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2016.07.10  #40 <<00:47



ライは、アヴァロンから地上の中華連邦の建物を見て苦笑する。エンジェルズ・オブ・ロードとナイト・オブ・ラウンズに下った命令は待機命令だった。「そりゃそうか………」と小さく呟いてみる。
もともとここはブリタニア帝国の領地ではない。そして同盟の架け橋を担っていた天子も、今はゼロに連れさられ行方知れず。中華連邦が要請してくるまで動くことができないのは当たり前だった。
「ふぅ」と、リリィもガラスに手をあててため息をつく。ライが視線をうつすと、彼女も苦笑ぎみの表情を浮かべた。「まさかこんなことが起こるなんてね………。」そう、ぽつりと言った。

「まぁ………ゼロが姿を現した瞬間から、何かが起こる気はしていたんだけど。」

ライはそう言葉を返して、再び外を見る。どこまでも続く空の色。きれいなブルーだった。リリィも空を見る。この遠くにきっとゼロがいると思うと、少し胸がざわついた。
彼女が「分かり合えると信じてる」とゼロに伝えた時、彼はいつもと違うやわらかさで「ありがとう」と言葉を返してくれた。本当は………優しい人なのかもしれない。

紅蓮弐式のデヴァイサーである少女が、以前ゼロは立派な指導者であり、日本人の希望だと言った。それは本当なのかもしれないと、今更ながらにリリィは思う。でも…………やっていることは戦争だ。
日本人のためと言っておきながら、彼らは人殺しをおこなう。ブリタニア人を殺し、そしてブリタニア人は日本人を殺す。それは永久に続く連鎖。その連鎖を、どこで断ち切ればよいのだろう………。
2人で外を見ていると、カシャンというカメラ音が響く。音に反応して振り返ると、アーニャが2人の写真を撮っていた。

「アーニャ?」

ライが少女の名を呼ぶと、アーニャは携帯から顔を上げる。「記憶………」とだけ呟くと、瞳はまた、携帯へと落ちた。ライとリリィは顔を見合わせてクスッと笑う。彼はそのままアーニャに近づいて、腰をかがめて彼女に尋ねる。

「そんなの記憶してどうするの?ただリリィと2人で外を見てただけだよ?」

ピッピとボタンを押す彼女の手が止まった。画面から目を離さず、アーニャは静かに答える。

「でも………2人とも、何か悲しそうな顔をしてた。」

ライは一瞬ドキリとしたあと、やっぱりアーニャは鋭いなと思った。そのまま自分の手でわしゃわしゃと彼女の頭を撫でて言う。「大丈夫だよ」と。そう言うと、アーニャはじっとライを見て、ぴったりくっついた。
リリィは2人の光景を見てから、にっこりと微笑んだ。2人が兄妹に見えたから。擦り寄ってきたアーニャの頭をぽんぽんと叩くライ。その瞳は、いつになくやわらかかった。

「あ、そうだリリィ。この前モルガン様に連絡したんだけどね、その時ユーサー様にも会ったよ。モルガン様の話じゃ、僕たちがあんまり帰らないから、ユーサー様が寂しがってるんだって。ユーサー様も、今度3人でこっちに帰っておいでって言ってたよ。」
「え?おじい様が………?」

リリィがライに尋ね返す。彼はコクンと一回頷いた。彼女は自分の祖父の笑顔を思い浮かべ、「子供みたいね………」と呟く。
優しい祖父と威厳の座った祖母。リリィの大好きな家族………。彼女は今度、時間ができたらエリア7に少し顔を見せに行きたいと思った。もちろん、ライやロロと一緒に。3人が揃う時間なんて、できるか分からないのだが………。
そう考えていると、ふと、アーニャがライから離れていく。「どこに行くの?」と尋ねれば、「休憩室に――――――――」 とだけ答え、去って行った。そんなアーニャを見て、ライが言う。

「時々思うんだ。アーニャってネコみたいだよね。」

その言葉に、リリィは笑って同意した。

「言われてみれば確かに………。」



ライたちの元を去ったアーニャが休憩室に足を踏み入れると、誰かの気配を感じた。ソファに座り、疲れた顔をして俯く人物が視界に入る。

ミレイ・アッシュフォード。

確かロイドの婚約者だったはず………そう考え、彼女は携帯のボタンを押した。カシャンというカメラ音と共に、ミレイが顔を上げ、驚いた声を上げる。

「アールストレイム卿?」

アーニャは何も答えず、じっとミレイを見ていた。



待機命令はまだ解除されていない。スザクは今すぐにでもゼロを追いかけたかった。しかしここはブリタニアじゃない。中華連邦………自分の国じゃない。ふと、そう思って彼は一人苦笑した。

自分の国だって………?

確かに今、スザクはブリタニアに仕えるナイト・オブ・セブンで、名誉ブリタニア人。だけど、日本人の特徴である黄色の肌と地味な髪の色は変わらない。
たとえブリタニア人であるとしても、日本人の証であるものは消えないのだ。そんな自分がブリタニアを自分の国と思う日が来るなんて………。そこまで考えてから、今度はリリィのことを思う。
彼女はシュナイゼルが言うように綺麗だ。雪のように白い肌も、燃え上がるような赤い髪も、赤い瞳も、そして彼女の心も美しくて――――――――。穢れを知らない。リリィにそう言ったらきっと、「そんなことない」と言うはずだ。悲しい目をして、「私は日本を潰した。」と言うだろう。だけどその過ちに気付き、人の痛みを分かろうとしている。それがとても綺麗。
スザクは休憩室のドアノブに手をかける。中から楽しそうな声がしていた。

(誰かいるのかな…………?)

真っ先に、リリィがいればいいなと、少し期待しながらドアをあける。すぐに声がやんで、2人の視線がスザクへとうつった。

「スザク君!」

そこにいたのは、スザクの望んだ彼女ではなかった。しかし明るい声を上げて彼の名前を呼ぶミレイに、スザクは笑った。

「ミレイさん、アッシュフォードのほうにはもう、連絡しましたから。ラウンズとエンジェルズ・オブ・ロードはこのまま待機命令です。」
「そうなんだ。ありがとう、スザク君。あ、ねぇねぇ!!!スザク君は見たことある?アールストレイム卿の写真、すごいのよぉ~!!」

楽しそうに話すミレイの横で、アーニャが画像フォルダを開き、彼に携帯を差し出した。

「あ、いいの?」

そう問えば、コクンと1回だけ頷くアーニャ。スザクは画面に瞳を落とし、ボタンを押していく。画面にはさまざまな画像が映し出される。
アーニャが参加したパーティーの料理の写真、ジノがふざけた時の写真、それから居眠りをするライの写真まで。心なしか、ライの写真が多いように思えた。
彼の写真のあとは、この前アッシュフォードで開かれた、スザク復学パーティーの写真だった。主賓のスザクの写真もあり、「僕、この時こんな表情だったんだ………」と彼は呟く。ジノがアイスにかぶりついている写真、アーサーがあくびをしている写真が流れていく。その次の写真で、スザクはあきれ顔となった。
映っているのはルルーシュと、アッシュフォードの女子生徒。誰なのかわからない。けど、2人は親しげに話をしているようだった。

「あ、ルルーシュ。何やってるんだよ。シャーリーがいるのに………。」

そんなスザクの呟きに、ミレイもひょいっと画面を覗きこんで呆れる。

「ホントにねぇ~。困ったルルーシュ。」

アーニャは2人の会話を聞いて、ルルーシュという名前に小さく疑問の声を上げた。
そんな様子のアーニャには気付かずに、スザクはボタンを押した。次の写真が表示される。写真が表示された時、スザクは目を見開いた。アッシュフォードに掲げられたブリタニア国旗を見上げるリリィの写真だったから。写真の中の彼女はひどく悲しそうな顔をしていた。スザクはその写真をじっと見つめたあと、携帯をアーニャに返す。

「もう、いいの?スザク。」
「うん。ありがとう、アーニャ。」

礼を述べると、アーニャはソファから立ち上がり、携帯を握り締め部屋から出て行った。ポツンと、スザクとミレイの2人が残される。しばらくシンとした時間が流れたあと、ミレイの優しい声が響く。

「スザク君、もしかしてスザク君は、リリィ様のことが好きなの?」
「へっ!?いや……あの………何でいきなりそんなことを…………」

焦ってミレイの顔を見る彼に、にっこりと笑顔を見せたあと、にんまりと怪しい表情を見せる。

「そんなに焦るってことは、やっぱりそうなのかなぁ~?……なーんてね。さっきスザク君、最後に表示されてたリリィ様の写真を真剣に見つめてた。それに、昨日のパーティーの時だって、リリィ様を守るナイトみたいに見えたから………。」

そうなのかなぁと思って………と、ミレイは空を仰いだ。スザクは正面を向いて「プッ……」と笑う。そのあと、観念したように言葉を発した。

「ミレイさんにはホントに敵いませんね。はい、僕は………リリィが好きです。リリィはからっぽの僕に色をくれた人なんです。世界はたくさんの色に溢れていたと気付いた時、僕は同時に気付いたんです。リリィのことが好きになった僕自身に………。」

そこまで言ってから、正面に向けられていた翡翠の瞳が下に伏せられる。続けてスザクは言った。

「でも僕は、たまに不安になるんです。もし僕が気持ちを伝えた時、リリィがさっきの写真みたいに悲しそうな顔をしたら………って。リリィには昔から好きな人がいて………。でもその人はもう死んでる。けどリリィは、その人のことを今でも好きなんだと思うんです。彼女とその人の間には、僕なんかが入り込めないくらい、たくさんの思い出があって――――――――。」

そう。リリィとルルーシュの間には、僕が知らない出来事がたくさんある。
リリィとルルーシュだけの思い出。
ルルーシュの中にはリリィなんて存在しなくて、リリィの中には幼いルルーシュの存在だけが残っている。
もしもルルーシュが、リリィのことを思い出したら?
もしもリリィが、アッシュフォードでルルーシュと出会ったあの日のことを思い出したら……?
そこまで考えて、スザクは顔を歪ませた。と、その時、バン!!!といきなりスザクは背中を叩かれた。ジンとする痛みに耐えながら、横に座ったミレイを見た。彼女は怒った顔をしている。キョトンとするスザクに、ミレイは強く怒鳴った。

「枢木スザクっ!何弱気になってるのよ!あなた、あの人のことが好きなんでしょ?それだったら、あの人に気持ちを伝えなさいよ!振られても悲しい顔されてもいいじゃない!もしそんな顔されたら、これから好きになってもらえるように頑張るの。スザク君、ちょっとはシャーリーを見習いなさいっ!リリィ様の好きだった相手に負けちゃだめよ!好きなら奪っちゃえ〜!」

そうしてまた、激しく背中を叩かれる。そんなミレイにスザクは苦笑した。

(そうだ。僕のリリィに対する気持ちは変わらない。たとえ君がまだ、ルルーシュのことが好きでも………。僕はルルーシュを超えてみせる。)

スザクは小さく頷いてから、ミレイに笑顔を向けて言った。

「ありがとうございます、ミレイさん。」

そんな彼の表情を目にしてから、ミレイはそっと、小さく呟いた。

「大丈夫。リリィ様はきっと、スザク君のことが好きな自分自身に気付き始めてるはずよ。」

その言葉は、ソファを立ち上がったスザクには届かなかった。ミレイは知っているのだ。昨日のパーティー会場で、スザクのことを目で追っていたリリィに。スザクと話していて、少し顔を赤らめるリリィに………。

「ガッツだぞ、少年。」

パタンと閉まったドアに向かって、ミレイはそっと囁いた。



「これも、ルルーシュ………。」

薄暗い部屋で、アーニャの小さな呟きが響く。携帯の画面には、ルルーシュがまだ皇子と呼ばれていた頃の写真が表示されている。幼い頃のルルーシュを瞳に映し、アーニャはその名前をもう一度紡いだ。

「ルルーシュ………ヴィ……ブリタニア。」

自分にあてがわれた部屋のベッドの上で、ごろんと寝返りをうつ。そのあとに、もう1度ボタンを押した。今度はルルーシュと、彼の頭に花冠を乗せるリリィの写真が出てきた。

「ルルーシュと、リリィ…………。」

アーニャは2人の名前を口にして、目を閉じる。時間が流れ、再び彼女が目を開いた時、それはアーニャと違う目をしていた。

「私の子、ルルーシュ。そしてクラエスの子、リリィ。 2人は――――――――世界を動かす。」

その言葉は不気味なほど部屋に響き渡った。



愛してその人をえることは最上である。愛してその人を失うことは、その次によい。
(ウィリアム・メークピース・サッカリ)

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