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2016.07.10  #41 <<01:02



運河の決壊。けれどもその作戦を読み、水量を減らしていたゼロ。ゼロの勝ちだと思った。でも星刻はさらにその先を考え、うまく地形を使った。結果、黒の騎士団のナイトメアたちは身動きがとれなくなり、主力部隊は撤退。そう連絡が来たのは、太陽が傾く頃。リリィは膝を抱えてイスに座ったまま、チェスの駒を動かした。

(こっちが星刻様率いる中華連邦、その反対にいるのがゼロ率いる黒の騎士団。)

彼女は黒のキングを手にとって、後ろへと下がらせる。コトンと盤上にキングを置いたあと、じっとその駒を見つめた。頭の中に仮面をつけたゼロの姿が浮かんでくる。瞳を滑らせ、今度は白のキングへと視線を向けた。同じように、星刻の顔が浮かんでくる。2人は今、戦っている。ぐいっと白のキングを前へ押し出した。そこへ、盤上に影が落ちる。リリィは気になって盤上から顔を上げた。

「スザク………?」

いつものように優しい顔をしたスザクが、リリィの隣に立っていた。彼はリリィのそばにあるイスを指差して尋ねる。

「ここ、座ってもいい?」

こくんとすぐに彼女は頷く。マントをはずした状態のスザクがふわりとイスに座った。そしてガラスの机の上に置かれたチェスを見て、小さくはにかんだ。

「ごめん。僕チェスのルールはさっぱりだから、リリィの相手はできないや。」
「え………?あ、ううん。いいの。これは一人でやってるわけじゃないから。ただ、中華連邦と黒の騎士団の戦況をチェスで表現してみただけで ――――――――。」

ガタガタとリリィはすばやくチェスを元通りの並べ方になおそうとする。リリィが白の駒へと手を伸ばしたとき、スザクは彼女の手をぎゅっと掴んだ。驚いてリリィが瞳をスザクへと移すと、彼は先ほどとは全く違う表情をしていた。

「ス………スザク?」

いつもと感じの違うスザクに戸惑いつつ声をかけるリリィ。彼はリリィの手を掴んだまま、小さく言った。

「あの、リリィ。ルルーシュはチェスが上手だったんだよね。その………僕にもチェス、教えてくれないかな?僕、ルルーシュみたいにリリィとチェスができるようになりたいんだ。」

彼を――――――――ルルーシュを超えるために。

真剣な表情でそう言うスザク。しばらく沈黙の時間が流れたけれど、リリィは突然「ぷっ……」と吹き出した。「何で笑うの!?」と声を上げるスザクに、リリィはにっこり笑って答えた。

「そんなふうに真剣な顔しなくてもいいのに。ええ、喜んで教えるわ。」

その言葉から、リリィのチェス指導が始まった。しかし事は思うように進まない。スザクは眉をひそめながら駒の動かし方を覚えていく。日本の将棋と似ていると思ったけれど、やはり違う。チェスのほうが複雑に思えた。
スザクが駒の動かし方を間違えるたび、リリィの柔らかな声が上がる。そうしてしばらく、スザクとリリィはチェスに夢中になった。ようやくスザクが駒の動かし方を一通り覚えたあと、クスクスとリリィが笑う。

「なんで笑うの?リリィ。」

手に持った白い駒を盤上において、スザクがキョトンとした目で彼女に尋ねる。「だって……」とお腹を押さえてたくさん笑ったあと、リリィが笑いの余韻を残しながらスザクに言った。

「まるで昔の自分を見てるみたいで、すごく可笑しかったの。」
「昔のリリィ………?」
「うん。私、チェスはシュナイゼルお兄様に教えてもらったんだけどね、ほんっとにダメで………。今のスザクみたいに必死に駒の動かし方を覚えようとするんだけど、すぐに忘れちゃって。シュナイゼルお兄様から、『リリィはチェスに向いてないね』なんて言われたこともあったのよ。でもそれがすごく悔しかったから、いつかお兄様に勝ってやろうと思って、一生懸命チェスの駒を動かしてたの。」

懐かしいなーと呟きながら、リリィはナイトの駒を手に取った。その駒を見つめるリリィの横顔がすごく綺麗だったから、スザクの心臓は早くなる。
リリィが好きだと意識すると、彼女の瞳や唇がやけに強く目に焼きつく。ルビーのような真っ赤な瞳がスザクのほうへと滑ったとき、スザクの心臓は今までとは異なるほど大きく音を立てて脈打った。

「ね、スザク。私とチェスができるようになりたいって言ってくれたとき、すごく嬉しかった。チェスの相手をしてくれるのなんて、ライかシュナイゼルお兄様ぐらいしかいなかったから。今度からスザクと一緒にチェスができるのね!」
「今度からじゃないよ。今からやろうよリリィ。僕、頑張って駒の動かし方覚えたから、忘れないうちに一回やってみたいんだ。」

リリィの言葉に嬉しくなったスザクは、駒が綺麗に並ぶチェス盤を指差した。すぐに彼女も賛成する。二人は向かい合って座り、スザクが最初に白の駒を動かした。リリィもしばらく考えたあと、黒の駒を動かした。お互い駒を動かし、リリィがじっくり考える。穏やかな時間が流れた。そして再び、リリィの手が黒の駒にかかる。そんな時だった。

「うわっ、スザクがリリィとチェスしてる!」

ひときわ明るい声が上がった。その声に重なり、カシャンというカメラ音も混じる。
リリィとの穏やかな時を邪魔されたスザクは、あからさまに嫌な顔をしてその人物たちを見た。

「僕がチェスやってて悪い?」
「なんだよー。リリィとのチェスを邪魔されたからって、そう嫌な顔すんなって。だいたいスザクはチェスをやるなんてガラじゃねーって。スザクは……なんだっけ?ほら、チェスに似た日本のしぶーいゲーム………」
「将棋?」

顔を背けてスザクが助け舟を出すと、ジノはスザクの肩に手を回して嬉しそうに叫んだ。

「そうそれ!ショウギとかいうゲームのほうが向いてるって!」
「はいはい。」

それだけ言うと、彼はそのままそっぽを向いてしまった。またカシャンというカメラ音が室内に響く。「アーニャ!」というスザクのたしなめる声も。アーニャはその声を無視して、膨れたスザクの顔を携帯に保存した。その光景を、後ろのほうで苦笑しながら見ているライ。彼はリリィたちまで近づくと、チェス盤を見てさらに苦笑し、彼女に話しかける。

「………これは……酷いな。リリィ、スザクは初心者なんだから、少しは手加減してやればいいのに。」
「あら?当時チェス初心者だった私に、一切手加減しなかった人に言われたくないセリフね。」

にっこりと笑ってリリィが言うので、ライは昔のことを思い出して「ごめん」と謝る。確かに昔、チェス初心者だったリリィに手加減なしでゲームをしたことがあった。結果はリリィの惨敗。ライの圧勝。そのとき、リリィに泣かれてライは困ったことがあったのだ。「もう口なんてきかない。」とさえ言われたことがある。

「あの時は僕も子供だったんだよ………。」
「ええ、嫌な子供だったわ。」
リリィ~…………。」

きっぱりと答えたリリィに、ライはがっくりと肩を落とした。それを見て彼女は少し笑うと、「冗談よ。」と言う。そのまま視線を下に落としてライに尋ねた。

「それでライ。用事があったんじゃなかったの?ジノとアーニャちゃんも一緒だし………。」

彼女の赤い瞳が下から上がり、ライを見た。リリィにそう言われ、彼の苦笑気味の顔がすぐに引き締まる。ライは持っていたコーヒー入りの紙コップを白のチェス駒の後ろにコトンと置いた。
紙コップにはブリタニアの紋章が刻み込まれている。黒の駒は黒の騎士団。白の駒は星刻率いる反乱軍。そうだとすると、白の駒の後ろにブリタニアがつく意味。つまり…………。リリィは目を大きく開き、そのあとすぐに瞳を伏せた。頭のいい彼女は、ライの行動で全てを理解したのだ。

「ねぇ、ライ。それはつまり、中華連邦は反逆を犯した星刻様をゼロごと討つってことなの?」
「………さあ?分からない。だって僕たちは、協力要請を受けただけだから。」

彼がそう述べて、置いた紙コップを再び手に取る。中に入っているコーヒーが、大きく波打った。

***

「愚かな!この中華連邦で、他国の……ブリタニアに支援を頼むとは!しかもあの艦はアヴァロン。分かっているのか大宦官っ!相手はあの、第二皇子シュナイゼルだぞ!?」
「大宦官は私達だけでなく、星刻までもここで抹殺するつもりだな。」

C.C.が前を向いたまま呟く。ゼロであるルルーシュは優雅に言った。

「ディートハルト、仕掛けの準備を。」

もちろんディートハルトは驚きの声をあげるが、ルルーシュは動じない。ルルーシュが思うことはただ一つ。

(勝ってみせる!この絶望的な状況からでもっ!俺はこのまま、負けるわけにはいかないんだ。分かり合えると言った、リリィの手を取るためにっ!)

ぐっ………と、ルルーシュは仮面の中で唇をかんだ。
そう、負けるわけにはいかない………。絶対に――――――――。



不可能だと思わない限り、人間は決して敗北しない。
(デール・カーネギー)

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