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アネモネで終わらせるつもりはない

花壇に花を植え直した際、私の手を傷つけたのはアネモネという花だった。
夜になり、自室へと帰ってきた私は、支給された携帯からアネモネという花を調べていた。

「本当だ。根に毒があるって書いてある・・・」

横になったままの体勢で寝返りをうつと、ギシッとベッドが音を立てる。そういえば、さっきハル君にメッセージを送ったが、すぐに返事が返ってきたっけ。珍しく、早い返信だった。
インターネットを一度閉じ、メッセージを開いてみる。内容は、私の手を心配するものだった。この文章を彼がどんな顔をして作成したのか想像ができる。

「おおげさだなぁ。ハルくんは・・・」

苦笑まじりに返信すると、再びすぐ携帯が鳴る。最後に「会いたい。面会の申請しといて」という文面が目に飛び込んでくる。私は少し驚いた。彼とこうして交流を持ち始めて少ししか経ってないが、彼は何かしらの変化を見せている。

(面接の申請・・・しておこう)

心の中で私はそう思った。ハル君に会えることを楽しみにしている自分がいるのも事実だった。

* * *

翌日。面会室に来ると、彼はすでにそこにいた。深く吸い込まれそうな青い瞳が私をとらえた瞬間、少しだけ揺れる。

「こんにちわ、ハル君。」
「・・・こんにちわ。」

短い挨拶を交わし、私が座るとハル君の視線が手に注がれる。

「昨日、手を怪我したんだよね。大丈夫?」

優しい声色に、私は心が温かくなる。ハル君は優しい人間だ。短時間しか交流していないが、私にはそれが分かっている。

「うん、大丈夫だよ。すぐに手当してもらったし。もう、今では傷も薄くなっちゃってる。痛みもかゆみもないよ。」

にっこり微笑むと、ハル君の安堵した顔。フードをかぶっていてあまりよくは見えないけれど・・・。静まり返った室内で、ハル君がガラスに片手を当てる。

「手を怪我したって聞いて、心配した。本当は君の手を取って、大丈夫か確認したいくらい。でも、僕はこのガラスに阻まれて君のそばに行けやしない。こんなに近くに君がいるのに、君の手を触ることさえも叶わない・・・」

苦しくゆがめられた顔を見ていると、ギュっと胸が締まった。私はハル君の手に自分の手を当てて言葉を紡ぐ。

「ハル君、そんな顔しないで。私も、ハル君を心配させないようにあなたの手を握りたいよ。でも、私だって阻まれてる。記憶を取り戻せばきっと、ハル君はここから出られると思う。もし、ハル君がここを出られたら・・・」
美和さん・・・。ねえ、もっと近くに来て。顔をよく見せて。」

ハル君が身を乗り出す。言われるままに私はガラスに顔を近づけた。ハル君はガラスにこつんとおでこをくっつける。私も同じようにガラスにおでこをくっつけた。

「・・・ねえ、アネモネの花言葉、知ってる?」

突然そう問われて、私は首を振った。本当は知ってる。アネモネの花言葉。ハル君は小さい声でささやく。

「はかない恋・・・・。君と俺は、そういう運命になるのかな?」

違うって言いたい。でも今は、このガラスに阻まれて、お互いに触れ合うこともできやしない。私はぎゅっと目をつむる。その瞬間、面会終了を告げる看守の言葉が響いた。

* * *

面会後、私は海の見える丘に立っていた。もうすぐ日が暮れる。
空が茜色になり、海も茜色に染まる。綺麗だった。この光景をハル君に見せたいと思い携帯のカメラを機動しようとした瞬間、彼からメッセージが届く。

『俺は、はかない恋で終わらせるつもりはないけどな』

短く綴られたその言葉を見て、私は携帯を抱きしめる。出会った時間は短くても、私たちの心は急速にお互いを欲している・・・。それは私もハル君も気づいている。いつか彼が、あの施設から出られることを信じて・・・。私は携帯のカメラを海に向け、夕方から夜へと変化する海を写真におさめた。




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