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来年もまた



「小狐丸、少し散歩をしませんか?」と、珍しくぬし様が私を誘った。
厳しい冬が終わりかけ、まだ少しだけ雪が残る時期のこと。ふいに訪れた小春日和に、鳥たちの賑やかな声が聞こえる。
今日は戦も内番もない、穏やかな日。同じく時間の空いているあに様は、のんきに縁側で抹茶をすすり、茶菓子を食べていた。私もあに様の茶飲みに誘われたが、そこにちょうど現れたぬし様。今日は調子がよさそうに見えた。
私はあに様の誘いを断り、ぬし様と散歩へ出かける。それが今の状況・・・。

「ほら、小狐丸!もうすぐ桜が咲きそうですよ!」

小さいぬし様は、めいいっぱい背伸びをして桜のつぼみを見ようとしている。その姿が小動物のようで、なんともかわいらしい・・・。私の口元が思わず緩んでしまう。小さいものは好きだ。ぬし様は、野に咲く小さく可憐な花のようである・・・といつも思う。

「ぬし様、そんなに桜のつぼみが見たいのなら、この小狐が肩車でもして差し上げましょうか?」
「それは・・・ちょっと幼子のようで恥ずかしいです。遠慮しておきます・・・」
「おや、そうですか。それは残念。でしたら・・・」

私はひょいっと、ぬし様を横抱きにする。世間で言われている、お姫様抱っこというやつである。
ぬし様の顔がすぐに真っ赤にそまり、「小狐丸!恥ずかしい!おろして!」なんて言葉を紡ぐ。それでも私は、ぬし様をおろさなかった。

「そうおっしゃらずに・・・。ほらぬし様。この小狐、ぬし様より大きいゆえ、桜のつぼみが間近に見えますぞ。」

そんなふうにうまい具合に丸め込めば、ぬし様は桜のつぼみを覗き込み、「うわぁ・・・」と声を上げた。
桜のつぼみを食い入るように見つめるぬし様の顔を見つめながら、私の心に少しだけ影が落ちる。ぬし様を抱えた瞬間思った。

(ぬし様は・・・少しお痩せになられた・・・。)

以前はもう少し、ふくよかであった。女性(にょしょう)特有の柔らかさがあり、本能を押さえ込むことに苦労した。近侍になってからというもの、早くこの人間の女性を我が物にしてしまいたいと思っていた。その気持ちは今でも変わらない。しかし、ぬし様を抱き上げたときの軽さが私に現実をつきつける・・・。

「ぬし様、今日はもう・・・・」
「小狐丸、今日は久しぶりに調子がいいの。もう少しあなたと、こうしていたい・・・。」

先ほどまで恥ずかしがっていたぬし様が、ぎゅっと私の首に腕をまわしてくる。この甘え方は幼子のようだと笑いがこみ上げそうになったが、私はそれをぐっとこらえ、ぬし様の頬に自分の頬をすり寄せる。

美和はきっと、沖田君と同じ病気だよ・・・。』

大和守安定殿が言っていた言葉を思い出す。日に日に弱っていくぬし様の体。病が確実に、体を蝕んでいっている。

「ぬし様、来年もこの小狐と一緒に、桜のつぼみを見に来ましょう。来年もまたこうして、あなたを優しくお姫様抱っこして差し上げます。」
「そう・・・ですね。来年もまた、一緒につぼみを見に来ましょう。」

ぬし様と二人で微笑み合う。
ふと思い出した、安定殿の言葉が私の頭から離れない。それでも私は、信じていたかった。
来年もまた、美和殿と一緒に・・・・・。




来年もまた




美和は、来年を迎えられないかもしれない・・・」
安定殿の言葉が、私の心を蝕んでいる。



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