵達が元の配置へと戻る。
ルルーシュは視線をリリィからシュナイゼルへと移した。彼はゆっくりとゼロに近づいてくる。ルルーシュの目はギラギラと光った。

やはり黒幕はシュナイゼル。ルルーシュの計画を邪魔した張本人。

すぐにスザクが目の前に立ちはだかる。シュナイゼルもリリィも、彼の背中に隠れて見えなくなった。神楽耶はスザクの前でくるんと回ってみせ、彼に問う。

「枢木さん、覚えておいでですか?いとこの私を。」
「当たり前だろ?」

スザクは平然と答える。
後ろで「えぇっ!?」と小さく声が上がった。神楽耶はその方向を見る。
リリィだった。「あ…………」と申し訳なさそうな顔をリリィがしているので、神楽耶は笑って見せた。リリィのほうを見つめたまま、神楽耶は尋ねる。

「そうなのよ。私達、いとこ同士なの。似てないと思いますか?」

そう問えば、リリィはスザクの背後からにゅっと顔を出し、控えめに答えた。「似てない。」と。スザクはリリィの名を呼び、真剣な眼差しを向ける。今は敵なんだと、スザクの翡翠の目が言っていたので、リリィは顔を引っ込めようとした。けれども神楽耶は彼女に問う。

「シュナイゼル宰相とあなたはご兄妹なのでしょう?あなたたちも似ていないですわ。」

まるで世間話をするように、神楽耶はスザクを隔ててリリィに話しかける。神楽耶の言葉に、リリィは小さい声で言う。

「私と兄のシュナイゼルは、母が違っておりますから…………。」
リリィ。」

シュナイゼルは優しく彼女を抱き寄せた。ルルーシュはそれが何だか腹立たしく思える。昔からリリィは、よくシュナイゼルに懐いていた。彼とルルーシュがチェスをするときも、彼女はずっとシュナイゼルの駒の動きを見ていた。そのたびに、ルルーシュは今度こそシュナイゼルに勝つと、誓う。勝てばリリィはきっと、今度は自分の駒の動き方を見てくれるだろうと思ったから。
言葉が途切れた時を見計らい、ルルーシュはシュナイゼルにある申し入れをする。

「シュナイゼル殿下、一つ私と、チェスでもいかがですか?」
「ほお……………。」

シュナイゼルは感嘆の声を上げる。彼にチェスの勝負なんて挑んでくるものなど、これまでにいなかった。弟であるルルーシュ以外は。シュナイゼルは目を細めてゼロを見た。ゼロは言葉を続ける。

「もし私が勝ったら…………枢木卿とあなたの妹君をいただきたい。」

どよめきの声が上がった。スザクとリリィが驚きの声を発する。とっさにスザクはリリィを見た。しかしリリィは真剣な表情を崩していない。スザクはゼロに向き直る。ゼロは静かに述べた。

「枢木卿は神楽耶様に差し上げます。しかしあなたの妹君は、私がもらいます。」

この発言には、ライも眉をひそめた。ゼロがどういう心境でリリィをもらうと言っているのかが分からない。人質として?皇女だから?本当に、それだけだろうか…………?
リリィをちらりと盗み見る。少し肩が震えてはいるが、依然として凛とした態度をとったまま。そう、リリィはゼロの言葉にも負けないでいた。
幼いころからずっと、シュナイゼルのチェスの動かし方だけ見てきた。彼には誰も勝てない。あの、ルルーシュでさえも………。ルルーシュは、一度もシュナイゼルに勝てないまま、逝った――――――――。

リリィ、どうするかね?」

シュナイゼルは余裕の表情で小さく彼女に尋ねる。リリィはシュナイゼルを見上げて言った。「いいですよ、お兄様のお好きになさって。」と。「ふむ。」とシュナイゼルは唸ったあと、ゼロの提案を申し受けた。もしもゼロが負けたら、仮面をとってもらう条件と、黒の騎士団全員を、こちらに引き渡してもらうことを条件に。
仮面の中でルルーシュは、ニヤリと悪魔のように笑った。勝てば枢木スザクと、ルルーシュにとって大切なリリィが手に入る…………。


***


チェスの駒は次々と動いていく。
シュナイゼルが白で、ゼロであるルルーシュが黒。どちらも互角。シュナイゼルが駒を動かすたび、ゼロが駒を動かすたび、どよめきが上がった。その横で、このゲームの景品にされているリリィは何の声も上げず盤上を見ていた。スザクが心配になってリリィに声をかける。ふと、彼女は顔を上げた。そして笑って言う。

「心配なの?スザク。大丈夫よ、シュナイゼルお兄様はお強い方だから………。」

スザクはそう言われ、「僕は君のほうが心配なんだけど……」と小さく呟いた。決して、ゼロに彼女を渡すわけにはいかない。もしシュナイゼルが負けたら、スザクは全力でリリィを守ろうと誓う。スザクはリリィの手に触れる。手袋をした手で、彼女の手を握った。盤上からまた、赤い瞳が持ち上がる。スザクを見つめ、再びにっこりと笑った。

「スザクって心配性なのね。でも、私達がゼロのところに行くことは、絶対にない。」

リリィは言い切った。「どうしてそう言いきれるの?」とスザクが尋ねると、彼女は盤上を見つめたまま小声で述べる。

「スザクは、ステイルメイト…………って知ってる?」
「えっ?ステイル、メイト……………?」

リリィとスザクがそう話す中、ゲームはどんどん進められていく。
ステイルメイトとは、次の手を指すことができず、そのままではゲームの継続ができなくなること。今日のチェスのルールでは、引き分けとなるとされている。

「ステイルメイトになる条件は、その1・自分の手番であること、その2・相手にチェックはされていないこと、その3・合法手がない。つまり、反則にならずに次の動かせる駒が一つもないこと。ステイルメイトとなった時点で、チェスは終了。結果は引き分け。」

カタンと、白いポーンが置かれる音がする。
リリィはシュナイゼルの動かす駒を真剣に見つめる。しばらくして、リリィがスザクに静かに伝えた。

「この勝負、シュナイゼルお兄様の勝ちね。」
「えっ……………?」

彼は突然リリィにそう告げられ、ゼロとシュナイゼルの両方を見た。一人は余裕で座っているシュナイゼルと、もう一人は盤上をじっと見つめて動かないゼロ。ゆったりとした口調でシュナイゼルは呟いた。

「ステイルメイト。引き分けだよ………………。」

彼がそう言葉を発した瞬間、またもやどよめきが起きる。そんな中、ルルーシュは仮面の中でシュナイゼルを睨みつけていた。確かに、動かせる駒はもう、何一つない。どう考えても、この先ゲームを進めるための手が見つからない。そのときゼロは、盤上を見て気付いた。シュナイゼルの思惑に。彼は仮面の下で鋭くシュナイゼルをにらみつけた。憎しみをこめて。

リリィ………この勝負、引き分けだって。でも君は、シュナイゼル殿下が勝ったって―――――」

隣に立つ少女に、スザクはおずおずと尋ねる。リリィの言った意味が分からなかった。ゲームは引き分けだったけど、彼女は言った。シュナイゼル殿下の勝ちだと。その意味が分からない。
スザクの問いに、リリィは微笑みを浮かべて答えた。

「ええ、そう言ったわ。でもお兄様は、ゼロに勝てる力量を持っていながら、わざとチェックをかけなかったし、できるであろうチェックメイトもしなかった。ゼロの攻撃をたくみにかわしつつ、お兄様はわざとステイルメイトとなるよう、駒を動かしていたのよ。それはきっと、お兄様なりのゼロへの牽制―――――。そう…………」


お前は私の手の上で、踊らされるだけの存在だ。


リリィの言った言葉と、ルルーシュの思った言葉が重なり合う。ルルーシュには目の前に座る自分の兄が、本当の悪魔のように思えた。

「でもゼロは、お兄様を追い詰めた。そして劣勢でありながらも、お兄様のチェックを逃れた。そこは評価できるわ。どうやら彼は、追い詰められて初めて力を発揮する人なのね。」

これが本当に、皇女だろうかとスザクは思った。リリィはいつも先を読んでいる。あの海の上での戦いの時だって、黒の騎士団の狙いがメタンハドレイトだと見抜いた。彼女のそばにはいつも、誇り高き天使がいるように思えて仕方ない。ああ、そうしてリリィは、遠くへ行ってしまうのだろうか?自分が手の届かない、もっと高いところへと…………。スザクは翡翠の瞳を細めた。
その時、スザクの視界に何か光るものが飛び込んでくる。彼はすぐにその腕を捕まえた。ピンクのドレスに身を包んだニーナが、ナイフを持ってゼロを睨みつけている。そして叫んだ。

「ゼロっ!!!ユーフェミア様のかたきっ!!!」

ゼロはすぐにイスから立ち上がる。彼を守るように、カレンが前に立ちはだかった。スザクに腕を捕まえられて、ニーナは必死にそれを振りほどこうとする。「やめるんだ!!!ニーナっ!!!」といえば、彼女はスザクを睨みつけて叫んだ。

「どうして邪魔するのよ!!!スザクは、ユーフェミア様の騎士だったんでしょ!?」

ニーナにそういわれ、スザクはハッとした。

(そうだ、どうして僕は……………)

そう思い、力を緩めた瞬間をニーナは見逃さない。スザクの腕を振りほどき、ゼロだけをとらえてナイフを構えた。

「だめよっ!!!」

綺麗な声が上がり、そのあとすぐ、静寂が世界を覆った。
ニーナは確かな手ごたえを感じる。でもそれは、ゼロではなかった。先ほどシュナイゼルの後ろを歩いていた赤い髪の少女が、ニーナの前に立っていた。ふと、彼女を見ると左腕にニーナが握っていたはずのナイフが突き刺さっている。

「あ……………」

ニーナは数歩、後ずさった。
リリィは苦痛に顔をゆがめることなく、冷静に自分の腕に刺さったナイフを抜く。すぐに赤い血が、彼女の真っ白なドレスを汚した。だれも何も言わず、世界全体が金縛りにあったように誰も動けなかった。リリィはニーナに向けてにっこりと笑うと、一言つぶやいた。

「ユフィはきっと、そんなこと望んでないよ?」

すぐにニーナが膝から崩れ落ちた。彼女には、リリィの姿が光り輝いて見えた。まるでそこに、ユーフェミアが一緒にいるような感覚に陥る。腕から流れ落ちる血が床を濡らした時、止まっていた時間が動いたように人々が悲鳴を上げた。

リリィ――――――っ!!!」

スザクははじかれたように彼女を抱き上げ、すぐに医務室へと運ぶ。けれどもリリィに少しだけ制止された。彼女は部屋を出る前に、スザクに抱えられたままニーナに優しく言った。

「ねえ、ニーナさん。あなたの手は、汚れるためにあるのではないのよ?」
リリィ…………さま?」

ニーナが彼女の名前を呟いた。リリィはスザクの腕の中で、また綺麗に笑った。カレンは崩れ落ちたニーナにそっと、言葉をかけてあげる。ミレイは遠くから、それをじっと見つめる。そして思うのだった。ああ、カレンは変わっていないのだと。
一方ルルーシュは、床に落ちたリリィの血を見つめていた。今更ながらに後悔する。これが自分の生み出した罪。ルルーシュの与えたきっかけは、関係のない誰かを傷つけるきっかけとなることを思い知った。
混乱した中で、シュナイゼルがゼロに謝る。

「すまなかったね、ゼロ。今日の余興はここまでだ。それと確認するが、明日の参列はご遠慮いただきたい……………。」

シュナイゼルがそう言ったあと、ルルーシュは彼に尋ねた。「あなたの妹君は…………」と。そこで言葉を切ると、シュナイゼルは微笑む。

「大丈夫。あの子は強い子だから。それに、信頼できる騎士もついてるから。」

そう言葉を返され、それはスザクのことなのか?と思った。この、胸にざわめきだってくる不安が何ともいえなくて、ゼロは静かに部屋を出て行った。リリィと、スザク。ルルーシュは、とても嫌な予感がした。




頭がすべてであるような人間の哀れさよ!
(ゲーテ)



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