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IC#38


スザクは医務室までリリィを抱えて走ると、部屋の中に飛び込んだ。そっと彼女をイスに座らせると、医者を探す。けれども見当たらなかった。リリィの腕からは血が流れる。じわじわとドレスの生地に血が滲んでいく。仕方なくスザクは処置室から薬や包帯など、必要なものを取ってくる。

リリィ、お医者さんがいないみたいだから、僕が傷の手当をするね。応急処置程度しかできないから、あとでお医者さんに見せて、処置してもらって。」

こくん、とリリィは頷いた。それから、はさみでドレスの腕部分に切れ目を入れると、そのままビリビリと破く。あっけにとられているスザクを見て、リリィは笑って言った。こっちのほうが、処置しやすいでしょ?と。
腕を覆っていた布が破かれ、白い腕があらわとなる。流れ出た血が、彼女の腕に花を作っていた。スザクはそれを綺麗にふき取る。まだ傷から血が止まっていない。上からガーゼを当て、止血を施した。一瞬、痛みにリリィが眉をひそめる。

「ごめん、リリィ。痛かった?」
「あ、ううん。大丈夫。」

リリィは笑った。傷を押さえるスザクの手に、自分の手を優しく重ねる。そのまま「ありがとう。」と呟いた。スザクはリリィの温かい手を感じる。
彼は後悔していた。あの時、ふいにニーナから言われた言葉に、力を緩めてしまったこと。ニーナは言った。
どうして邪魔をするの?と。
スザクはユーフェミアの騎士だったんでしょ?と。
そう、どうしてかは分からない。だけど、殺してほしくなかった。ゼロを。もしかしたら彼が、ゼロなんじゃないかという考えもあったから。
ぎゅっと握られた手に、スザクは我に返った。瞳をあげれば、リリィの心配そうな表情が視界に飛び込んでくる。

「スザクこそ大丈夫?ニーナちゃんの言ったこと、気にしてるんじゃない?あの、ね…………気にしなくていいよ、スザク。確かにあなたはユフィの騎士だった。でも、ユフィはきっと、復讐なんて許さない。だからきっと、ユフィがスザクに言ったんだわ。『あの子を止めて、スザク。』って。だからスザクは、ニーナちゃんを止めた。」

目の前のリリィが優しい微笑みを携える。

「だから…………私がユフィの代わりに言うね。」

―――――――― あの子を止めてくれてありがとう、スザク。 ――――――――

彼女の横でユーフェミアが笑ったように見え、彼はなんとなく納得した。ユーフェミアはそこにいたのだと。彼女はきっと、いつもリリィと一緒にいたのだと。そのあとに、光をまとったユーフェミアが小さく呟いたような気がする。

『スザク、リリィを幸せにしてあげてね。』

って。いつもの優しい瞳で。

リリィ、ユフィはいつも、君のそばにいたんだね。」
「…………スザク?」

わけの分かっていないリリィに微笑みかけ、スザクは立ち上がった。血はもう止まっているようだった。彼はガーゼを新しいものに換え、消毒し、丁寧に包帯を巻いていく。その光景を、じっとリリィは見ていた。そして昔のことを思い出す。
まだ母であるクラエスが生きていた頃、同じように腕を怪我したことがあった。痛くてたまらず、泣きながらクラエスのところへ行ったとき、彼女は怪我したリリィの腕を手で覆い、「痛いの痛いの飛んでいけ。」と言った。すると痛みはおさまり、傷は綺麗に消え去っていた。

『どうやったの?お母様。リリィの傷、消えちゃった。』
『それはお母さんが、リリィに魔法をかけたからよ?おっきくなったらリリィもきっと、できるようになるわ。そしたら今みたいに、怪我をして痛いって泣いてる人を助けてあげるのよ?』

遠い日の、母との約束。そんな約束、まったく守れていないけど。むしろその逆。自分はただ、けが人を出す戦いを続けているだけ。

「おかあ、さま…………。」

ふいに傷に触れながらリリィが囁いたので、片づけをしていたスザクは振り向いた。赤い瞳は下を向けられ、寂しそうな表情をしていた。カチャンとスザクは道具を置き、静かに彼女を抱き寄せる。そのまま背中を撫でてあげた。彼女はおとなしく、スザクの腕のなかにおさまる。そして、クスっと小さく笑った。見れば、先ほどの悲しい顔はどこかへと飛んで、今は笑顔。

リリィ?」
「ううん。さっき、お母様のことを思い出したの。そしたら少し、悲しくなっただけ。でももう大丈夫。スザクが優しくしてくれたから。スザクに優しくしてもらうと、元気になる。なんでだろう。それがすごく不思議。どうしてスザクは、いつも私に優しくしてくれるの?」

腕の中で、リリィが小首をかしげて小さく問う。彼はためらわずに答えた。自分の、本当の気持ちを………。

「それは、リリィが好きだからだよ。」

しばらく沈黙が続く。不安になって彼女の顔を覗き込めば、リリィは少しはにかんで言葉を返した。

「私も、スザクが好きよ?」

スザクは彼女の言葉に嬉しくなった。けれども…………彼が欲しいのは、そんな気持ちじゃない。
リリィの言う"好き"と、スザクの言う"好き"は別物。身近な人がリリィに好きといえば、きっと彼女は全ての人に好きという言葉を返すだろう。彼女にとっては、スザクもそんな中の一人。リリィにとっての好きという言葉は、決して、特別な意味じゃない。スザクはリリィから、特別な意味の好きが欲しい。彼女を、愛しているから。強引に手に入れる『愛してる』じゃなくて、自然と手に入れる『愛してる』がいい………。

(だから、リリィが僕を好きになってくれますように。)

そんなふうに願って、スザクはもう一度、リリィをきつく抱きしめた。彼の抱擁に、リリィがドキドキと胸を高鳴らせていることを知らずに………。

(なんでだろう。私、スザクに抱きしめてもらっただけでドキドキする。昔、ルル様が同じことをしてくれた。でも、あの時とは違った気持ち。ルル様がしてくれた時は、安心するだけだった。でも、今は………ドキドキして、苦しい。)

ぎゅっとリリィは目をつぶり、そのあとスザクの胸を押し返して体を離す。え………?とスザクは驚いた顔をしたが、彼女はスザクの顔を見ないで言う。「少し疲れたから、先に部屋に戻ってる。」と、それだけ言うと部屋から飛び出した。リリィ!!!という、彼の声を無視して外へと走る。ドレスがまとわりついて、邪魔だった。
しばらく走り、朱禁城が見渡せる場所まで来ると、リリィは胸を手で押さえる。抱きしめられた時の恥ずかしさと、どこからくるのか分からない苦しさ。こんな複雑な気持ち、うまく処理ができない。どうすればいいのかが分からなかった。
リリィは瞳を揺らしてライトアップされた朱禁城を見る。宴はまだ、続いていた。

「なんか………気持ちがぐるぐるする。」

ゼロのこと。スザクのこと。そして、天子のこと。本当にみんな、あんな結婚を心の底から祝福できるのか?それが不思議でならなかった。

「私は……………心から、お祝いできない。」

そう彼女が呟いたとき、背後から人の気配がして声が上がる。

「誰かいるのか?」

ピンクと体を反応させ、リリィはゆっくり振り向く。黒髪の青年が、じっとリリィのことを見ていた。どこかで見たような気がすると思い、彼女は目を凝らして見る。暗闇に慣れた瞳は、すぐにその人物をとらえた。

「あなたは…………黎・星刻様。」

「――――――――リリィ・ルゥ・ブリタニア、さま?どうしてあなたのような方がここに…………?」

驚きを隠せないような表情をする星刻。リリィは星刻に近づき、長身の彼を見上げた。パーティーはあまり好きではないので………そう答え、瞳を細める。そういえば、星刻はどう思っているのだろうかと、リリィは考えた。彼にとって天子とは、どのような存在なのか。星刻はこの結婚に………賛成なのだろうか?
リリィは瞳を伏せ、「あの………」と言葉を紡ぐ。その時、星刻の声がリリィの声とかぶった。

「…………大変失礼かとは思いますが、リリィ様にどうしても聞きたいことがあります。リリィ様は今回の婚儀について、どう思われますか?私はブリタニアとか中華連邦という国の事情なしに、あなたの本当に思っていることが聞きたい。」
「えっ…………?」

伏せた瞳を上げると、そこにはまっすぐした目を持つ星刻がいた。じっと彼女の姿をとらえたまま、決して揺らがない。しばらくその瞳に見つめられ、リリィは何もいえなかったが、ふいに口を開いた。本当に、思っていることが聞きたいと彼は言った。だから……………

「私は………こんなの祝福できないと思ってます。だって天子様はまだ子供でしょう?昔、私の祖母が言っていたんです。
子供には、子供であるべき時間が必要なんだって。ブリタニアはそんな天子様の時間を奪い去ろうとしている。そんな権利、どこにもないはずなのに。私は天子様に、子供であるべき時間を過ごしてもらいたい………。」

そこまで言って、リリィはハッとする。目の前の相手が、優しい表情を浮かべていることに気付いたから。どうして?と彼女は思う。首をかしげると、星刻は静かに言った。

「感謝、します。あなたの言葉を聞いて、私の心は決まりました。ずっと悩んでいた。天子様をお守りするか、それとも平和ための道を行くか。そして答えは今……… ―――――――――――――――――――出た。」

そのままくるりとリリィに背中を向ける。答えは出た?一体何の?彼の言葉の意味が分からず、リリィは不思議に思う。けれども星刻が何か無茶をしそうで、彼女は向けられた背中に小さく尋ねた。

「星刻様、あなたは何をなさるおつもりなの?」
「………………失礼します。あなたと話せてよかった。」

星刻は答えなかった。ただ長い黒髪を揺らしてゆっくりと去っていく。「あ………」とリリィは声を上げるが、追うことはしなかった。いや、追えなかったのだ。星刻の背中に何かの覚悟が見えたから。介入してはいけないと、そんな気がして、リリィは去っていく背中が見えなくなるまで見ていた。


***


彼の出した答えが、その次の日に事件となって現れる。
婚姻の儀、神聖な場所で、一つの叫びが上がった。リリィはその人物の姿を見て息を呑む。それが彼の答えだったのかと思ったから。隣でライがクスっと笑ったので、彼女は彼を見た。

「ごめん。別におかしくて笑ったわけじゃないよ?ただね、やっぱり子供には子供であるべき時間が必要なんだなってあらためて思っただけ。できることなら僕も、この婚儀に異議を唱えたい。」

ニヤリとライは笑う。そのときにはもう、星刻は走り出していて、剣を抜いていた。すぐに教会にいた人々が悲鳴を上げて立ち去り、中華連邦の兵士たちが武器を構える。槍の先が星刻を狙う。しかし星刻はその槍の先を交わし、兵士を切り倒した。

「血迷ったか星刻!!!!」

大宦官たちの叫びが聞こえるが、星刻はそれに向かって吼える。混乱する式会場で、リリィは手を組み瞳を閉じた。願うのはただ一つ。天子様が本当に幸せになれますように。それだけ…………。

「まずいな。星刻さんが少し押されてるみたいだ。僕としては少し助けてあげたいんだけど、リリィ、いいかな?」

突然のライの発言に、目を閉じていたリリィは驚きのあまり「え!?」と小さな叫びを上げて目を開けた。

「どうやって助けるっていうのよ!?私たちはブリタニア側よ?星刻様に手を貸したら、いくらエンジェルズ・オブ・ロードでも許してはもらえないわ!!!私だって星刻様を助けたい気持ちはいっぱいだけど…………。」
「だから、バレないようにするんだよ。例えば、こうやってね。」

彼は一度ウィンクする。ばれないように………?その意味がリリィにはすぐに分かり、彼女はライの名前を呼んだ。しかしもう手遅れ。ライは瞳にギアスのマークを浮かべると、近くにいる中華連邦の兵士にそっと囁く。

「ライ・ルシフェルの名において命ずる。ねえ、星刻さんを助けてあげてよ。」

囁かれた兵士は力強く頷き、星刻に攻撃を加える味方を倒していった。星刻は一瞬眉をひそめたが、ここは気を抜けば命の補償はない状況。 すぐ険しい顔に戻る。
一方、ギアスを使ったライは、その反動で頭を押さえて唇をかみ締め、少しふらつく。リリィがライを支え、厳しい表情を浮かべた。

「ライ!!!あなた、むやみにギアスは使わないようにしてるって言わなかった!?どうして使ったのよ!?ギアスを使えば記憶が消えること、一番分かっているのはあなたでしょ!?」

「だって僕は………星刻さんに負けてほしくないんだ。彼には天子様の未来がかかってる。彼はきっと、天子様を鳥かごから出す鍵なんだよ。ギアスは人のために使いたい。それが今なんだって、僕は思った。大丈夫。たいした許容量じゃないから、そこまで記憶は消えないはずだ………。」

そう言って、ライはすぐに自分の足で立った。瞳を星刻に向けると、形成逆転しており、星刻が中華連邦の兵士達を追いつめている。ニヤリとライは笑った。

(よし、そのまま行け、黎・星刻っ!!!)

ライがそう思い、天子が星刻に向かって叫ぶ。彼女は星刻との約束を忘れてはいない。幼い日にした遠い約束。永続調和の契り………。
天子の叫びに星刻は一気に走り出す。あと少しで彼が天子にたどり着こうとした時、ばさりと上からブリタニアの国旗が降ってきて、一瞬天子の姿が見えなくなる。すぐに星刻は止まった。リリィとライも異変に気付き、厳しい表情をする。

「感謝する星刻。君のおかげで、私も動きやすくなった。」

それはゼロだった。この場にいることを許されなかったゼロ。

「ゼロ、どういうつもりだ………?」

静かな怒りを灯らせ、星刻は黒き王に尋ねた。天子に数歩近づく彼をみて、ゼロは鋭く叫び声をあげ、無機物を天子のこめかみにぴったりとくっつけた。見ていた人々みんなが驚きの声を上げる。黒光りするそれは、銃だった。星刻は冷静にゼロへと問いかける。

「黒の騎士団にはエリア11での貸しがあったはずだ。」

「だから君たちが望んだようにこの婚礼を壊してやる。ただし、花嫁はこの私が貰い受ける!!!」

その言葉に、星刻は瞳を揺らした。ゼロはそんな彼の姿をみて笑い声を上げるばかり。リリィはその光景を鋭い目つきで見ていた。ナナリーが提案した行政特区・日本に参加すると言ったゼロ。百万人を守ってみせると約束したゼロ。その仮面の下で、何を考えているのか…………。同じ人間。痛みも悲しみも喜びも感じることのできる、同じ…………。ねえゼロ、私たちは―――――――――――――――――――

どうしてこうしなければならないの?こうしなければ、あなたとは分かり合えないの?



信念は人を強くする。疑いは活力を麻痺させる。信念は力である。
(フレデリック・ロバートソン)



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