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25=10

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IC#77



ナナリーを探すジークフリードが、トウキョウ租界にぽっこり開いたクレーターに立つ1人の少年の見つけた。ジェレミアがその姿を拡大すると、白いデヴァイサースーツを着た枢木スザクであった。彼の瞳は後悔と罪の色をしていた。
ジェレミアがスザクのそばへと降り立ち、横に並ぶ。スザクはジェレミアの方を見なかった。

「・・・昔、私は君に助けられたことがあっただろう?その礼を伝えたかっただけだ。しかし・・・フフッ。奇妙な関係だな、私たちは。結局敵となる運命なのかもしれない。・・・ここで失礼する。私はナナリー様を探さねばなるまい。」

そう言ってジェレミアは立ち去った。彼の後ろ姿を横目で見たスザクが目を細めた。

(ナナリーは、もう・・・。)

ナナリーを助けてほしいと言ったルルーシュの姿が浮かんだ。リリィがナナリーと再会した時、彼女のことを大事そうに抱きしめる姿が浮かんだ。結局はこの手で殺してしまった。委ねられたフレイヤという兵器を、使ってしまった。自分にかけられたギアスが発動しなければ、こんなことにはならなかったはずだ。でも・・・本当に?
スザクがギリッと唇を噛み、拳を握る。その拳を、暖かい温もりが包みこむ。ふわりと訪れた優しい香りに、涙が出そうになった。

「ここにいたんだ、スザク。突然いなくなっちゃったから、どこに行ったかと不安になっちゃった。」

リリィがふんわり笑った。何も音のない、静かな時間が流れる。罪の意識に苛まれていた少年は、ふと懺悔のように少女へと語りかけた。

リリィ。僕にはルルーシュのギアスがかけられているんだ・・・。生きるギアス。そのギアスのせいで、僕は生き残ってしまった。数多を犠牲にしてまで・・・!最低だ。でも・・・本当は僕自身も少しだけ、生きることを望んでしまった。ランスロットの中で死を覚悟した瞬間、このまま永遠に、リリィと離れ離れにはなりたくない。まだ生きていたい・・・と、思ってしまったんだ。」

スザクの拳に、さらに力が入った。爪が手のひらに食い込んでしまいそうだった。
彼女はスザクを見ず、遠い空を見ながら呟いた。

「・・・スザク、私はあなたを失いたくはなかった。愛してるから・・・。だからあなたが生きてしまった理由が、ルル様の生きるギアスのおかげなら、私はルル様に感謝したい。もしかしたらルル様も、あなたを失いたくなかったのかもしれないわ。ねぇ、スザク。私あなたと婚約した時、言ったわ。生きなさい、枢木スザク・・・と。お願いだから、何が何でも生きて欲しいの。生きたその先に、あなたがどんな道を選んでも私はずっと、あなたのそばにいるから。どんな運命でも、私はあなたと一緒に超えてみせるわ。」

リリィの言葉にスザクが俯く。どうして君は、こんなにも僕が欲しかった言葉をくれるのか・・・。
スザクは硬く握っていた拳を解き、細く暖かい指に自分の指を絡めた。つながったのは手だけではないことを、リリィは実感した。


* * *



シュナイゼルが現れてから、黒の騎士団上層部との会談が始まった。会談というより、ネタ明かし・・・のようであった。隠されていた真実が日向に引きずり出されていく。ゼロの正体やこれまで隠されていた事実、そしてギアスのことを、シュナイゼルは具体的な証拠を提示しながら話していく。すべてはシュナイゼルの計画だった。黒の騎士団がルルーシュにとって駒ですぎないことに、彼らは怒りを覚え、そしてギアスという正体不明の力に怯えた。シュナイゼルもまた、被害者であるかのように演技する。黒の騎士団たちの態度を見て、シュナイゼルは内心ほくそ笑んでいた。
彼の話を聞き、扇が第二皇子へと向き直る。彼はルルーシュをブリタニアに引き渡す代わりに条件があると言った。

「取引できる状況だと思っているのか?」

コーネリアが厳しい口調で言うのを、横でシュナイゼルが制止した。「聞きましょう」と一言だけ扇に言葉を投げかけると、彼は答える。

「・・・日本を、返せ!」

その場の全員が息を飲んだ。扇は続けた。

「信じた仲間を裏切るんだ。せめて日本くらい取り返さないと、俺は自分を許せない!」

彼の鋭い視線がシュナイゼルに突き刺さる。今まさに、一つ目の計画が終了を迎えようとしている。自分の野望が叶うのなら、日本の一つくらい、彼らに返してやってもいいのでは?そう。ルルーシュへのチェックメイトはすぐそこに・・・。

話がまとまった頃、ルルーシュはカレンに呼ばれる。扇が4号倉庫に来てほしいと言っているのだと告げ、2人はエレベーターへと乗り込んだ。
カレンは彼の部屋でC.C.が記憶を失っていることを知った。ルルーシュにはもう、あの頃のC.C.がいない。そして、ナナリーもいない。彼の想い人であるリリィは、彼の敵のまま・・・。隣に立つルルーシュが、ひどく孤独に見えた。慰めようとカレンはナナリーの話をした。リリィの話も・・・。

「ルルーシュ。私、ナナリーと話したよ。リリィとも。2人とも私のことを助けてくれたの。」
「・・・そうか・・・。」

言葉はただそれだけだった。けれども彼の雰囲気が少しだけ柔らかくなったのを感じた。言葉を続けようとした時、強い光が2人を照らす。目の前にいたのは、銃を持ったメンバーたち。表情は硬く、彼らは口々に叫んだ。

「観念しろゼロ!」
「よくも我々をペテンにかけてくれたな!」
「君のギアスのことは分かっているんだ!」
「伝説の英雄ゼロは、心半ばにして戦死。しかしその生き様は永遠に語り継がれることでしょう。本当なら、あなたがブリタニアに勝利するところまで撮りたかったのですが、残念ながら番組は打ち切りです。」
「みんな信じていたのに!井上も吉田も、お前のために死んだんだ!」

この状況に頭をフル回転させているルルーシュの前に、カレンが彼を守るように立ちはだかる。

「待って!こんなの一方的すぎるわ!私たち、ゼロがいたからここまで来られたんじゃ・・・!」
「どけカレン!!!」
「まさかギアスにかかってるんじゃないんだろうな!?」

カレンの肩越しに、シュナイゼルとカノンの姿がちらりと見えた。その瞬間、ルルーシュは全てを悟った。そう。これは全て、シュナイゼルの計画。これがシュナイゼルのチェックメイト。

(そうか。これがあなたのチェックか。ならば、万が一の隙もないのでしょう・・・)

それならば、カレンを、みんなを開放してあげよう。もう、彼女たちがゼロに囚われることがないように・・・。
ルルーシュはニヤリと笑って答えた。

「ふはははは!バカめ!今頃気づいたのか?自分たちが利用されていることに。貴様らが、駒に過ぎないということに。」

仮面を取り、ルルーシュはカレンに向き直る。

「カレン、君はこの中で特別優秀な駒だった。そう、全ては盤上のこと。ゲームだったんだよ!」

彼女の絶望が、ルルーシュの瞳に焼きつく。彼女のために日本を取り返してあげることができなかったという申し訳ない気持ちがルルーシュを支配した。せめて君だけは、生きてほしい。生きてさえいれば、再び日本を取り返すチャンスが訪れるかもしれないのだから・・・。
カレンがルルーシュの元から離れたのを合図に、黒の騎士団たちが一斉に銃を向ける。去っていく背中に向かって、ルルーシュは最後に小さく呟いた。

「カレン、君は生きろ・・・。」

俺の代わりに、リリィを支えてやってくれ・・・。

彼女の笑顔が脳裏をかすめた。もう、あの笑顔を見ることはできないのだな・・・。

「撃てーーーーーっ!!!」

藤堂の声と同時に、ルルーシュへ弾丸の嵐が降り注ぐ。しかし弾丸を硬い何かが弾き飛ばした。
ルルーシュを守るようにして前に立ちはだかるのは、ロロが操る蜃気楼。突然現れたナイトメアにみんなが動揺する。

「大丈夫!?兄さんっ!」
「ルルーシュ!遅くなってすまない!助けにきた!」

聞き覚えのある声に、ルルーシュは大きく瞳を開いた。

「ロロっ!?それにライまで!?」
「兄さんは・・・僕が守るっ!!」

ロロはナイトメアでルルーシュを抱え、己のギアスを発動させる。ロロの横でライは、複雑な気持ちでそれを見ていた。確実に彼の命を蝕む力。ロロを止めることはできなかった。罵倒されても、ひどい言葉をかけられても、ルルーシュを助けたいというロロの想いが本物だったから・・・。



ああ、ぼくの知ることは、だれでも知り得るのだ。
ぼくのハートは、ぼくだけが持っている。
(ゲーテ/若いヴェルテルの悩み)



IC#76



ライはロロが指定した場所に来ていた。今の状況でランスロット・クラブに乗っての移動は厳しすぎる。ブリタニアのエンジェルズ・オブ・ロードが敵方の黒の騎士団のゼロの元を訪ねるのだ。きっとバレたら反逆罪だけでは済まされない。
ライは慎重に慎重を重ね、茂みに身をかがめながら迎えを待っていた。不意に空から現れたのは、一機のナイトメア。その機体はサザーランドジーク・・・。コクピットから降りてきた人物を見て、ライは茂みから姿を現した。

「貴公がロロの言っていた・・・。実際にお目にかかるのは初めてで。私はジェレミア・ゴッドバルド。エンジェルズ・オブ・ロードにして、日本を潰した熾天使、ライ・ルシフェル卿・・・。」

片方の目が機械に覆われている彼は、うやうやしく一礼した。彼の顔と髪の色を見て、ライはとある事件を思い出した。

「あなたはもしかして、オレンジ事件の・・・ジェレミア・ゴッドバルド卿では・・・?確か、先の戦いの際に行方知れずと・・・。まさか黒の騎士団についていたなんて・・・。黒の騎士団には、ロロを含めて少なからずブリタニア軍側の人間が何人かいるということだな。」

ライの驚いた目が細められる。姿は少し変わったが、彼はまぎれもなくブリタニア軍にいたジェレミアだった。一体ルルーシュは、何人のブリタニア軍を自分の懐に取り込んでいるのだろうか?
ジェレミアはオレンジという言葉に少し眉をひそめた。その言葉は彼にとって不名誉なものであったが、彼はもう何も気にしてないようだった。ライの顔を真っ直ぐ見て、ジェレミアは言った。

「私はマリアンヌ様の子供であるルルーシュ様に忠誠を誓ったのです。あなたがクラエス様の忘れ形見であるリリィ皇女殿下に、忠誠を誓ったように・・・。」
「確かに僕はリリィに忠誠を誓った。だけどリリィがブリタニア側である限り、僕もブリタニア側だ。今回はロロとリリィのために来たんだ。2人にとって、ルルーシュは大事だろう?」

ライの言葉にジェレミアは、「ロロやリリィ様にとっても大事だが、私たち黒の騎士団にとっても・・・」と付け加え、仕草でサザーランドジークのコクピットに乗るよう促した。
狭いコクピット内で、ライは景色を見ながらジェレミアに尋ねる。

「ロロから電話をもらった時、ルルーシュの叫び声が聞こえた。必死にナナリーの名前を呼んでいたような気がする・・・。ロロも凄く焦っていた様子だったけど・・・ゴッドバルド卿、一体何があったんだ?」
「枢木スザクが撃ったフレイヤに、ルルーシュ様の妹であるナナリー様が巻き込まれました。これから私は、貴公をロロのところへ送り届けたあと、ルルーシュ様の代わりにナナリー様を捜索に行くのです。あなたにはルルーシュ様のそばにいていただきたい。」
「・・・な、ナナリーが・・・巻き込まれた・・・!?」

ひやっとした汗が背中を流れた。彼女の笑顔が一瞬思い浮かび、目の前が真っ暗になって立ちくらみがする。頭を抱えてライは言葉を絞り出した。

「なぜ僕が、ルルーシュのそばにいたほうがいいと・・・?」
「ロロから聞きました。あなたはギアスを持っており、ゼロとルルーシュ様の正体を知っている。ルルーシュ様には、弱さを見せることのできる相手が必要です。貴公が適任かと・・・。本当はリリィ皇女殿下のほうがいいのでしょうが、ゼロの正体を知られるわけにはまいりません。」

ジェレミアはライを見らずにそう言った。そのまましばらく、何も会話のない時間と外の景色だけが流れていく。
次にジェレミアが口を開いたのは、ちょうど目的地に着く頃だった。

「ルシフェル卿、私はルルーシュ様にご自分の意思を貫いてもらいたい。あなたにルルーシュ様を任せたい。同じギアスを持つ者同士・・・」
「傷を舐め合えというのか?」
「いいえ。ギアスという能力は、王を孤独にすると聞きました。ルルーシュ様は今、孤独の中にいます。ぜひともあなたが、彼を支えて欲しいのです。例えそれが、ブリタニアに属するあなたであっても・・・。ルルーシュ様を・・・立ち直らせて欲しいのです。」

ナイトメアが空を飛ぶ斑鳩に着陸する。ハッチが開き、ジェレミアの目が「行け」と言っていた。

「ゴッドバルド卿。僕の言葉で、ルルーシュが立ち直ると思いますか?」

サザーランドジークから降り、不意にライは尋ねた。

「それはおそらく、あなた様の言葉次第です。」
「それならば、協力するのに条件がひとつ。・・・ナナリーを全力で探して欲しい。頼みます、ゴッドバルド卿。」

ライの言葉にジェレミアが少し笑った。「もちろんです」と返答し、ハッチが閉まる。サザーランドジークはすぐに空高く飛び去った。そのままライは人目をかいくぐり、目的の部屋へと走っていく。この前来たばかりで、部屋の場所はまだしっかり覚えていた。

(ブリタニア軍属の僕が、またこの場所に来るなんて・・・。)

またリリィを裏切ってしまったな・・・ライはそう思った。
部屋の近くまで来ると、ライは扉の前に立ち深く深呼吸する。それと同時に、ルルーシュの鋭い声が飛んだ。

「どうしてお前が持っているんだ!?これはナナリーにあげるつもりだったんだよ!お前なんかが、ナナリーの代わりになるものか!この偽物が!!」

ルルーシュは力一杯ロロの携帯を床に叩きつけ、その大きい音にC.C.がそばで怯えた。叩きつけた衝撃で、携帯につけられた白いロケットが開き、ゆったりとしたオルゴールが流れる。ルルーシュは低い声で言葉を続けた。

「まだ気づかないのか?俺はお前が嫌いなんだよ。大っ嫌いなんだよ!何度も殺そうとして、ただ殺し損ねただけだ!」

ルルーシュの言葉に、同じアメジスト色をしたロロの瞳が揺らぐ。

「にい、さん・・・?」
「出ていけ!今すぐ出ていけっ!!!」

尋常じゃないルルーシュの叫びに、ライは急いで扉を開けた。バンっという音で、我を忘れたルルーシュと瞳を揺らすロロ、ルルーシュの怒鳴り声に震えるC.C.が一斉にライの方を向いた。ひどく傷つき、泣きそうな顔のロロがライの視界に入る。

「・・・ライ兄さんっ!」

小さく叫んだ彼の言葉が合図になった。反射的にライは大股でルルーシュのほうへと歩き、間髪入れずに彼の頬を引っ叩いた。パシン!・・・という、乾いた音が部屋の中に大きく響く。

「お前は僕の大事な弟を、今までずっと殺すつもりでいたのか?利用するだけ利用して、殺そうとしていたのか?・・・最低な奴だな・・・。」

ルルーシュのアメジスト色の瞳は動揺したように激しく揺れ動き、静かな怒りを携えたライの両眼には、燃えるようなギアスのマークが現れているのだった。


* * *


「結局、分かっていなかったんです。どんな被害が起きるかなんて・・・。フレイヤの開発に反対してた、リリィ様の言う通りだった・・・。」
「ニーナ君、君は決めなければならない。科学を捨てて心を守るか、心を壊して科学に準ずるか・・・」
「・・・そんなこと・・・。ロイド先生も選んだんですか?」
「僕は元から壊れてるからね。それくらいの自覚はあるんだ。」

薄暗い格納庫で、彼は少しだけ笑い、ニーナを見て答える。
フレイヤという恐ろしい武器の真の力を見てしまって、ニーナは体を震わせながら呟いた。

「あたしが作ったフレイヤが、あたしが殺したんだ・・・。みんな、みんな・・・!」

ニーナが泣き崩れる。リリィたちがせっかく復興させていた租界、ゲットー、エリア11を・・・自分が壊してしまった。フレイヤの脅威を訴え続け、開発に反対していたリリィやエリア7の意見も聞かずに、自分の研究に没頭してしまった。そして、彼女の最愛の人物に罪を背負わせてしまった。同じイレブンである、枢木スザクに。

「ごめんなさい・・・!リリィ様・・・!」

彼女は顔を覆って赤い髪の皇女に許しを乞うのだった。




祈れない。 祈りたいと願う心は意志に劣らず強くとも
意思よりさらに強い罪が意志をくじく。
(シェイクスピア/ハムレット)




My teacher!



私は今年、城聖大学で4年生を迎えた。ゼミは変わらず竹内ゼミ。依子ちゃんと一緒で、他に同じ学年のゼミ生はいないのはおろか、後輩すらいない。他の先生に竹内ゼミだと言うと、少し煙たがられる。竹内先生って、そんなに嫌われてるのかなって、ちょっと不思議に思う。依子ちゃんは、竹内先生にぞっこんなんだけど・・・。

美和ちゃん、竹内先生のとこ行こ!無事に進級しましたーって、報告しなきゃ!」

浮き足だっている依子ちゃんに苦笑しながら、私は一緒に研究室に向かった。

「せんせぇ~、安野と美和ですぅ~!」

猫なで声で依子ちゃんが言った。中でゆらりと影が動いて、ドアが開く。依子ちゃんがすかさず部屋に入った。まだ「入っていい」とは言われてないのにな・・・。
竹内先生のため息が聞こえて、私は先生を見た。ちょこちょこと手招きしていたので、私も依子ちゃんに続いて部屋に入った。
乱雑に積まれた本の山。古い資料とかもあって、少し埃臭い。
「せんせえー、掃除しましょうよ。」なんて、依子ちゃんの声がした。
依子ちゃん、本題を忘れてる・・・なんて思ったら、背を向けていた先生が振り返った。

「安野、すまないが学生課に行って、届いた資料を取ってきてくれないか?」
「えー!?私がですかぁ~!?」

ムスッと依子ちゃんは拗ねる。
「じゃあ私が・・・」そう言いかけるのと同時に、先生が口を開いた。

「頼りにしているんだ、安野。」

それは魔法の言葉。いつもこの言葉で依子ちゃんの機嫌が直る。
ブツブツ文句を言いつつも、彼女は部屋を出ていった。ここから学生課までは少し遠い。しばらくは帰ってこないな・・・。

「やっとうるさいのがどこかへ行ったな。おいで、美和。」

先生は依子ちゃんが部屋を出たことを確認してから腕を引く。そのまま先生の胸へおさまった。何度も髪を撫でられる行為が心地よい。

「先生、私と依子ちゃん、無事に進級できましたよ。」
「それは少し残念だな。美和とはもう少し長くいたいのだが・・・。」

平気でそう言う先生の胸を、私は軽く叩いた。先生は軽く笑って「すまない」と謝る。
私と先生がこんな関係になったのは、依子ちゃんが先生に惚れる前からだった。依子ちゃんはこの事実を一切知らない。

「先生、知ってます?依子ちゃん、先生にぞっこんですよ?」
「それを知っていながら、安野に私との関係を言わない美和も、相当な大物だな。」

先生が抱きしめる力を強めた。
「どんなことがあっても、私を離さないつもりのくせに」と呟くと、先生は何も言わず私の肩に顔をうずめた。
依子ちゃんには悪いけど、私も竹内先生が大好きだ。ずっとずっと、一緒にいたい。
私は先生の背中に手を回して、静かに目を閉じた。なんて幸せな時間なんだろう・・・。このまま時間が止まってしまえばいいのにな。

「先生、大好き。」
「こういう時は、『愛してる』って言って欲しいのだが・・・。」

先生は私に、優しいキスをくれるのだった。


命をかけてもいいくらい



一般患者が過ごす部屋から少し離れた小部屋。ここには誰も近づかない。それがこの病院での暗黙のルールなのだから。


深夜に近い時間帯。
宮田は白衣のまま、ある場所を目指していた。カツンカツンと靴音が響く。一般患者の病室から、少し離れた部屋の前で靴音止まった。

美和、起きてるか?」

部屋のドアを開け、小さく名前を呼ぶと、ベッドで眠っていた人物がゆっくり起き上がる。窓から差し込んだ月の光が彼女の顔を照らした。

神代美和

神代亜矢子の妹であり、美耶子の姉。
治らない病におかされており、神代家からほぼ見放されている。それは病にかかっていることも原因だが、もっと他に原因がある。
美和は亜矢子や美耶子よりも幻視などの力が弱く、村の権力者である神代家にとっては痛い存在だった。
普通の人間と変わらない美和は、半強制的にここに入院させられているのだ。美和が入院してから神代家は、まるで彼女が最初からいなかったかのように振る舞っている。宮田はそんな神代家が馬鹿だと心の中で笑った。
美和は意図的に力がないようなふりをしているだけなのだ。
元々神代を嫌っていた美和は、そうすることで家を離れることに成功した。実際の美和の力は、一番力が強いとされる美耶子よりもはるかに強いのだ。

「宮田先生、今日はずいぶんと遅い訪問ですね。」

美和が目をこすりながら宮田を見る。月の光に照らされた美和は美しかった。
宮田はそんな彼女を見ながら、神代は本当に馬鹿だなと、再び罵る。ここまで美しい娘など、そうそういない。みずから美和を捨てた神代。もしも彼らが美和を返してくれと言っても、宮田は絶対に返さないと誓っている。

目をこすり続ける彼女のベッドに腰をおろし、そのまま美和を抱き寄せた。
首筋に顔を埋め、呼吸をすれば芽衣の香りがする。それは宮田にとって、一時の至福。美和はすぐに微笑んだ。

「今日の宮田先生、すごく甘えん坊。」
「仕方ないだろ。疲れた時にはこうするのが一番いいんだから・・・。」

普段敬語の宮田も、美和の前では素の自分に戻る。美和はそんな宮田をちゃんと受け入れてくれている。羽生蛇における宮田の存在も、ねじれた愛情を受けて育ったことも、全部・・・。
宮田にとって、美和は大事な大事な存在である。そう、牧野にとっての比沙子のような存在。

「先生、少し頑張りすぎなんじゃ?お医者さんの仕事も、宮田の仕事も・・・」
「文句なら、宮田を働かせる神代と教会に言え。」

宮田は靴を脱ぎ、美和のベッドに上がった。二人分の体重が乗ったベッドが、ギシリと音をたてる。
美和は眉間に皺をよせて言葉を吐いた。

「本当、神代の家は嫌い。自分たちは手を汚さず、他の人に手を汚させるなんて・・・。」
「仕方ないさ。神代はこの村の権力者だからな。神代自身が手を汚すのはまずいのさ。」

宮田はそう告げてから、美和の腕を引っ張った。彼女の体がベッドに沈み、宮田は馬乗りになる。

「そんなことよりも、今夜、付き合ってくれるか?」
「もう。本当にいけないお医者さん。先生、明日も仕事でしょ?」

美和は下から宮田を見る。彼は少しだけ口の端を上げ、美和に覆い被さって答えた。

「残念ながら、明日は休みだ。なぁ美和、お前はいつまで俺のことを『先生』って呼ぶつもりだ?」

宮田は優しく美和の頬を撫でた。ゆるりと彼女の表情が和らぎ、赤い唇が名前を紡ぐ。

「司郎さん。」

それを合図に、宮田は激しく美和の唇を奪った。
宮田にとって、美和は本当に大事な存在。自分の命をかけてもいいくらい・・・。
あぁ、こういう存在のことを、なんて言うんだったっけな。

「ねえ司郎さん。私達、恋人同士?」

美和の濡れた唇が言葉を紡ぎだす。肌に触れながら宮田は優しく笑った。
そうだ、恋人同士っていうんだったな。
宮田は頷いてから、再び美和の唇を奪うのだった。